不動産投資の世界を覗く(その7)…米投資ファンドによる日本不動産売買の波紋

 2020.1.29版日経新聞の1面に掲載されたトップ記事は、「国内最大の不動産投資・米ファンドが3000億円」というものでした。記事の概要を下記に示します。

 『米投資ファンド ブラックストーン・グループが、日本の賃貸マンション群を一括の取引として過去最大の約3000億円で買うことがわかった。超低金利の資金調達コストを考慮すると、日本の不動産の利回りは世界的に高く、割安とみた海外投資家の不動産売買が盛んになっている。海外勢の参入は今後も続く可能性が高い。海外勢が日本の不動産市場の過熱を牽引する構図が鮮明になっており、転売活性化などマネーゲームの色彩が濃くなりそうだ。』

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 今回のブラックストーンの攻勢ですが、ブラックストーンは運営するファンドを通じ、中国の安邦保険集団から東京や大阪など大都市圏中心に賃貸マンション約220棟を一括購入するというものです。ブラックストーンは、この物件の大半を米ゼネラル・エレクトリック(GE)の日本法人から2014年に推定約2000億円で購入しました。2017年に一部追加した上で、安邦保険へ約2600億円で売却し、今回は2014年当時とは別のファンドが約3000億円で買い戻すというものです。不動産サービス大手JLLによりますと、これまでの最高額は、米モルガン・スタンレーが金融危機前の2007年に全日本空輸(ANA)から全国13ホテルを買収した際の約2800億円でした。今回の金額はこれを上回ります。

 海外勢の不動産の購入額は日銀が異次元緩和を始めた2013年から拡大し、2019年9月までの累計で約5兆円に達しました。2017年には年間1兆円超と全体の取引額の26%を占めるまでになりました。自己資金がメインの日本の不動産開発会社と違い、海外では投資家から幅広く資金を集めるファンドが不動産取引の主体となっており、金融環境の影響を受けやすいと言えます。「大型取引では資金力のある海外投資家の存在感が強く、投資意欲は依然として高い」ということです。

 こうした海外ファンドが日本の不動産を狙うのは、背景にあるのが日本の金利水準です。海外勢は投資利回りと調達金利の差である「利回り差」を重視します。物件を高値で取得して投資利回りが下がっても、借入金利が低ければ収益を得られるためです。

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 東京の主要オフィスビルに投資した場合の利回り差は2018年9月時点で2.8%です。ニューヨーク(2.3%)や上海(2.3%)、シンガポール(1.8%)など世界の主要都市と比べて高いのが特徴です。こうした投資の動きが価格を押し上げ、国土交通省が算出するオフィスビルや賃貸マンションなど商業用不動産の価格指数は、三大都市圏で2010年時点に比べ約3割上昇しました。海外マネーに支えられ、知名度の高い都心の一部地域では取引が過熱しています。

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 日本における海外投資家による不動産売買は、バブル崩壊後の1990年代後半、不動産担保付き不良債権への「ハゲタカファンド」による投資から始まったとされます。「ハゲタカファンド」の投資振りは、不動産投資の世界を覗く(その6)…「ハゲタカファンドの非情な手口」で詳しく紹介しています。それによれば、日本におけるバブル崩壊期は1991年(平成3年3月)から1993年(平成5年10月)までの景気後退期を指します。1998年(平成10年)当時、日本の金融業界が不良債権問題に苦しんでいた時、米国からやって来た外資系のハゲタカファンドが、日本中を闊歩しました。債権を抱かえた企業の株や債権などを買い占め、企業を手中にし、再生して行くというバルチャー(ハゲタカ)ビジネスという名称で呼ばれているビジネスの原点を構築した老舗として、KKLはあまりにも有名です。

 2000年代前半には、米モルガン・スタンレーなど投資銀行による不動産取引が活発化し、2007年には海外勢による投資額が過去最高の約2兆4千億円となりました。2008年の金融危機で投資活力は下火になりましたが、日銀が異次元緩和を始めた2013年ごろから再び拡大しています。

 海外勢の主役は、投資家から幅広く資金を集めるブラックストーン・グループのような投資ファンドです。年金や保険会社などお金の出し手は、債券や株といった伝統的な金融商品での収益確保が難しくなり、相対的に高い利回りが見込める不動産ファンドへの運用委託を増しています。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も不動産への投資を始めています。

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 ブラックストーンは、世界の不動産関連の運用資産が1570億ドル(約17兆円)と世界有数の規模を誇ります。2017年には世界最大級の政府系ファンド、ノルウェー政府年金基金が日本で初めての不動産投資を実施しました。2019年には米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が日本で不動産投資チームを設立するなど、新規参入が相次いでいます。

 この日経新聞のニュースを読んでいると、日本の不動産取引が過熱してきそうな気配です。最近の話題として、中古賃貸マンションが若者の間で人気が出ているとか、外国人向けの古民家の売買が盛況であるとか、スマホによる不動産情報の入手が多くなっているとか、大阪万博に向けて大阪、京都の不動産市場が活況になっているとかが気になります。京都に一軒家と名古屋にマンション一部屋を有する私自身も、不動産に目が離せない状況になっていますが、皆さんはどう思われますか。



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