七十歳代黄金期への誘い(その9)…投資におけるレバレッジ効果の活用

 ここからは少し投資におけるレバレッジ効果ということを考えてみます。どうしたら効率よくお金を儲けることができるかという話です。

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 2002年、今から16年前になりますが、今もテレビに出ているホリエモンこと堀江貴文という若き実業家(当時30歳)がいました。㈱ライブドアというインターネット、メディア、金融に関わるベンチャー企業を大きく開花させようとあらゆることをやりました。最後には、やりすぎて粉飾決算と風説の流布の容疑で逮捕されてしまいました。

 私も当時彼の講演を聞きました。彼の主張はこうです。「自己資本があっても借りられる状況にあるならば、徹底して融資を受けなさい。そして、自己資金はもっと効率の良い事業に投資したらどうですか。」というものでした。この言葉は、レバレッジ効果を最大限に生かしなさいということです。

 レバレッジ効果を示す式とその概念図を見て下さい。この式で重要なことは次の2点です。

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(1) レバレッジ倍率は、負債総額を自己資本倍率で割った値で決まります。従って、借入割合が大きい程、レバレッジの倍率が大きくなり、大きな利益を得ることができます。

(2) 投資対象の利益率の方が、負債利率よりも大でなければなりません。仮にマイナスになると、レバレッジ倍率分だけ損失が拡大し、大損をすることになります。

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具体的計算

 具体的に数値を当てはめてみるとこの式の持つ意味が良く分かります。

 今、3,000万円の不動産物件の価格上昇率10%が見込めて、銀行に借金をする利率5%よりも大きい場合を考えます。例え手持資金が300万円であったとしても、残り2,700万円を銀行から借りられるのなら、購入をした方が大きな利益を得られるというものです。

 すなわち、この例では、負債総額2,700万円を自己投資資本総額300万円で割った9倍という値が、レバレッジ(てこ)となって利益に効いてきます。この場合の最終的な投資者還元利益率を計算してみると、何と10%の事業利益率が50%に跳ね上がります。何とすごいことになります。

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 それでは、借りるだけ借りれば良いのかというと、これは色々な状況を考えなければならないと思います。その状況とは、

(1) この事業はどの程度継続する事業なのか。1年間で決着の付く事業なのか。それとも5年間位は続くのか。それとも10年間の長期になるのか、という点です。

(2) 融資に対する利息、すなわち、現在の金利が今後続くのか、場合によったら1年以内に利上げがあるのではないか、という点です。

 最悪の場合を考えてみます。当初予定していた事業利益率10%が経済の混乱等で3%と、借入の利息5%より低くなってしまいました。とたんに、今迄プラス側に大きく作用していたレバレッジ9倍が一瞬にマイナス側に大きく作用することになります。計算上ではマイナス8%と大きな損失を被ることになってしまいました。要は融資を受ける時の状況が何時まで続くのかという予測がポイントです。

 レバレッジ効果は、マネーが活躍する場では頻繁に現れます。いくつか具体例を挙げますと、

(1) 不動産投資

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 銀行からの融資を受け不動産などの大きな事業に投資をすると、その事業での利益率と融資の利息の大小関係は、事業全体の収益に対し大きなレバレッジ効果として現れます。

 現在日本はデフレ脱却のための金融緩和が行われています。更に、マイナス金利政策も進められており、銀行からお金を利息1.0%近傍の低利息で借入できます。事業に投資をするなら、今が一番ですが、その事業の回収が何年で行われるかも考えなければなりません。20年で回収という事業では、途中で金利が上がって来るので問題です。借入金利息と事業性の利益率とを天秤にかける必要があります。

(2) 株の信用取引

 株の信用取引は、現金や有価証券を担保として証券会社に預けることで、お金や株を借り、担保の約3倍の取引ができる方法です。この担保のことを保証金といいます。例えば、30万円を保証金として預ければ、100万円までの取引ができます。

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(3) 商品先物取引

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 貴金属や石油、農産物などの「商品」を、将来の一定期日に。あらかじめ決めた価格で売買する取引です。期日が来ても、実際は商品を受け渡さず、差額を決裁するのが一般的です。実際の売買代金の5~10%程度の証拠金を用意すれば、取引が始められます。商品先物取引では、手元資金の10~20倍のレバレッジが効いて、取引額の大きな商いが可能となります。

(4) オプション取引
 オプション取引は、デリバティブ取引の一種です。

 このデリバティブ取引は、株式、債券、金利、為替など原資産となる金融商品から派生した金融派生商品(デリバティブ)を対象とした取引のことを言います。主なものに、
・先物取引…将来売買する商品の売買条件をあらかじめ決めておく取引
・オプション取引…将来商品を売買する権利をあらかじめ購入する取引
・スワップ取引…金利や通貨などをあらかじめ約束した条件で交換する取引。これにはFX(外国為替証拠金取引)などがあります。

