中小企業経営と向き合う(その7)…手形トラブルに見られる人間模様

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 会社が倒産するときには、会社が経済的に破綻し、
(1) 手形不渡り事故が発生するか、
(2) または、負債が資産よりも多い、いわ ゆる債務超過となるか、
の客観的な事実が認められます。こうなると、経営者に常態での経営意思の放棄(喪失)がみられる状態となり、通常、倒産したとみなされます。

 会社が、経理上の損益が欠損であろうと(この場合は赤字倒産)、あるいは利益として数字が出ていようと(いわゆる黒字倒産)、主として資金に行き詰まった場合には、支払いができなくなり(支払停止)、不渡り手形を出すことになり、倒産にいたりますので、注意が必要です。また、債務超過では、保有している資産を売り払っても、借金を完済できない状態なので倒産にいたります。

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 世の中の倒産に関わる事例を見ていると、どうも手形によるトラブルが中心となっています。ここで少し手形について、基本的な事柄を確認しておきます。

 手形とは、「代金はいついつまでに必ずお支払いします。」と約束した証書です。商取引に用いる手形には、「約束手形」と「為替手形」の2種類があります。一方、融通手形というものもあって、決済を必要とする現実の商取引がないにも関わらず振り出される手形があり、商業手形の対義語として使用されます。すなわち、自己の信用を利用して、他人に金融の道を開くために発行される手形が融通手形です。

 手形とよく似た証書に小切手がありますが、小切手の場合はあくまで現金を持ち歩く代わりに振り出すのが主な目的となっており、銀行に預けてある当座預金の残高の範囲内の金額で振り出すことが可能です。

 「約束手形は、代金を支払う企業Aと代金を受け取る企業Bの2社間で取り交わす手形です。

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1. 企業Aは企業Bから商品を購入します。
2. 企業Aが企業Bに約束手形を振り出します。
3. 企業Bは銀行に受取った手形を呈示して、支払期日に代金を受け取ります。

 約束手形は下図のようなもので、左上欄には「受取人」である「企業B」を記載するため、「企業B」が名宛人と呼ばれます。

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 一方、為替手形は、代金の支払いを依頼する企業A(振出人)と、代金を支払う企業C(名宛人・支払人・引受人)、代金を受け取る企業B(指図人・受取人)の3社間で取り交わす手形です。

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1. 企業Aは企業Bから商品を購入します。
2. 企業Cは企業Aから商品を購入します。
3. 企業Aが企業Cに為替手形(企業Cから企業Bへの代金支払いに使用)を振り出します。
4. 企業Bは銀行に受取手形を呈示して、支払期日に受け取ります。

 他から受け取った融通手形を、他に譲渡する場合には、手形の裏面に譲渡人の署名をし、それに続いて譲受人の名前も記載するといった、手形の裏書きが行われます。従って、手形が決済できなかった場合には、裏書き譲渡人は代わりに支払いをする義務が発生します。これは、「この手形を譲渡しますから、決済の代わりにして下さい。勿論、この手形が支払期日に支払われることを私は確約します」という約束をしていることになります。従って、下図でC社が支払不能に陥って不渡り手形を出し、裏書き譲渡したA社も支払不能に陥ると、C社に続いてA社も不渡り手形を出したことになり、連鎖倒産が発生します。これは良くある話です。

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 手形の割引きとは、受け取った手形を銀行へ持って行って、現金に交換してもらうことです。但し、手形を振り出している会社の信用度により、割り引いて貰えなかったり、割り引いて貰っても手数料を多くとられたりすることもあります。

 手形のジャンプとは、振出した手形の支払期日の延期を手形の所持人に要請し、了承を得た上で手形の支払いを延期することです。手形のジャンプは、手形所持人が金融機関に対し、手形の呈示をする前に行う必要があります。この部分で色々なトラブルが発生します。

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 ところで、かくいう私も、倒産の例を幾つか見て来ました。多いのは、不渡手形を掴まされて手形決済ができず、銀行からも借入を拒否されて連鎖倒産する場合です。また、私自身顧問契約していた会社が倒産し、顧問料を支払ってもらえなかった経験もしました。これは裁判所からその旨の連絡葉書が来るのみでした。

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 税理士の真田新之助著「たいしょうの秘密」という本に、私とほぼ同様な状況で起っている事例がありましたので、これを紹介します。
① 矢野工業への買掛金に対し、服部製作所はいつも現金で精算していました。
② 今回は、服部製作所の都合により、一部手形にしてほしいと依頼されました。
③ しかし、 矢野工業は現金が入ると想定して全ての資金繰りを考えていました。また、悪いことに服部製作所の手形は銀行で割り引くことができませんでした。
④ そのため、 矢野工業は手形決済資金が100万円ほど不足することになりました。
⑤ そこで、 矢野工業は真田税理士の処へ相談に行きました。真田税理士は常日頃懇意にしていることもあって、その手形を預かって100万円を貸しました。
⑥ ところが、服部製作所が倒産してしまったため、真田税理士が預かった手形は不渡りになり、手形決裁できなくなりました。
⑦ しかも、ふざけたことに、 矢野工業の社長は、手形を提供したことを、税理士に手形を100万円取り込まれたと言いふらし、真田税理士の体面を大きく傷つけました。

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 手形トラブルにともなう人間模様はまさにドラマを観ているようですが、皆さんはどう思われますか。



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