投資家ソロスの足跡(その5)…フィランソロピスト活動に傾注するソロス的理由

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 「ジョージ・ソロス伝」を書いた越智道雄氏によれば、ソロスは「相場師」「哲学者」「フィランソロピスト(博愛主義者)」という3つの顔を持つと言っています。すでに本シリーズ(その15)で相場師の顔を、(その18)で哲学者としての顔を観て来ました。今回は「フィランソロピスト」としての顔を追いかけます。

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 フィランソロピスト(博愛主義者)としてのソロスの顔とは、「全体主義から脱皮しかけた旧ソ連圏」や「列強の植民地主義の収奪の痛手から立ち直れないアフリカ諸国など」に寄付をする慈善活動家としての顔です。これらの国々を対象とした理由は、すでに民主社会の恩恵に慣れた国の住民より、弾圧をはね返そうとする国の住民のほうが、自由のためには命がけになるからです。彼らは酸素を求めるように自由を求めるからでした。

 「全体主義から脱皮しかけた旧ソ連」について少し説明しておきます。

 そもそも全体主義とは、個人の利益よりも全体の利益が優先し,全体に尽すことによってのみ個人の利益が増進するという前提に基づいた政治体制を言います。一つのグループが絶対的な政治権力を人民の名において独占するもので、歴史的にはナチス・ドイツ,ファシスト・イタリアなどのファシズム政治体制があげられます。また、全体主義には、一党独裁,政権の不誤謬性(ふごびゅうせい:間違いを犯さない),議会民主主義の否定,表現の自由に対する弾圧,恐怖による警察政治,宣伝機関の独占,経済統制,軍国主義という共通点があります。旧ソ連も全体主義に近いスターリニズムを掲げていましたが、これを打破してソ連をオープン・ソサイエティ化することにソロスは奔走しました。

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 ソビエト連邦構成共和国の地図 1.ロシア、2.ウクライナ、3.白ロシア(ベロルシア)、4.ウズベク、5.カザフ、6.グルジア、7.アゼルバイジャン、8.リトアニア、9.モルダビア、10.ラトビア、11.キルギス、12.タジク、13.アルメニア、14.トルクメン、15.エストニア

 ちなみに、ソロスは自らのオープン・ソサイエティ財団を1984年にハンガリーに、1986年に中国、ポーランドに、1990年にルーマニアに設立しています。

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 また、「列強の植民地主義の収奪の痛手から立ち直れないアフリカ諸国など」についても寄付の対象としました。資本主義の発達とともに列強は,自国産業の原料獲得,安価な労働力の獲得,資本・商品市場の獲得,軍事的・戦略的要地の獲得,自国勢力範囲の拡大などを目指して,植民地の獲得,領有にしのぎを削りました。植民地主義はもともと先住民の犠牲において本国の利益をはかろうとするものであり,このため暴力的な手段と圧政は避けられません。この様な苦しい状況下にあったのがアフリカ諸国でした。最初に手をかけたのは南アフリカ共和国でした。

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 ソロスは、ユダヤ系の血を引いていますが、1944年ソロス14歳の時に、偽IDを使ってハンガリーで生き延びます。その後、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺を目の当たりにして、生まれ故郷ハンガリーを離れることを決定しています。ところが、この偽ID問題がソロスのフィランソロピストとしての顔に大きく影響しているのです。

 ソロスの祖父母は、ウクライナ国境に近いハンガリーの農村で暮らしていました。ユダヤ教徒では最も戒律を遵守する「正統派信徒」でした。一方、父のティヴァターは、新世代の「開明ユダヤ人」として、戒律遵守が最もゆるやかな「改革派」ですらない、ほとんど「非教徒」に近い存在でした。しかし当時のナチス・ドイツは、ユダヤ系殲滅を国是としていた狂言集団だったので、ユダヤ教の正統派であろうが非教徒であろうが、「血筋」によってユダヤ人を差別しました。ソロス14歳のとき、ナチス支配下のハンガリーの首都ブタペストにあって、父親ティヴァターの計略でキリスト教徒に化けました。

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 ナチス・ドイツは、アドルフ・ヒトラー及び国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP、ナチ党)による支配下の、1933年から1945年までのドイツ国に対する呼称です。社会のほぼ全ての側面においてナチズムの考え方が強制される全体主義国家と化した。ヨーロッパにおける第二次世界大戦が終結する1945年5月に連合国軍に敗北し、ナチス政権とともに滅亡しています。

 さて、「14歳時点でナチスの目を欺くべく、ユダヤ系ではなく一般のハンガリー人(キリスト教徒)に化けたこと」がソロスのフィランソロピスト活動へ傾注する要因でした。実は、ソロスにとって、単に偽装がユダヤ教への裏切りだったというより、自分を才能開発に有利なアウトサイダーでいさせてくれたユダヤ教を「偽装」によって否定した事実の方が重大だったのです。

 ユダヤ系のずば抜けた才能は、次の様に開発増殖されてきました。

(1) 1つは、差別によって狭いゲットーやシュテートルに閉じ込められ、狭い空間の有効活用法を開発せざるをえなかったことです。ゲットーとは一つの都市内にあってユダヤ人を強制的に収容した居住区域を言います。また、シュテートルとは東欧の小規模のユダヤ人コミュニティーでキリスト教徒の都市や村の中に作られた小都市のことです。

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(2) 1つはあらゆる有利な職業から閉め出されたことで、高利貸しや廃品回収業や化粧品や玩具製造その他の「隙間産業」の開発を強いられたことです。

 これらの結果、ユダヤ系は他民族から見れば「こいつら全員が天才か?」としか思えない存在となりました。特に、土地の所有を禁じられ、「土地から金銭を生む」ことができず、「金銭から金銭を生む」しか手がなかったため、ソロスが成功する投機の分野はユダヤ系の十八番と言っていいと思います。

 すなわち、ソロスの場合、それほどの「資産」を与えてくれたユダヤ教の立場を偽装したことへの罪意識がフィランソロピストとなって再現されたと考えられます。
 
 ソロスのお気に入りの言葉に「アヘッド・オブ・ザ・カーブ(グラフ曲線の先を行く)」の本当の意味は、「金儲けの先にあるもの=人生のゴール」ということでした。ソロス自身が株価のグラフ曲線を見ては、グラフの先を読み取る姿と重なるようですが、皆さんどう思われますか。



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