中小企業経営と向き合う(その8)…中小企業倒産への対応を考える

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 今回は、止むなく倒産という事態に直面した場合には、どうしたら良いかを少し考えてみます。ここからは、上野久徳著「新・倒産処理と法的技法」を参考にします。

 倒産会社の整理には、
(1) 裁判手続きによる整理の方法(法定整理)
(2) 裁判手続きによらない話し合いによる整理の方法(任意整理)
があります。


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 法定整理による場合は、多かれ少なかれ相手方の意思を無視して、強制的に行うものであり、また、費用ないし経理の面でも、裁判手続きの時は、手続きを取る者があらかじめ費用を納めなければなりません。法定整理には、会社更生法、破産、和議、商法の整理、特別精算というように色々なものが準備されています。


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 任意整理の場合には、話合いにより債務者の資金からまず費用は捻出されますから、追銭的経費が不要な場合が多いです。さらに時間的な迅速性の点から言っても、任意整理が可能ならば、これが望ましいところです。

 中小企業の場合には、なるべく任意整理の方法を考え、それができない理由のあるときに法定整理の方法を考えるのが良いようです。どちらかというと、法定整理は大企業が対象で、倒産規模(負債額、債券者数、全国規模など)が大きくて、任意整理など話し合い整理は難しく、法定整理によらざるを得ない時に選択されます。この場合、会社更生法の選択が多く見られる様です。

 倒産企業が任意整理に入った時の債権者の順位は十分に知っておかないと、損な目に遭います。私自身損をしました。倒産企業の資産の分配は、次の順番で行われることが、民法や商法の倒産関係法では定められています。

 1番目に有利なのが担保保持者で、通常は銀行です。担保物の価額の範囲内で優先弁済を受けることができます。2番目は優先権のある債権保有者で、一般債権者に優先して弁済を受けることができます。3番目は税金関係の支払いです。そして、4番目にようやく一般債権で、大多数の債権者がこれに当ります。結局、一般債権者への弁済は、担保権者や優先債権者が100%弁済を受けた残りですから、資産の如何により何%弁済かという配当率が問題となってきます。

 ちなみに任意整理の手順は、下記となります。
Step1. 債権者会議の開催
Step2. 検討委員会の開催…委員会側と会社側との間で整理に関する基本契約を結びます。Step3. 基本契約の実行
Step4. 会社の経理内容の調査
Step5. 債権額の調査
Step6. 配当の実施

 ところで、倒産の要因として、中小企業で最も多いのは何と言っても融通手形のトラブルによるものです。一方、大企業や中小企業を含めて多い倒産は、債務超過トラブルだと思います。以下、具体的な倒産実例を見ていきたいと思います。

融通手形による倒産

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 融通手形とは、商取引の裏付けがなく、単に資金調達の目的で振り出され、裏書き・引き受けなどが行われた手形のことです。前回でも紹介した真田新之助著「たいしょうの秘密」でも、融通手形に関する倒産事例が報告されていますので、概要を示します。




① 大東貿易の売れ筋商品を杉下興産に回してくれるということで、杉下興産は喜んで1,000万円の注文を出しました。
② 暫くして、大東貿易担当者より、200万円分は納入するが、残り800万円分はA社が1,000万円で買ってくれるので、少し納入を待って欲しいと頼みがありました。杉下興産も急ぎでもないのでこれを承諾しました。
③ さらに、A社と取引した1,000万円の手形と杉下興産の1,000万円の手形を交換して欲しいと大東貿易より言って来ました。その理由は、A社の手形は信用が低いので、銀行で割り引けないが、杉下興産の手形であればOKだ、ということでした。これをOKしてもらえば、今後色々と便宜を図るという約束もしました。
④ ところが、A社の手形は、大東貿易との間の融通手形であり、大東貿易は入手した杉下興産の手形を直ぐに銀行で割り引いてしまったのです。
⑤ 同じ手口で杉下興産がもつA社の手形残高は8,000万円にも達してしまいました。
⑥ その内に大東貿易が倒産したため、融通手形の相手方のA社も倒産してしまいました。結局、杉下興産が保有していたA社の8,000万円の手形は全て不渡りとなってしまいました。
⑦ 実は、ここには男女の問題が介在していました。杉下興産の若社長の恋人が、大東貿易の担当者だったため、大東貿易の要求をずるずると受入れてしまったのです。

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債務超過による倒産

 債務超過とは、保有している資産を売り払っても借金を完済できない状態を言いますが、多くは設備拡張に失敗した時に起きます。売上げの増加が十分に見込めるかの目途も立っていない状況でありながら、銀行などに乗せられて設備導入をやってしまった場合です。

 もともと企業の資本は、いわゆる自己資本(貸借対照表の資本の部の資本金や剰余金等)と他人資本(貸借対照表の負債の部に記されている借入金や買掛金等債務)とで成り立っているものですから、この両方が調和していなければ企業も成り立たないはずである。他人資本、すなわち借金で商売すれば、儲けよりも金利に追われ、銀行や金貸し業に奉仕するために働いているという皮肉な現象にさえなります。

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 さらに悲劇的なことは、大企業になればなるほど銀行が取引に応じてくれて、低金利で借りられますが、中小企業以下では銀行から安い金利では借りられず、従って信用組合やあるいは町の金融業者等から高利の金を借りなければなりません。会社が危なくなればなるほど、金融逼迫は深刻になります。

 業種にもよりますが、メーカー等では、会社の「固定資産」は、借金(他人資本)でなくて、自己資本の額とほぼ見合う程度のものが堅実であり、もともと不動産等は、いま処分すればこれくらいの価値はあるという程度のところは、押えておく必要がありそうです。

 債務超過に陥った場合の対策ですが、将来の存続を目的とする場合には、最小限の設備以外は如何に高く処分するか、また不採算部門の見切りを早目につけるということになります。

 本来、設備導入に当っては、政府の補助金を活用することを考え、慎重に導入計画を進めて行くのが良いと思えます。また、政府の補助金が絡めば、銀行からも取引先の経営課題ということで一緒に考えてもらえることができます。最近銀行も「取引先の経営企画部」たれと前面に出したサービスが行われているので、これを活用すべきです。

 新しい社会経済情勢に即応する新たな企業の「創造」が、一方で進んでいます。「創造」の理念は、「倒産の整理」に課せられた理念と一致するという見方がありますが、みなさんどう思われますか。



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