CO2の排出権と企業活動(その5)-自主参加型排出量取引制度・JVETS

 皆さん御承知のように、経済産業省では現在、義務型排出量取引制度の試行的実施を進めています。これは日本政府が主導する地球温暖化対策であり、2008年6月9日に当時の福田首相が発表した「福田ビジョン」の延長線上にあります。

 この試行では、経済産業省が2007年から実施している「国内CDM制度」と環境省が2005年から実施している「自主参加型排出量取引制度(JVETS)」の統合化が予測されています。しかし、焦点は、国内CDMのベースライン型排出権取引が国内で実施することが確定しているのに対し、JVETSのキャップアンドトレード型排出権取引を実施することが出来るかどうか、ということのようです。

 「国内CDM制度」は、前回説明しましたように、何もしなかった時に予想されるCO2排出量をベースラインとして、そこから実際のCO2削減量をクレジットとして認定するというものでした。

 一方、今回紹介する「自主参加型排出量取引制度(JVETS)」は、経団連環境自主行動計画の業界目標を排出枠化し、各企業へ割当てるキャップアンドトレード型の排出量取引制度です。飽くまでも自主参加型ですので、まだ義務化された制度ではありません。

 

 下図にキャップアンドトレード型排出量取引制度の概要を示します。各社はそれぞれが排出量削減目標を設定して、エネルギー消費を抑えるべく努力します。しかし、どうしても目標が達成できなくて、超過分が発生すると、商社または金融機関から超過分に見合う排出枠を購入します。このキャップアンドトレード型の排出量取引については、企業から反対の声も出ています。その理由は、CO2排出目標の上限が明確になり、それ以上のCO2排出は、新しい設備を導入したりすることの大きなコストとなって経営に跳ね返るからです。

画像の説明

 EUでは、2005年から世界で唯一キャップアンドトレード方式による取引が実施されています。これは義務型排出量取引制度です。日本で反発が多いのに、なぜEUでは導入できたのでしょうか。これは、排出枠の交付に当っては、過去の排出実績を基に配分する方式を取っていることと関係があるようです。

 日本は、1997年の京都議定書が制定されるまでに、かなりの部分までCO2の削減を行ってきました。一方、EUはまだ十分に努力分が見込まれる状況での議定書制定であったということです。

 この様に、日本はキャップアンドトレード方式に対しては、嫌な思い出があるために、これ1本で行くというのではなく、ベースライン方式との組合せを考えている訳です。しかし、東日本大震災の影響もあり、エネルギー事情が大きく以前と異なり、CO2排出量の多い火力発電等がまた実施され始めました。従って、表面的には排出量取引制度の実施は遅れているように見えますが、皆さんどう思われますか。



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