リーマンショックの真実(その7)…米リーマンショツク時の銀行員ジャレドの戦略

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 2015年に製作された「マネーショート」という映画があります。これは米国で2008年に起こったリーマンショツクの裏側を描いた映画です。とても面白い映画でした。マイケル、マーク、ベン、ジャレドという4人の主人公が出て来ます。マイケルは小さなヘッジファンドのマネージャー、マークはベアスターンズ傘下のファンドマネージャー、ベンはJPモルガンの元トレーダー、ジャレドはドイツ銀行の現役銀行員という設定です。

 リーマンショックの発端は、サブプライムローンと呼ばれる信用度の低い住宅ローンで、返済不能となった借り主が続出したことです。そのため、このローン債権をベースにした証券化商品(CDO:債務担保証券)が暴落し、証券を買った機関投資家の多くが大損失を被りました。
 
 この映画は、MBS(Mortgage Backed Security : 住宅ローン担保証券)市場の破綻を描いていて、この破綻を逸早く気付いたこれら4人の主人公達が不動産バブルを作り上げた張本人である投資銀行の詐欺まがいの行動に立ち向かい、空前の「空売り」を実行して大勝利を納めるという物語りです。

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 今回はドイツ銀行のジャレド・ベネットの戦略です。彼はヘッジファンドマネージャーのマークの処に“住宅ローン空売り” の話を持ち込みます。まだこの話は 数人にしかしていません。



 マークはこんな話をなぜ銀行員が持ってくるのか判りません。2人の間に以下のやり取りがありますが、ジャレドが如何に上手くマークらを説得したのか、その展開をみてみます。

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マーク:「そんな興味深い話をなぜ我々に?あんたは銀行員だろ。」
ジャレド:「 考え方は銀行と異なる。私は金を儲けることが好きだ。燃えさかる家の前で 火災保険を勧めている」
マーク:「そんな債券を売るのは違法じゃないのか。」

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ジャレド:「MBSの中身を知らないからそう思うんだ。基本的なMBS債(モーケージ債)、元々は単純だった。政府保証付きのAAAの住宅ローン債権の集まりだ。だが最近は違う。保証なしのトランシェ構造だ。トランシェとは、“切り分ける”ということだ。銀行にとっては、AAAは直ぐに売ることが可能なので、まず債券の引取り要求はAAAを先に行う。AAAは最初に支払われ、下に行くほど支払順位が後ろになる。Bは利回りが高いので、取引価格は低い。しかも、リスクが高く時には焦げ付くこともある。MBS市場の急拡大で、BとBBはゴミ箱行きになった。信用度(FICO)は最低。所得もなし。変動金利。クソだ。ローン焦げ付きの確率は4%に。もし、これが8%になったら一貫の終わりだ。
マーク:「チャンスは分るが、どうやって空売りを?」
ジャレド:「保険契約だ(CDS)。市場が破綻すれば10倍20倍のリターンが。その日は近い。」
マーク:「10倍、20倍?無理だ。」
ジャレド:「銀行は手数料を稼ぐのに忙しいから。誰ひとり注意を払わない。MBSの中身を誰も知らない。AAAが65%だが実は95%が低所得者向けのサブプライムで占められている。(65%AAAと言っているが、実際はサブプライムが95%。)
マーク:「市場が危険と判断したら銀行はどうするか?」
ジャレド:「リパッケージしてCDOに変えるんだ。債務担保証券とは、Bランクの売れ残りを山に積み重ねる。リスクは分散されたように見えるから、無節操な格付け機関は質問もせずAAAを付ける。」

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マーク:「よくそんなものを。犬のクソのMBSを猫のクソで包んでCDO?」
ジャレド:「 その通り。CDOは国債並みの評価だが、その価値はゼロになる。去年のMBSの販売は5,000億ドルだぞ。」
マーク:「格付け機関も銀行も政府も居眠りしているのか?」
ジャレド:「そうだ、うちもCDOを買ってる。同僚は私を悲観論者だと。Aもゼロ、Bもゼロ、BBもゼロ、BBBもゼロ。これが住宅市場の実態だ」

 結局、マークはジャレドを信用します。その理由は、クレジットカードの金利は25%。学生ローンの金利も高い。そんな銀行をジャレドは欲深いと指摘しているからです。銀行は市場にも無関心というジャレドの言い分は正しい。私欲に忠実なのは尊敬に値する、と判断したからです。
  
