七十歳代黄金期への誘い(その4)…日銀による長期金利コントロールの是非

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 日銀の黒田総裁による国債の買い占めが2017年10月時点で40%に達し、この勢いで国債購入が続いた場合、2018年末には保存比率が50%にもなってしまうと予測されています。そして、国債買い占めの目的は、黒田総裁が10年物国債までコントロールしようとしているからだ、と言われています。

 また、日銀のETFの大量購入(約3兆円)で日経平均の4分の1を占めるまでになっています。こちらも日経平均株価の底上げを目論んでいるからだ、言われています。EFTとはExchange Traded Fundのことで、証券取引所に上場されているインデックスタイプの投資信託で、インデックスとは、日経平均株価やTOPIXのように、市場全体の値動きの方向性を示すものです。EFTは200種類以上上場されています。

 今回は、この黒田日銀総裁の戦略を少し詳細に追跡してみます。

 まず、これまでの安部政権の下での日銀黒田総裁の金融政策の枠組みを見てみます。

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・2012年12月に第2次安倍内閣が発足。
-大胆な金融政策の基本方針を提示

・2013年4月に黒田バズーカ1が発射されます。
- 長期国債購入の買入れ対象年限を40年債を含む全ゾーンに拡大
- 長期国債購入額は、グロスで月7兆円強
- マネタリーベース(日銀当座預金+日銀券残高)の拡大

  物価目標を達成するため、日銀は国債等を銀行から購入したり、銀行に資金を貸付したりすることを通じて、世の中に出回っているマネーの総量を調整しています。マネタ
リーベースの調整とは、この様な操作を通して、マネーの供給量を調整することです。

- ETF(インデックス型株式投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)の買入れの組み合わせ操作

 量・質ともに次元の違う金融緩和を行い、異次元緩和を実施しました。その結果、債券価格は上昇し、その結果金利は大幅に低下しました。特に10年国債利回りは、当時世界一低いレベルにありましが、更に下がって0.3%台となり、人類史上最低の金利水準になりました。これを契機に相当の円安株高、地価上昇が想定され、基本的に株式とは逆相関の関係にある債券価格は大幅に下落し、長期金利は上昇して行くはずでした。しかし、消費者物価指数は1%程度で2%に届かず、予想通りに行きませんでした。

・2014年10月に黒田バズーカ2が発射されました。
- 日銀による資産買入れ額を増やす。

 しかし、インフレ率は0%近辺で膠着、2%には程遠い状況でした。

・2016年1月2日にマイナス金利政策
- 銀行が日銀に預けている準備預金の一部に適用される金利をゼロにする。

 一般の預金金利まではマイナスにできないので、貸出金利の低下分は銀行が負担することになります。従って、マイナス金利政策下で貸出案件は増加しても銀行は利益が出せない状況となっています。マイナス金利政策は、従来の黒田日銀が行ってきたマネタリーベースを操作目標とする手法を改めて、金利を政策目標としたものに切り換えたことになります。

・2016年9月に金融政策決定会合開催
-日銀はこれまでの金融政策の総括的な検証と枠組みの見直し。

 これは、国債買入れがもう限界に近づきつつあるとの認識から政策の軸足を長短金利に移したもので、政策金利のみならず、10年金利、つまりは長期金利をもターゲットにしているところに特色があります。具体的には、当面は政策金利がマイナス0.1%に対して、10年金利を0%近辺で維持することを目指しています。いわば「10年金利の短期金利化」とも言える政策であり、世界にあまり類を見ない新たな金融政策の形態です。さらには、長短金利差を一定の枠のなかに収めるという「イールドカーブ・コントロール」を目指しています。現状では、10年金利も安定していますが、この新しい金融政策が中長期的に、どの程度の効力を有するかについては、今後、注目すべきです。この海図なき航路については、今後も見守っていく必要がありそうです。

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 こうした黒田総裁の金融政策に対して、朝倉慶氏は著書「暴走する日銀相場」の中で強く批判しています。

 その内容ですが、「本来、長期金利は景気の鏡と言われます。景気が良くて資金需要が上がって来れば上昇し、反対に資金需要が少なければ金利は下がるという様に、景気のバロメーターになってきたわけです。長期金利の動向を見ることで、景況感を測ることができます。その長期金利を日銀が自己都合で思う処に固定させるというのは、異次元を通り越して異常事態だ。」と言っているのです。

 しかし、黒田総裁サイドから見れば、「異常事態だからこそ、長期金利のコントロールまで踏み込んでいるのです。」という回答も出て来そうです。

 「日銀は最終投資家で、国債を誰に売るわけでもなく、償還まで持つしかありません。仮にインフレ目標が達成されて、日銀が国債を手放さなければならない時点では、インフレによって長期金利も上昇し、国債価格がさらに暴落状態になりますので、売れるわけもありません。日銀のマイナス金利政策と景気緩和による大量の国債購入の副作用として、日銀は加速度的に債務超過へ向かってまっしぐらなのです。」と言っています。

 しかし、ここのところをどうするのかが出口戦略なのですから、何等かのアクションを黒田総裁は取るのではないと見ています。

 出口戦略の1つとして、ヘリコプターマネーに関する提案があります。

 同志社大学北坂真一教授は、平成29年9月6日の日経新聞で、政府の債務残高を直接減らす方法として、日銀が保有する国債の一部を会計上の操作により、政府が日銀に永久無利子の債務を負う形に置き換えることを提案しています。

 この永久国債に従えば、国は、債務の償還や利払いをする必要はなくなり、政府債務は事実上消滅することになります。会計上、政府債務は日銀に資産として残りますが、日銀は勝手に売却はできないので、増加したマネタリーベース(資金供給量)は市中に残ることになります。これはまさに「ヘリコプターマネー」と言われる所以です。

 「ヘリコプターマネー」は、かつて、1969年に経済学者ミルト・フリードマンが理論化した有名な学説です。その後、ベン・バーナンキ前FRB議長が提唱したことで大きくクローズアップされるようになりました。

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 図は、ヘリコプターマネーの手順を示したものです。

step1. 日銀が、政府が発行した国債を市中銀行から買い取っている。
Step2. 会計上の操作により、政府が日銀に永久無利子の債務を負う形にする。
Step3. 政府すなわち国は債務の償還や利払いをする必要はなくなり、政府債務は事実上消滅する。
Step4. 会計上、政府債務は日銀に資産として残るが、売却はできないので、増加したマネタリーベース(資金供給量)は市中に残る。

 これはマネーを市中にばら撒くことに相当するので、ヘリコプターマネーとして知られます。このヘリコプターマネーが実施されれば、理論的には、インフレが起きます。そのインフレが日銀の目標である2%に収まるなら大成功ということになります。

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 世界経済が正常化に向かう今こそ、歳出、税収、債務の3つの面で政府が明確な方針を示し、着実に実行することで、財政の健全化は達成され、日本経済の展望が開かれます。安部政権がどこまで踏み込むのか見物ですが、皆さんどう思われますか。



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