中小企業経営と向き合う(その11)…第二創業とSPCの選択基準

 中小企業の経営者の中にも、主たる事業を自分の会社で進めながら、別にもう1つあるいわ複数会社を設立して経営されている方も結構おられます。これは第二創業となりますが、今回は第二創業を事業承継に活用したり、金融機関からの融資問題に活用する例がありますので紹介します。

 また、SPC「特別目的会社」を設立されて、「債権の流動化」を主目的として運営することも良く行われます。第二創業もSPCも新たに会社を設立してという処は同じですので、どちらにするかの選択基準について色々と調べてみました。

第二創業を事業承継に活用する例

 K社は、廃棄物中間処理業者さんで、21年かけて大きく発展してきた企業です。社長さんには一人娘さんがいますが、娘さんに廃棄物中間処理業を継がすのには抵抗がありました。そこで、第二創業として、新たな会社を興し、女性にも手掛けられるバイオマス発電の会社を設立しました。この会社の社長として娘さんに継がせることにしたのです。元々営んで来たK社の方は、社員の中から後継者を選ぼうと考えています。

 具体的な進め方ですが、まずは、親会社からの第二創業へ資本金4,000万円を出資しました。第二創業は、この資本金で親会社から土地を購入したりして、会社を運営して行く資金として利用することになりました。

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第二創業を金融機関からの融資を得るために活用する場合

 次の例ですが、土木建設会社M社の場合は、第二創業を行ない小水力発電所を運営しています。こちらは第二創業の目的が少し違います。小水力発電事業をやるには、大きな資金を融資という形で借りざるを得ません。しかも、M社はすでに金融機関から融資を受け、融資にも限度枠があり問題が発生します。そこで、第二創業を起ち上げ、親会社のM社を切り離したわけです。

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SPC(特別目的会社)を債権流動化のために活用する場合

 SPC(特定目的会社:Special Purpose Company)とは、「資産の流動化」に目的を限定して特別法上の法人で、活用されていないいわゆる不稼働不動資産を、SPCという導管を用いて流動化し、稼働させる仕組みがSPC制度と言われています。

 具体的には、たとえば、地方自治体等が小水力発電事業を進める場合に、保持する土地や設備等の特定資産を、具体的なスキームとしては、地方自治体がSPCを設立し、「オリジネーター」と呼ばれる不稼働資産等の原資産保持者から特定資産を取得します。取得した資産を資産担保証券(ABS証券)に変換し、ABS証券の発行を通じて資金調達し、特定資産の運用を「サービサー(資金運用者)」に委託します。生じた運用益等の資金で元利の償還と配当を行う制度です。

 例えば、良質な物件のオフィスビルがあった場合、特定の「オフィスビル特定目的会社」を設立し、ABS証券を発行して、特定オフィスビル買取りの資金を調達します。一方、特定オフィスビルの原所有者は売却代金を取得します。特定オフィスビルのプロジェクトはSPCを通じてサービサーに委託事業展開され、その収益等によって投資資金への配当が行われます。この手法は、1998年9月よりスタートした制度で、バブル崩壊時に不稼働資産を抱かえた企業にとっては、優良資産を中心とした保有資産の有効活用が可能となり、貸し渋り等に対する新たな資金調達手段となる他、バランスシートの浄化にも資する制度とされていました。

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ここから、より詳細にSPCを資金調達に使う手段について説明します。

これは次のサイトで見付けたものです。http://accountingse.net/2011/01/260/

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 まず、A社がB社向けの売掛金を100億円持っていたとします。A社の業績は悪く、潰れそうなのでなんとか資金調達できないかを考えています。B社の業績は好調であり、売掛金の回収は問題なさそうです。だが、B社向けの売掛金の支払日はまだ先で、すぐには入金されません。多少割り引いてもいいから、すぐに支払って貰おうとしましたが、100億円は巨額なのでB社には拒否されました。B社としても100億の資金繰りは簡単ではなく、そもそもすぐ払ってあげる義理もないので当然です。

 銀行からの借り入れも、今のA社の業績だとこれ以上はできませんし、当然資本注入も難しいです。このような状況でSPCは威力を発揮します。

 まず、A 社はZ社というSPCを作ります。簡単に言えばペーパーカンパニーです。Z社は、「B社の売掛金を管理・回収することだけを目的に設立された会社」です。次に、Z社は、Z社への出資者を募ります。謳い文句は次の通りです。

 「我が社はB社の売掛金を管理・回収するだけの会社です。回収したら出資者に配当して解散します。出資しませんか?」

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 Z社への出資金が90億円になったら、A社からZ社へ、B社向けの売掛金を89億円で売ります。残りの1億円はZ社自体の運営に使います。この際、B社からZ社への支払いは、本来の100億円ではなく、95億円ぐらいに割り引いてあげます。これは、B社にもメリットがないと、支払先をA社からZ社には変更してくれないからです。

 Z社は、売掛金の期限が到来したら、B社から95億円の支払いを受けます。Z社は、回収した95億円をZ社の出資者に配当し、解散します。出資者は90億円出資して95億円貰ったので、5億円の儲けです。

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SPCの良い所・悪い所

良い所
・駄目な会社でも、良い資産を持っていれば現金化できます。
・SPCへの出資者は1人でなくても、小口出資者が多数いるような形でも良いので、普通なら買い手がなかなか現れないような高額な資産でも現金化しやすい点です。
・リスクが明確になる点です。上記例では、もしA社に出資するなら出資者はA社のあらゆる事業について検討する必要があるが、SPCを作ることにより、出資者はB社宛の売掛金のリスクのみを考えれば良くなります。

悪い所
・Z社はいわゆるペーパーカンパニーなので、手続き上は売掛金を譲渡しても、裁判で「その取引は無効」と言われることがあります。これを避けるには、A社が倒産してもZ社には影響が及ばない、という意味を込めた「倒産隔離」を明確にしておく必要があります。

 なお、ここでは判り易い様にA社を「今にも倒産しそうな会社」として書きましたが、必ずしも倒産しそうな会社ばかりがこのSPCを使っている訳ではありません。といいますか、健全な会社でも普通にSPCは使われます。

 上記A社の場合、100億円の売掛金を売って現金89億円を手に入れたわけですが、もしA社が健全な会社で、銀行から同じ89億円を借りることができたとしても、売掛金の割引額と借入金の利払い額を比べて、借入金の利払い額の方が多ければ、つまり、利払い額が11億円より多ければ、SPCを使った方が得ということになります。

 SPCという制度は、1998年に日本でバブルがはじけた時に、これを再生するために使われた道具で、話題の小説「ハゲタカ」でもこの話が出て来ます。第二創業とSPCの違い、皆さんはどう思われますか。



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