米国シェールガス革命の裏側(その1)-環境問題の発端

 コーディネーター’s blog No.34「シェールガス革命に沸く米国」では、今米国ではシェールガス革命が起こっており、日本もその恩恵を受け、エネルギー問題で新しい展開が起こるのではということを書きました。しかし、色々な情報を集めてみると、やはり環境問題が大きくなりつつある様に思えてなりません。

 シェールガス革命を推進する人々は、シェールガスはアメリカの奥地の人のいない所で掘削されており、環境の問題はないと言います。本当にそうなのでしょうか。

ガスランド

 最近シェールガスの掘削に伴う環境の破壊の重大性を扱ったアメリカのノンフィクションテレビ番組を入手しました。その番組のタイトルは、「ガス ランド」というもので、ジョッシュ・フォックスという若いアメリカ人が執筆、監督をしたものです。放送時期は2010年です。

ガスランド

 映像は、作者の次の言葉から始まりました。「私は常に、逆上とか、激怒とか、貪欲というものに負けない人々、物事を解決するに当り、我々が愛する物を破壊することをしない人々、そういう人々に多大な信頼を寄せていました。しかし、今回の件では落胆しました。」

 正に、人間不信を表す言葉ではないでしょうか。

ミランビレ




 作者は下図に示すペンシルバニア州のデラウェア川へ繋がる支流にあるミランビレという村に住んでいます。その土地は、マルセラス・シェールという大きなガス田に含まれる地区です。作者の父母が購入し、現在は作者が持ち主となっています。



 2009年のある日、作者の元へ天然ガス会社から一通の契約書が送られて来ました。シェールガスを掘削するために、作者の土地をリースしたいというものでした。作者がこの契約をすれば、所有する約8万平方メートル(東京ドームの約2倍)の土地のリース代金の他に別途、そのサインだけで1千万円支払うという条件でした。そこで作者は、この契約にサインすべきかどうかを判断するために、調査をすることにしたのです。この契約にサインをした人々の意見を得るため、作者はフラッキングが行われているペンシルベニア州の別の町に向かいました(下図参照)。

シェールガスの掘削

 そこで見聞きしたものは、誰もがこの件では苦い思いをしているというものでした。それからというものは、作者は、フラッキングが行われている場所に住む人々へのインタビューするために、アメリカ横断の旅へ出発して行くのです。この作者の訪問した州は、ペンシルベニア州から始まり、コロラド州、ワイオミング州、ユタ州、アーカンソー州、ニューメキシコ州、オクラホマ州、カンサス州、テキサス州等で、このドキュメンタリー番組は、10州以上の都市を巡り歩きした記録です。

ニクソンが締結した環境法

 そもそも、このシェールガス環境問題の発端は、作者が生まれた1972年に遡ります。当時のアメリカ大統領リチャードニクソンが、”クリーン・エア法"、 “クリーン・ウォーター法"、 "安全飲料水法” にサインをし、アメリカは環境立国を目指しました。当時、アメリカは、ニューヨーク市のハドソン川の汚染で飲み水が崩壊する問題が持ち上がっていました。しかし、この法案の成立により、人々は安全な生活を30年以上送ることが出来るようになったのでした。

チェイニー副大統領

 ところが、2005年にブッシュ政権下にあったチェイニー副大統領が、エネルギー法案を議会に提出し、1972年に成立した3つの法律について、石油およびガス会社がこの法律から免責になるという条件を通過させてしまったのです。その理由はアメリカ政府がエネルギー政策の核として、シェールガス開発を行うという方向に、大きく舵を切ることになったからでした。チェイニーは石油・ガス会社出身の人間でした。石油・ガス会社は、この免責条項を盾に環境問題を無視して、シェールガスの掘削をどんどん進めて行くのです。

石油・ガス会社の免責条項

 ところが、シェールガスを掘削するには、大量の水と596種類の化学薬品が使われます。大量に使用される水の量とはどれぐらいかと言いますと、1抗井当り1回のフラクチャリングで百万~7百万ガロンの水を使い、1抗井当り18回のフラクチャリングが行われます。しかも現在アメリカには45万の抗井が建設されているのです。トータルでは40兆ガロンの水を使用しているのです。1ガロンは3.785リットルですので、160兆リットルとなります。今東京都が年間に必要な飲料水の量は、1兆リットルですので、160年分がこれまでに使われたことになります。160兆リットルが如何に膨大な量であるかが分かります。

膨大な水量を使用

 今回私が感じるのは、アメリカにエネルギー革命を起こそうという夢を掲げ、石油・ガス業界出身のチェイニー副大統領が法律を変えてまでも、それを断行しました。しかし、それが環境破壊という火種を作りつつあることです。エネルギー革命と、環境保全をもっともっとバランスさせた形でやるべきではないのかと思いますが、皆さんどう思われますか。

コーディネーター's BLOG 目次