リーマンショックの真実(その3)-「空売り」戦法の醍醐味を知る

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 2015年に製作された「マネーショート」という映画があります。これは米国で2008年に起こったリーマンショツクの裏側を描いた映画です。とても面白い映画です。ただ、この映画を楽しむには、金融業界における「空売り」戦法とは何で、どのように使いこなすのかを十分に理解していないと映画の面白味が半減します。

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 そこで今回はこの「空売り」についてまず説明します。安恒佳著「最強の株入門」を参考にしました。この本はこの分野でのベストセラー1位を誇っているそうです。

 映画の題名にある「ショート」という単語ですが、これは金融業界での「空売り」を意味します。そして、この「空売り」がこの映画の中心的役割を果たしています。

 まず、空売りとは何かですが、信用取引の1つです。

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 現物取引による株式投資は、値上がりした保有株を売却することによって利益を確保します。つまり、利益獲得には株価の値上がりが絶対条件で、値下がりしてしまえば損失を被ってしまいます。しかし、信用取引の空売りを行なえば、株価が下落することで利益を出すことができます。すなわち、「空売りとは」株価の下落局面でも利益を上げられる方法であり、証券会社などから借りてきた株を市場で売却し、株価が下がったところで株を買い戻して返却する方法です。特に、市場全体が下降トレンドのときは、空売りをうまく使いたいものです。

 例えば値下がりを予想し、10万円で取引されているA株を証券会社などから借りてきて空売りしたとします。株が売れれば購入した投資家から10万円支払ってもらい、その後、A株が6万円に値下がりしたところで、市場から買い戻して借り先へ返却します。この値下がりした4万円分が利益となります。但し、空売りの場合には決裁期限が設けられていて6ケ月となっています。もし、空売りした株が予想とは逆に値上がりしてしまうと、値上がりした分が損失となってしまいます。10万円で空売りしたA株が15万円まで値上がりし、そこで決裁すれば差引き5万円の損失となります。

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 信用取引にするとレバレッジを効かせる面白味があります。株の信用取引では約3倍のレバレッジを掛けることができます。レバレッジを効かせるとは、少ない金額で大きなお金を動かすことができます。従って、信用取引は、ヘッジとして用いることができますし、もちろん、投機用にも使える訳です。

 また、現物取引では、同一銘柄の売買は1日では1回しかできません。しかし、信用取引では取引回数に制限がないため、同一株を1日に何度も売買できます。

 従って、信用取引では、レバレッジと取引回数の両方が仕えますので、利益を大きく上げるチャンスがあります。




 ところで、「空売り」の際の資金や株はどこから借りるのでしょうか。

 信用取引を行うとき、投資家は担保金を支払って証券会社から買い付け資金や売却用の株等を借り受けることになります。しかし、1社だけでは資金や保有する株券に限りがあるため、資金や株等が不足したときは、証券会社が「証券金融会社」から借りて投資家に買い出します(制度信用取引の場合)。

 信用取引では、取引手数料の以外にも、さまざまなコストがかかります。また、信用買いと空売りでは、かかるコストに違いがあります。まず信用買いでは、株の買い付け資金を借りることになるので、各証券会社が設定した金利がかかります。空売りでは、空売り膨らみ貸株がなくなると証券金融会社は機関投資家などから手数料を払って株を借りてくるため、「逆日歩」という貸株金利(品貸料)を負担しなければなりません。また、信用買いと空売りとも単元株当たり105円の管理費がかかるなど、基本的に信用取引は現物取引よりもコストがかかります。

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 また、信用取引で重要なのが、期限内に反対売買を行なって「決裁」しなければいけないということです。6ケ月が期限となっているので、積み上がった信用残は必ず6ケ月以内に決済を迫られます。つまり、投資家は株価が回復しないまま決裁を迫られ、最後は損を覚悟で投げ売りをせざるを得なくなります。

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親より怖い「追証」発生

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 信用取引に必要な担保金には「最低保証金維持率」が、証券会社ごとに決まっています。例えば、最低保証金維持率が20%で、30万円の担保金を預けて100万円の信用買いを開始したとします。取引の結果、含み損が発生し、担保金が100万円の20%、すなわち20万円を割ってしまった場合、不足分を証券会社に追加の保証金として支払わなければなりません。これが「追証(追加保証金)」です。追証は保証金を支払うほか、反対売買を行なって決済しても解消できます。

 追証を入金せずに放置していると、証券会社の判断で強制的に決済させられてしまうため、大きく損失してしまうことがあります。多くのケースでは強制決済だけで精算は終わります。しかし、大暴落が起きたときなどは、さらに追加の費用負担を求められるケースもあるので注意が必要です。また、強制決済が行われると信用取引口座は一時的に凍結され、許可が出るまで取引できなくなります。

 強制決済の前に、マージンコールという「警告」が発せられ、保証金の不足が伝えられます。保証金を追加で入金しないと、強制決済されますが、その保証金の維持率、強制決済されるタイミングは証券会社によってまちまちです。

 さて、映画の中で登場する「空売り」は不動産市場で行われているものです。元々米国には、公的な保証を有するMBS(住宅ローン担保証券)でしたが、投資銀行が金儲けのためにこのMBSをAAA, AA, A, BBB, BB, Bのトランシェ構造にして売り出し、最後には、低所得層向けのサブプライムローンを組み入れ、これらを混ぜ合わせたCDO(債務担保証券)という商品にまで発展させました。しかし、住宅バブルの崩壊が顕在化して、サブプライムローンの債務者が破綻し始めました。

 当時のFRB議長のグリーンスパンは、住宅市場は永久に安定しているまで公言しましたが、住宅市場のバブル崩壊は現実のものとなりました。MBS、MBSトランシェ、CDOには「空売り」の制度は備わっていませんでしたので、この映画の主役達はCDSという保険商品を考え出したのです。CDOが大幅に下落してある価格以下になったならば、保険金を支払ってもらうというものです。保険金はCDOの価値の2~3倍のレバレッジが掛けられた額であり、決裁条件も設けられました。正に株式の世界の「空売り」と全く同じ構造である訳ですが皆さんどう思われますか。



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