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 オプション取引とは、デリバティブの一種であり、ある原資産について、あらかじめ決められた将来の一定の日または期間において、一定のレートまたは価格(行使レート、行使価格)で取引する権利(オプション)を付与売買する取引です。オプション取引のレバレッジ率は30倍となるリスクの高い商品です。


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 ここまで幾つかのレバレッジ効果を利用した取引を見て来ました。左表にこれらをまとめて示しますが、リスクの高いものから、オプション、商品先物、仮想通貨、不動産投資、株の信用取引と続いています。

 レバレッジ効果を上手く活用して大きく投資をし、お金を稼ぐことは可能ですが、そこには大きなリスクが存在することを忘れてはならないと思いますが、皆さんどう思われますか。



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七十歳代黄金期への誘い(その3)…TOBによる企業買収攻防戦

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 ライブドアの堀江モンが、2005年2月から5月にかけてフジテレビを相手取って繰り広げた買収合戦については、当時、新聞紙上でも大きく取り上げられ、大きな話題となりました。私も、日経新聞に載るこの買収合戦の記事は、残り余さず切り取ってスクラップブックを作りましたので、その一部始終を紹介します。

TOBについて

 堀江モンとフジテレビとの買収攻防戦において、TOBという言葉が新聞紙上を賑わしました。ご承知の様に、このTOBとは、Take Over Bid の略語でありまして、M&Aを対象とする企業の株の公開買付です。公開買付とは、M&Aの対象となる企業の株を取得して経営権を握ろうとする場合に、不特定多数の株主に対し買付けを公表し、株式を買い集めることをいいます。

 通常、株式を購入するのは、証券市場内での取引で行われる訳ですが、これでは中々株が集まらないといった場合には、証券市場外で、新聞などで株券の買付けを公表して応募者を募り、株式を買い集めるTOBが行われます。但し、買付条件に魅力が無くて、予定の株式に満たない時には、「買付けを行なわない」という条件を付けられ、買収不成立時の損失リスクを回避できるなどのメリットを持ちます。またTOBには敵対的TOBと友好的TOBがあります。堀江モンとフジテレビの買収攻防戦は、敵対的TOBです。

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 今回の企業買収攻防戦では、ライブドアがフジサンケイグループをターゲットにしました。理由は何だったのでしょうか?

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 フジグループのニッポン放送はフジテレビよりはるかに小規模な企業でありながら、フジテレビ株を22.5%とフジテレビのニッポン放送株数12.4%よりも多いというおかしなねじれの構図が出来ていました。従って、ライブドアがニッポン放送株を50%以上取得して子会社化し、更にフジテレビ株を現在の22.5%から下記のステップで徐々に増やして行くことを考えました。
・ 1/3以上(33.3%)…特別決議の否決ができるようになる。
・ 1/2超(50%)…取締役・監査役の選任、利益処分など普通決議の否決、単独可決ができるようになる
・ 2/3以上(66.7%)…株主総会で定款変更、合併、営業権の譲渡などの特別決議の単独可決ができるようになる。

 この様に、ライブドアはまずニッポン放送を子会社化して、その次にはフジテレビ本体の買収を図ろうとした訳です。

 フジテレビもこのねじれの構図を修正するため、ニッポン放送株をTOBの方法で50%取得するということを考えました。これは友好的TOBです。そのTOB期間中に、ライブドアが突如35%の株式を一夜にして確保しました。どうやって手に入れたのかは、後でお話ししますが、フジテレビにとっては、自分の所が50%をTOBで買おうとしていた時に、ライブドアに35%も持って行かれたので、買付条件を50%から25%に引き下げざるを得ませんでした。理由は、25%に引き下げれば、ニッポン放送は保有するフジテレビ株の議決権を失うからです。すなわち、25%に引き下げればライブドアによる干渉を受けないからです。

 次に堀江モンが立会外の取引で、なぜニッポン放送の発行済株式の1/3超(35%)を取得できたのかを見てみましょう。

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 株式市場の規定で、通常の取引は立会内取引で行われます。しかし、立会外取引も可能で、立会内取引で決定した直近の終値などを基準に一定範囲内の価格で取引できるというものです。ライブドアはこれを狙った訳で、この朝の8時20分から9時00分の40分間の立会外の時間帯で35%の株式を確保してしまったという訳です。

