日本のエネルギー問題(その9)-大型蓄電池開発は日本の正念場

 太陽光は資源量としては大量に存在していますが、夜間に発電できないこと、曇りや雨の日は発電量が下がることから、電力需要の変化に対して、発電量を自在に調整することが出来ない事が大きな問題でした。

 この問題を解決するための1つの方法が、太陽光発電でつくった電力を「蓄電池」と組合わせて上手く活用することなのです。蓄電池と組み合わせれば、不安定な再生可能エネルギーもかなり導入が進むと考えられています。その意味で、大型蓄電池が開発されるか否かは、日本にとって正に正念場と言えます。

 現状での蓄電池の開発状況ですが、携帯電話など大きな電力が必要とされない小型のものは実用化されています。また、電気自動車の電源としては、大容量化が進んでいます。しかし、それ以上の大型化となると、まだまだ開発は遅れています。問題は何なのでしょうか。

 下図は学校、役所、公民館、ビルなどの施設を対象に開発された公共・産業用リチウムイオン蓄電システムの例です。メーカーはパナソニック、蓄電容量は15kWhrで価格は何と10,000万円でまだまだ高価な商品となっています。

公共・産業用リチウムイオン蓄電システム

 蓄電池にも様々な種類がありますが、最も期待されているものは「リチウムイオン電池」です。このリチウムイオン電池の長所は、小さくて軽い割には多くのエネルギーを貯められることと、他の蓄電池に比べて劣化しにくいことです。

 通常の蓄電池は、化学反応によって電力を生み出します。その際、望ましくない副生成物ができ、これが蓄電池の劣化の原因の1つとなります。一方、リチウムイオン電池については、厳密には化学反応が起きている訳ではありません。飽くまでも、リチウムイオンが炭素素材とコバルト酸リチウムの間を行ったり来たりしているだけです。このため、副生成物ができず、そのぶん長寿命となるのです。

 このリチウムイオン電池の大型化に当っての課題は何なのでしょうか。リチウムイオン電池の材料として、希少な金属であるコバルトが使われることにより、高価になることです。

 蓄電池を導入することの利点について、石垣島での蓄電池を導入した場合の電力需要の変動と自然エネルギー(太陽光発電、風力発電)による発電量の変化、蓄電残量、ディーゼル発電の発電量を計算したシミュレーション結果(東京大学・富田教授)がありましたので、それを紹介します。

 石垣島とその周辺の島々は、沖縄本島のグリッド電力網によらない独立した電力網を持っています。それは、石垣島のディーゼル発電で発電した電力を、西表島など周辺の島に、海底ケーブルを通して送電しています。

 この様な石垣島が蓄電池を装備した場合の条件が下記となります。
・ 石垣島では、1日に必要とされる電力量は80万kwhr。
・ 蓄電池の容量は40万kwhr
・ 太陽光発電の発電能力3万kw
・ 風力発電の発電能力1万kw

 下図は、1年間のシミュレーションの結果のうち、7日分のグラフを描いたものです。もし蓄電池がなければ、自然エネルギーによる発電量と需要量が刻々変化して行くのに合わせて、ディーゼル発電所の発電量を常に変化させなければなりません。しかし、蓄電池に充電、放電をさせて調整を行うことで、ディーゼル発電による発電量(黄色い線)をかなり一定に近付けることが出来るようになります。

1年間のシミュレーションの結果のうち、7日分のグラフ

 石垣島には、現在、2万2千世帯、4万5千人が生活しています。日本の平均的市町の世帯数に合致するので、今回のシミュレーションは非常に参考になります。石垣島に必要とされる蓄電池の容量は40万kWhrでまだまだ現状の技術では対応できるわけではありません。しかし、自然エネルギーと蓄電池を組合わせたシステムが、この様な場所から普及して行くのかも知れません。皆さんどう思いますか。

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