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第一回 英国のEU離脱に伴う金融情勢の変化

 四日市市民文化部・文化国際課が主催する四日市市民大学は、昭和53年にスタートし40年間続いています。全体で6コース設定されていますが、三重大学は人文学部が「21世紀ゼミナール」というコースを平成18年度から企画・運営して11年目です。本コースは人気が高く、平成29年度も60名の定員を上回る参加申込がありました。

 今年度は、コースにおける統一テーマを「不確実性時代の始まり」と設定しました。英国の欧州連合(EU)離脱決定、米国トランプ大統領の就任など、不確実性という言葉がこれほど似合う時代はないと言われています。混迷する世界で日本はどんな役割を果たせば良いのか、講師の方々の見解を専門的立場から説明して頂きます。

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 第1回目講師は、岡三証券㈱グローバル金融調査部の杉山賢也部長で、テーマは「英国のEU離脱に伴う金融情勢の変化」でした。

 2016年6月に英国はEU離脱を決定、2017年1月に米国ではトランプ新大統領の就任、2017年秋に中国党大会、EU各国での議会選挙と、世界は不確実性時代の始まりと言うイベントが続きます。ところが、下図に示します様に、政治の混乱どこ吹く風で米国の株式市場は堅調な推移を示しています。講師によれば、英国のEU離脱やトランプ新大統領の登場で、市場経済は大変なことになるのではと予想していたところ、予想外の展開となっているとのことです。

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 これは、米国では色々な新しいテクノロジーやサービスが生まれて来ているからであると講師は想定されています。これは、政治や政策の動きに左右されない、IoTやAI(人工知能)といった独自の技術やサービスを指しています。産業のコメ、すなわちデータを制するグーグルやフェイスブックといった企業が強みを発揮する時代となっているそうです。

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 その中、米国はB/Sの縮小に着手し、年内の追加利上げに加え、9月の会合ではバランスシートの縮小に踏み出す可能性も高まっているとのことです。また、欧州でも、出口に向けた動きを取り始めており、物価動向などを見極めながら、早ければ9月の金融政策会合で量的緩和の縮小に向けた決定を行う可能性もあるそうです。

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 一方、これら欧米の動きに対し、日本の動きはどうなのでしょうか。日銀は2012年12月に発足した第二次安倍政権の下、アベノミクス戦略の中で、2%の物価目標を掲げて、黒田日銀総裁による金融政策を進めて来ました。具体的には、2010年から取られていたゼロ金利政策に替えて、2013年4月からマネタリーベースの拡大による金融政策を、2016年1月からのマイナス金利政策を、更に2016年9月からは長期金利の代表である10年国債利回りを0%近辺に誘導するイールドカーブコントロール政策を推進しています。

 この様に、2%の物価目標達成は見渡せず、黒田総裁の任期切れが迫る中でも、超金融緩和からの出口議論は封印されたままです。

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 今後の世界経済の動向についてですが、米国はトランプ新大統領の政策期待は後退していのではと予測しています。米国社会の分断が広がり、市場ではトランプ離れの動きも出てきている様です。また、欧州ではドイツの動きが重要と講師は主張されます。やはり秋の議会選挙が焦点であり、反EUの動きにも歯止めも出て来ています。メルケル首相の求心力は足元では回復して来ています。講師は今後、中国の動向も重要と指摘します。秋の党大会が最大の焦点で、習近平は側近登用で権力基盤を強化しています。米中関係は対立を回避する方向で動いていくのではと予測され、本日の講義を終えました。