 金融機関は、自分の処の融資を増やしたいので、リスクの高い企業へも融資をしたいと考えています。融資すると、手元のローン担保を証券に変えた証券化商品を発行し、投資家に売却します。売却して得た金は結構多く、金融機関はこれを運用して利回りを良くすることができるので、増々、リスクの高い証券化商品は売れて行くことになります。

 マークはリスクが高いと知りながらCDOを大量に売りまくる投資銀行の詐欺行為を糾弾する覚悟で、ジャレドの勤めるドイツ銀行からCDSを5,000万ドル分購入します。債券の格付けはBBBです。その内訳を想定してみますと、銀行融資のレバレッジが3倍程度と考えられますので、元手は2,000万ドルで3,000万ドルをドイツ銀行から信用借りし、5,000万ドル分購入したと想定されます。ドイツ銀行には月々の貸し賃と、追証が発生した場合には190万ドル(2億円)が入ります。

 一方のジャレドにとっても世紀のディールでした。当面、ジャレドには負のキャリーがのしかかります。ボスはCDSに否定的ですが、この取引が成立すれば文句は言わないと割り切って行動を起こします。

 ジャレドは、次の様に表現します。「CDSは規制がないから、CDSを売る場合には私が価格を設定できる。お互い大金が入るわけだ。うまく想像できないだろう。何を引き出すか。私が教えてやるよ。私は粉砂糖。うまくいけばチェリー。だが君は --- サンデーだ。」本来銀行はCDOの販売をするが、一部の銀行員が反対のCDSを売る行為はリスク回避として十分に考えられます。

 2007年1月11日、マークの「フロントポイント」内で騒ぎが起きます。

ベニー:「“住宅ローンの債務不履行が100万件に達する見込み”でデフォルトが急増している。」
マーク:「誰か自殺したか? CDO債券価格はまだは値上がりしているのか?」
ベニー:「ジャレドが190万ドルの担保を追加要求してる。」
マーク:「ローンがデフォルトなのに債券の価格が上昇?引けまでに190万ドルを。 格付け機関は?連中は格付けを下げてるか?格付けは?そのままだと。ふざけんな、クソ野郎が!デタラメやりやがって。」
ベニー:「モルガンのキャシーとリスク審査担当がCDSの件でモメてる。CDSの保険料を払うのは正気じゃないそうだ。」

 とうとう堪忍袋の緒が切れて、マーク達はジャレドを呼び出します。

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ベニー:「債務不履行が増加しているのに、債券の価格が上がっている。この不条理を説明しろ。この取引は不適切だ。撤退したい。」
ジャレド:「私は格付け機関も証取委も、銀行もバカだと言った。だろ?」
マーク:「バカではなく詐欺だ。銀行員はバカで詐欺師だ。」
ジャレド:「笑える。元々バカなシステムなんだ。確かに不正をやっているが、それはバカのなせる業だ。自分を見ろ。皮肉屋を気取ってもどこかでシステムを信じてる。システムは、堕落してる?」
マーク:「正解か不正解かのどっちかだ。不正解なら誰かに売ろう。もし不正解なら、誰が僕たちに教えてくれる?誰がこの状況を分ってる?」
ジャレド:「だったらラスベガスへ行こう。」
マーク:「ベガスで何が?」
ジャレド:「証券化フォーラムがある。サブプライム業界の人間が全員集合だ。あんたはクソに賭けた。その正体を見極めろ。」
マーク:「俺たちの目的は?」
ジャレド:「連中から情報を引き出して、この連中が正解かを探る。ベアーの男と個人的な会合をセットする。5年前は負け犬が集まる大会だった。それが去年の収益は5,000億ドルだ。」

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 住宅市場の破綻が始まって、投資家がCDSを購入し始め、価格はどんどん上昇して行きます。リスク回避でCDSを売りまくったジャレドはドイツ銀行に利益をもたらします。“4700万ドルのボーナス獲得”私は正しかった。2年も冷笑されたが、私は正しく、みんなは間違ってた。ボーナスだ、腹が立つなら訴えろ。大金だ、非難の声は聞こえる。肌で感じるよ。

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 銀行員個人が投資の世界で儲けることは日本では考えられません。これは市場破綻で自分の銀行も破綻するかもというギリギリだったと起った話です。皆さんどう思われますか。



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