中小企業経営と向き合う(その4)…M&Aに群がるわが国中小企業のお家事情

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 昭和22年(1947)から昭和24年(1949)の3年間に生れた世代を第一次ベビーブームと呼び、この世代は3,000万人もおり、日本の人口1億2,000万人の1/4を占めます。この世代は現在68~70歳に差し掛かり、中小企業における跡継ぎ問題を引き起こしています。


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 今、中小企業の「大廃業時代」が2025年までに到来すると言われています。図に示す様に2025年(H35)には、社長の平均寿命が65歳~70歳になるのに、社長の交代率は4%と低いままです。中小企業は427万社ありますが、全体の3割に当る127万社で後継者が不在の状態となるそうです。事業承継の方法としては、 (1)譲渡、(2) 贈与・遺言、(3) M&A、(4) MBO、(5) 廃業、といった5つの選択肢がある訳ですが、その中で、M&Aが非常に大きな関心が寄せられています。

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 M&Aは、合併(Merger)と買収(Acquisition)を意味する言葉で、株式の譲渡や事業の譲渡、あるいは会社全部を譲渡する場合や、一部を譲渡する場合等、様々な形態があります。




 合併は、複数の会社が1つに統合されることを言い、吸収合併と新設合併の2つがあります。吸収合併は、一方の会社(存続会社)に他方の会社(被合併会社)が吸収されるというものです。我が国では、税金の納付が少なくて済むなどの理由から、ほとんどが吸収合併の形態を取っています。新設合併は、複数の会社が解散し、新会社を設立する合併をいいます。

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 一方、買収には2つの方法があります。1つは、対象会社の経営権を掌握する方法です。具体的には50%超えの株式を公開買付(TOB)などの方法で取得することです。もう1つは資産買取りで、これには取引関係や従業員、工場などの固定資産といった事業に欠かせないものをまるごと譲り受ける方法である営業譲渡と資産を限定して譲渡する方法があります。

 例えば、A社がB社の株式を買い占めます。そうすると、A社はB社の権限を握るオーナーの立場となり、B社はA社の子会社になるという傘下に入る形になるのです。

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 合併も買収もお互いのメリットを考慮して実行されます。会社を残すか否かという点、権力の差などで、形態が変ってきます。一方で共通点もあります。それは、「会社を統合する」点です。それに伴い、「新規で会社を立ち上げるよりも規模が大きくなり、かつ時間を短縮でき効率よく会社を経営できる」メリットがあり、これが共通点となります。 

 現在、中小企業においてはM&Aによる事業承継を行うことが最近盛んに行われています。後継者のいない社長にとって、従業員の雇用や顧客を守ることができ、そして事業を残すことが可能となるからです。加えて、現経営者は企業売却による利益を獲得することができ、円滑な引退を誘導することができるからです。

 一方でM&Aは、クロージングまで高レベルの秘密保持が求められます。万が一、M&A情報が漏洩すれば、従業員の不安感の増大とそれに伴う離職リスク、そして経営不安という風評リスクが営業活動に悪影響を及ぼすことが想定されるためです。

 また、M&Aを成功させる、すなわち「売れる」会社となるためには、企業としての魅力や価値を高める必要があります。更には、M&Aが実行された後においても、新経営陣による経営が、これまで培われてきた企業文化や風土と大きく相違すれば、従業員のモチベーションの低下を引き起こすリスクがあることも留意しなければなりません。

大廃業時代におけるM&Aの規制緩和

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 2017年末、「大廃業時代」に備え、政府が産業競争力強化法の改正案を国会に提出し、規制緩和に踏み切りました。高齢経営者の引退で多くの中小企業が後継者難などに直面する「大廃業時代」に備える意味合いもあります。

 1つ目の規制緩和ですが、買い手側の自社株を使ったM&Aに対する売り手側の会社売却益への課税優遇です。これまでは、自社株を使ったM&A(合併・買収)をする際には、買収される企業には、現金が入らないのに課税されてきました。これは、売却手法の選択肢を狭めてしまうことに繋がっていました。今後、規制緩和により会社売却益への課税が優遇されれば、買収や再編成を活発にして、経済の生産性を引き上げることが可能となります。売り手側にとっても売却意欲はもつと高まるものと考えられます。

 新興企業が台頭する際によく使われるのが、自社株を使ったM&Aです。日本の上位銘柄の入れ替わりは3割にとどまっているのに対し、米国では5割が入れ替わっています。政府は原因の1つに、自社株を使ったM&Aのしずらさがあると見て、ルール変更に乗り出すことにしたわけです。

 例えば、人工知能(AI)やビッグデータの鍵を握る半導体はM&Aが続いています。日本勢はソフトバンクグループの英社買収も、ルネサスエレクトロニクスによる米社の買収も全て現金で、株式を使う米国流とは違い買収のために大金を要した訳です。

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 2つ目の規制緩和ですが、子会社を含めた企業グループの経営を迅速にできるようにしました。これによって、親会社は完全子会社に切り換える手続きが、今より簡素にできるようにした改正です。親会社が少数株主から承諾を得ずに株式を金銭で取得できる条件を、現行の「10分の9以上」の保有から「3分の2以上」にしています。少数株主がいると、親会社がグループ経営を素早く進めにくい場合があり、折角の事業承継でのM&Aのチャンスがなくなります。少数株主の意見をまとめる手続きを簡素にし、迅速な経営判断をしやすくする狙いがあります。ただ、少数株主による経営監視の機能を損なわないか、などの課題も残っています。

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 3つ目の規制緩和ですが、事業譲渡の問題です。株式譲渡は単に株主総会の決議で話は終わりますが、事業譲渡では、株主総会の決議以外に許認可が壁になって、株式譲渡と違い事業を買った企業は、業種によっては許認可を取り直さなければならず、円滑な譲渡が進まない要因となっています。


 団塊の世代の大量引退時期を迎えて、事業承継マーケットはにわかに活況を呈し始めました。とりわけ、M&Aの買い手や仲介業者が続々と市場参入しており、事業承継を目的とした「M&A」の件数が激増しています。

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 親族・従業員への承継にせよ、第三者承継(M&A)にせよ、事業承継には時間がかかります。70歳までは何とか持ち応えようと漠然と考えていた経営者でも、最近は、向こう10年を睨んだ承継計画を策定するケースが増え始めています。そうなったのは、M&Aや廃業に対する抵抗感が薄まっていることも影響しています。

 中小企業の事業承継問題と中小企業のM&Aという2つの課題は、非常に深い関係にあり、一緒に考えていく必要がある様に思いますが、皆さんどう思われますか。



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