中小企業経営と向き合う(その6)…意義のある廃業を実現する

 中小企業経営と向き合う(その1)では、下図の事業承継の種類とフローチャートを示しました。そこでは、中小企業の社長に
(1) 事業継続の意思があるのか
(2) 後継者がいるのか
(3) 自社承継に必要な資金はあるか
の状況に応じて、譲渡、贈与遺言、MBO・M&A、廃業のいずれかを選択できることを示しました。そこで今回は廃業について考えてみます。

画像の説明

画像の説明

 金融機関にとって、経営者に対して「廃業されてはどうですか」とはなかなか言い出せないものです。理由は、企業への融資で金融機関は成り立っているので、その企業が廃業すれば、今後の取引がなくなってしまうからです。しかし、この姿勢は間違っていると思います。廃業を望んでいるのは、事業承継に悩んでいる経営者なのですから、金融機関はむしろ一緒になって、如何に廃業をやるかの相談に乗るべきなのです。廃業の案件が発生すれば、その分、創業の方で若い人達の支援をしてやれば良いのではないでしょうか。

 それでは、廃業する方向で動き出した時、一体何に気を付け、どうすれば良いのかについて調べてみました。まず、廃業する場合には、自分の会社の財務状況が健全であることが前提になります。健全であって初めて誰にも迷惑をかけることなく廃業できるのです。

画像の説明

 2018年1月27日に発売された「週刊ダイヤモンド」が廃業or承継についての記事を特集していましたが、その中に財務状況を的確に把握するためのチェックポイントが紹介されていました。大いに参考になりますのでそれを以下に示します。

ポイント1.回収見込みのない売掛金を計上していないか。例えば、倒産したかつての取引先の回収予定だった1,000万円を修正計上する場合です。
ポイント2.不良在庫を抱かえていないか。これは商品の在庫管理をちゃんとしていなかった場合です。
ポイント3.不動産について、環境変化で簿価より価値が下がっていないか。これは、バブル時代に買ったビルの価値が激減した場合です。
ポイント4.機械設備について、価値のない休眠設備まで計上していないか。すでに使わなくなっている設備は結構あります。
ポイント5.車両については、未保有の資産まで計上していないか。これは例えば処分した社用車3台分の価値を減額する等です。
ポイント6.有価証券については、紙くずになった有価証券を計上していないかです。

 更に、帳簿からは見えないチェックポイントが2つあります。

ポイント1.債務保証をしていないかです。個人や会社で連帯保証をしているケースは要注意です。
ポイント2.隠れ未払金はないかです。従業員への未払い金がある場合や退職給付金の積み立てをしていない場合は要注意です。

 資産超過から事実上の「債務超過」に転落した場合には、そのまま廃業すると倒産になってしまうので、注意しなければなりません。債務超過とは、債務が資産を上回っている状態であり、保有している資産を売り払っても、借金を完済できない状態です。これは倒産状態に陥ったとみなされます。

画像の説明

画像の説明

 利益剰余金が適度に確保されておれば、これを利用して債務を処理し、会社を閉じることになります。なお、会社を閉じるには、顧問税理士にお願いすることとなりますが、その処理料は100万円ぐらいを予定しておく必要があるようです。一般に、廃業や事業承継の手続きは、1~数年を要します。常日頃から会社磨きを続けていれば、自分がどんな決断を下すにせよ、有利に事を運ぶことができるはずです。廃業を選択する場合には、従業員が路頭に迷うこと、取引先の信用も失うこと、があるので、早めの決断こそ最善の策です。特に、従業員20名以下の小規模事業者の場合には従業員の転職先の面倒を見ておくことは重要です。

 かくいう私自身も、この事業承継問題に直面していますので、実例として廃業の問題をどの様に考えているかを紹介します。

 私は1948年(昭和23年)2月生まれで、2018年(平成30年)2月で丁度満70歳を迎えます。団塊の世代は昭和22年、23年、24年生まれの3年間を指しますので、ど真ん中の年に生まれました。この年代でおよそ3,000万人おり、いつの時代も競争、競争の明け暮れでした。1973年(昭和48年)4月に25歳で鉄鋼メーカーに就職し、中央研究所配属になりました。35年間勤め2008年(平成20年)3月に60歳で定年退職しました。一方、私の妻は1952年(昭和27年)1月生まれで、私より4歳年下の現在66歳です。

画像の説明

 サラリーマン時代の1979年~1980年にかけてアメリカのスタンフォード大学へ留学する幸運に恵まれて、妻と当時5ケ月だった長女を連れて1年半ほど海外生活をしました。妻は結婚前、観光会社に勤務していましたので英会話が上達する機会が得られたと大喜びでした。妻は、海外生活をしていた当時から、日本に帰ったら英会話教室を起ち上げる決意をしていた様です。1980年6月に帰国しましたが、すぐに学研のフランチャイズ教室を開始しました。軌道に乗って来た9年後の1989年(平成元年)には、今度は自分自身で塾運営をしたいと言い始め、有限会社Cを起ち上げました。社長は妻です。私はサラリーマンであったこともあり副業は禁じられていましたので、無報酬の取締役という名義貸しの位置付けでした。

画像の説明

 以降、有限会社Cは現在に至りますが、私の方は、会社を2008年に定年退職した後は、サラリーマン時代の1999年(平成11年)に取得した中小企業診断士の資格を生かして、コンサルタントの仕事を有限会社Cの一部門として始めました。従って現在、有限会社Cは、塾運営とコンサルタント業務と不動産管理の3つの領域をカバーしています。

 正直、有限会社Cの経営は、私の第二の人生と言っても過言ではありません。しかし、私が70歳、妻が66歳になり、事業承継のことを考える時期となりました。我々夫婦には長女と長男がいますが、長女は岐阜県へ嫁ぎ、長男も大阪の上場1部の化学会社に勤務しています。この様に、現在のままでは有限会社Cは、あと数年の間に廃業せざるを得ないというのが現状です。

画像の説明

 そこで、顧問税理士に相談をして、下記に示すステップで廃業することに数年前から準備しています。

Step1. あと何年で廃業するかを概算しておきます。 75歳までは現役生活を続ける予定ですが、あと5年あります。この間に廃業のための諸準備を完了させる工程を立てておきます。
Step2. 廃業のために必要な資金約100万円を別途確保しておきます。これは積立てが良いと考えています。これは既に確保してあります。
Step3. 廃業に当ってのチェック表に従い、財務諸表上の6つ、帳簿外の2つのポイントを確認しておきます。
Step4. 有限会社Cに個人的に投入した投資金1,200万円(自動車、不動産の購入に使用)は、返済計画をつくります。毎年150万円づつの返済を考えています。最後に残ればこれは諦めます。これまで十分に元を取って来たと考えるなら諦めがつきます。

 基本的には廃業ですが、ただ長女または長男が何等かの事情で後を継ぐことになった場合には、それも選択肢の一つに考えて心の準備をしていますが、皆さんどう思われますか。



コーディネーター's BLOG 目次