 すなわち、ライブドアが大量の株を立会内で得ようとすると、株価はすぐに上昇して思うように買えません。従って、あらかじめ大量取引できる相手を捜して、立会外取引を利用して買えば、値段の上昇も無しに大量の株式が買えると考えた訳です。

 買収攻防戦の第一幕は、ライブドアの勝利に終わりました。ライブドアは35%のニッポン放送株を確保した訳です。そして、50%まで買い増して、ニッポン放送を子会社化し、次に、フジテレビの株式を買い増そうということに狙いを定めました。

 ここで、フジテレビ側の反撃が始まり、第二幕のスタートです。

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 フジテレビ傘下にあるニッポン放送は、60.8%に相当する新株予約権を発行し、これをフジテレビに与えるということを予告しました。これが実現すれば、ライブドアのニッポン放送株は15.9%に下がり、特別議決権の否決ができる様になる1/3(33.3%)を大きく下回ります。すべての権限を失うことになるわけです。

 当然ライブドアは裁判所に対し、ニッポン放送のフジテレビに対する新株予約権の発行による増資差し止めを求める仮処分申請を行いました。そして、地裁・高裁いずれも仮処分が決定され、裁判所が暫定的に一定の行為を命令・禁止する手続きが取られました。

 買収攻防劇の第二幕も、またもやライブドアの勝利に終わりました。

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 はたして、このまま、ずるずるフジテレビ側は負けて行くのでしょうか。ここに来て、ライブドアはLBOを駆使してでも、フジテレビを買収するという予想も出てきました。

 LBOとは、Leverage Buy Out の略で、「買収先資産担保借入による買収」などと言われています。すなわち、丁度、てこのように、買収対象会社の資産や将来のキャッシュフローを担保に、必要な資金の大半を外部からの融資などで調達して買収するところから、この様に呼ばれています。

 ライブドアがフジテレビの買収に必要な資金はいくらでしょうか。ニッポン放送は既にフジテレビ株の22.5%を保有しています。過半数を握るには、残り約28%が必要です。フジテレビの時価総額は7,200億円で、その28%を調達するには2,000億円が必要です。しかも、ライブドアが買い増しに出れば、フジテレビ株は値上がりし、必要資金はさらに膨らみます。ライブドアはニッポン放送株を取得する際に、転換社債型新株予約権付社債(CB)を800億円発行しましたが、それをはるかに上回る資金が必要となります。

 その様な莫大な資金を調達するためには、買収を狙うフジテレビの現金収支(キャッシュフロー)や資産をあらかじめ担保とし、資金を借り入れるLBOを用いざるを得ません。少ない自己資金でも、それをてこ(レバレッジ)にして巨額の資金を調達し、大企業の経営権を取得できるのが特徴です。この場合、調達資金は買収される企業の借入金になります。このため、過度の借入を背負うことになったり、買収合戦が過熱し、株価が上がった結果、コストが予想以上に掛かり過ぎて、買収に失敗する例もあります。

 結局、堀江モンはLBOを用いてフジテレビ株を買収することは諦めました。

 この状態で、一時膠着状態に入ります。すなわち、ライブドアとしては、ニッポン放送の子会社化が実現したので、これを何とかしようと動き出しました。一方、フジテレビはニッポン放送を再度取り戻すための手立てを考えるということになる訳です。

 ここからが第三幕の始まりです。

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 フジテレビ側にとうとうホワイトナイトが出現しました。非友好的な公開買付などを仕掛けられた標的会社が、友好的な別の会社を探し出し、その会社に依頼して自社を買収してもらうということが良く起こります。この様な標的会社と協調して友好的な買収を行う会社をホワイトナイトと言います。

 ホワイトナイトであるSBI(ソフトバンクインベストメント)が現われ、ニッポン放送が持っているフジテレビ株すべてを貸株という形で借りて、ニッポン放送とSBIとフジテレビの3者で共同ファンドを設立するという新しい事業を開始しました。これで、ライブドアにとってはニッポン放送を買収した意味がなくなりました。第三幕はフジテレビ側の勝ちで、ライブドアは負けとなりました。

 第四幕すなわち最終幕ですが、フジテレビとライブドアの資本・業務提携などで合意します。

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 合意内容は、フジテレビ・ニッポン放送が、ニッポン放送株50%の株式をライブドアより購入します。ライブドアの第三者割当増資の引き受け分の12.75%と合わせて、合計フジテレビ側からライブドア側への支払いは1,473億円となりました。ライブドアは1,473億円-800億円=673億円の儲けとなりました。

 当時、毎日毎日の新聞記事を読むのが、小説を読むよりはるかに面白かったことを思い出しています。皆さんはどんな風に思われますか。



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