リーマンショックの真実(その6)…僅かな資金で大化けを狙う元トレーター・ベンの戦法

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 2015年に製作された「マネーショート」という映画があります。これは米国で2008年に起こったリーマンショツクの裏側を描いた映画です。とても面白い映画でした。マイケル、マーク、ベン、ジャレドという4人の主人公が出て来ます。マイケルは小さなヘッジファンドのマネージャー、マークはベアスターンズ傘下のファンドマネージャー、ベンはJPモルガンの元トレーダー、ジャレドはドイツ銀行の現役銀行員という設定です。

 リーマンショックの発端は、サブプライムローンと呼ばれる信用度の低い住宅ローンで、返済不能となった借り主が続出したことです。そのため、このローン債権をベースにした証券化商品(CDO:債務担保証券)が暴落し、証券を買った機関投資家の多くが大損失を被りました。
 
 この映画は、MBS(Mortgage Backed Security : 住宅ローン担保証券)市場の破綻を描いていて、この破綻を逸早く気付いたこれら4人の主人公達が不動産バブルを作り上げた張本人である投資銀行の詐欺まがいの行動に立ち向かい、空前の「空売り」を実行して大勝利を納めるという物語りです。

 今回は、チャーリーとジェイミーという個人投資家が運営する「ブラウンフィールドファンド」が、JPモルガンの元トレーダーのベンと連携して、僅かな資金で大儲けを狙う戦法についての話です。

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 最初に、若い投資家2人は、大手投資銀行へ出掛けハイレベルな取引ができるISDA(店頭デリバティブ取引の基本契約)の同意書の発行依頼をしに行きました。しかし、2人の現在の資本は3000万ドル(30億円)で、 “インディ500“をラマで走るようなものでした。資本として15億ドルを準備しなければならないということで、彼らはすごすごと引き揚げざるを得ませんでした。

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 2006年5月、昔、隣に住んでいて現在は田舎で隠居生活をしているJPモルガンの元トレーダーベンに電話をし、CDS購入の仲介を頼みました。そして、ドイツ銀行とベア・スターンズを紹介して貰いました。住宅市場の破綻を狙って、モーゲージ債のCDSで10倍のリターンを得られると読みました。若い2人は、これが一生に一度のディールと考え、闘志を燃やします。

 彼らは住宅市場について色々と調査した結果、債務担保証券CDO市場規模は、他の債券に比べ100倍であることが分りました。しかも、CDOの格付けの90%以上がAAAという信じられない内容でした。空売りするにはクソの塊であるCDOが最適と考えます。BBとBBBの空売りならリスクは小さく、もうけは25倍程度に下がりますが、反対にCDOのCDSの買取価格に比べBB, BBBのCDS買取価格は低くなります。

 戦いが始まって暫くすると、住宅市場におかしな状況が起こり、チャーリーは次の様に喚きます。「ローンの返済滞納率が上がればCDOの価格は下がるはずなのに、CDOの価格も上がっている。完全に逆行している。 ベアーとドイツ銀行に追加保証金として7万ドル送金した。 こんなの不合理で訳が分らない。八百長試合だよ。銀行がバカで、CDOの価値を知らないか、さもなきゃすごい泥棒でCDOの価値を隠しているかだ。」

 ベンと若い2人は、この問題をはっきりさせるために、ラスベガスで開催される証券化フォーラムへと出掛けます。色々と情報を収集した結果、次の結論に達します。

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 「僕らでも買えて銀行が乗るような。何かないかな。CDOのAAトランシェのCDSであれば、銀行はまさかAAが破綻するとは思っていないので乗って来て売ってくれる。AAAが95%だと言うけど、実際は25%ぐらいだ。0%のもある。底辺のトランシェがこければ上にも影響する。つまりAAは実際にはBと見做され破綻する。それによる利益は沢山出回っているので200倍だ。格付けは額面通り。リスクの低い債券なので、つまりCDSは安く手に入る。」

 AAの空売りは既に登場したマイケルもマークも考えていませんでした。マイケルやマークは低位のBBとかBBBの保険CDSを対象としていました。BBやBBBの破綻は想定できてもAAの破綻は誰も考えない、これがポイントです。AAの破綻は金融恐慌以外にしか考えられないというのが売る側のスタンスでした。彼らは、AAのCDSを買いに走り、首尾よく入手することができました。

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 ところが、首尾上々ではしゃぐチャーリーとジェイミーにベンは注意を喚起します。

 「よせ。いい加減にしろ。よく考えろ。一生に一度の賭けをしたんだ。経済の負けに。俺たちが勝てば、国民は家や仕事や老後資金を失う。失業率1%上昇、4万人死亡。興奮して。はしゃぐな。」

 暫くして、住宅市場は荒れ始めます。銀行はクソのCDOを無防備な客に売りつけて、売り切るまで値下げしません。ウォール街でも前例のない犯罪行為が行われました。遂に、ベアー・スターンズのヘッジファンドが倒産して、ベアー集団訴訟を起こされました。若い2人はCDSの80%をベアー・スターンズから買っていたので、危険を感じ始めます。

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 ベンが経験を生かして、持っているCDSを処分するために動き始めます。まずは、2億ドル分をクレディ・スイスに売ろうと交渉します。

ベン:「当社所有のCDSを売りたい。」
クレディ・スイス:「内容は?」
ベン:「CDOのAAトランシェのCDSを20単位分。」
クレディ・スイス:「CDOか価値はないな。ほとんどクズだ。想定元本は?
ベン:「額面で2億500万ドル。」
クレディ・スイス:「4,000万ドルで買おう。」
ベン:「1億ドルだ。」
クレディ・スイス:「厳しいな。」
ベン:「最高価格は?」
クレディ・スイス:「平行線だ。」
ベン:「なら電話を切れ。」
クレディ・スイス:「7,000万ドル」
ベン:「8,500万ドル」
クレディ・スイス:「7,800万ドル」
ベン:「8,400万ドル」

 最終的に、手持ちのCDSの大部分はUSBに8000万ドルで売れました。フランスの大手銀行がMMF口座を凍結。ギリシャとアイスランドが破綻という状況が味方しました。

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 ニューヨークでは、ベアー・スターンズ破綻。“続いてカントリーワイド、リーマン・ブラザーズも破綻しました。リーマン・ブラザーズの株価がゼロをつけました。このよにして、2008年9月15日、NYでの銀行崩壊で市場は乱降下し、世界経済を恐怖に陥れていました。

 投資の世界で生きる人種は、大金を動かすことが1つの趣味となっているようです。通常の人生は送れそうにありませんが、皆さんどう思われますか。




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