中小企業診断士の経験則(その8)…ベンチャー企業の資本政策を考える

<ベンチャー企業の定義>

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 一般にベンチャー企業は、成長意欲の強い起業家に率いられたリスクを恐れない若い企業で、製品や商品の独自性、事業の独立性、社会性、さらに国際性をもったなんらかの新規性のある企業と定義されています。

 私も11年間産学連携コーディネーターとして、中小企業とのお付き合いも幾つか経験させて頂きました。その際に感じたのは、ベンチャー企業の場合には、やはり立ち上げの運転資金をどう工面するか、活動が拡大する時の資金調達をどう進めるか、等々色々と考えなければことがあります。そしてこの資本政策を上手く展開できるかどうかで勝負がつくと考えています。

<資金調達とリスクの回避>

 手持ち資金で起業した会社が大きくなってきた時、ビジネスをさらに飛躍させるために必要となるのは資金です。ベンチャーの資金調達には、次の3つがあります。

(1) 公的機関・民間による補助金などの支援、
(2) 金融機関の融資、
(3) エクイティファイナンス
  エクイティファイナンスとは金融機関から融資してもらうのではなく、自らが新株
  発行を行なって資金調達をすることを言います。

(1) 公的機関・民間による補助金などの支援

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 公的な補助金制度として代表的なものには下記の3つがあります。

① 創造技術研究開発費補助金…1995年に創造的中小企業法が施行され、研究開発など事業の認定を受けた計画について、新製品開発、新技術研究などの経費の一部が補助されます。

② ベンチャー基金創設補助金…研究開発の支援のために、三和銀行や三井住友銀行が
  ベンチャー基金を創設し、研究開発しているベンチャー企業に対する経費の一部が
  補助されます。

③ 通信・放送新規事業助成金…2000年から通信・放送に関する新規事業計画につき、
  新サービス開発、新技術研究などの経費の一部が補助されます。

 国の補助金制度は私も何回か活用しましたのでその有難味は分っています。補助金は麻薬の様なもので、一旦切れてしまうとその後どの様に展開したら良いのか中々次の方策が見えません。まえもって補助金が切れた時のことを頭に描いて進めるべきです。特に開発の最終段階では補助金に頼らずに身銭を切る覚悟が必要です。そうすることで事業に対する心構えが変ります。

(2) 金融機関融資

 金融機関融資の活用にも大きく下記の3つの方法があります。

① 政府系開業融資・保証制度…融資には、担保が不要な開業資金として活用できる国民
  金融公庫、商工組合中央金庫、地方自治体の新産業育成基金があります。規模が拡大
  すると、担保が必要となりますが中小企業金融公庫などの制度が使えます。

② 知的所有権担保融資…研究開発型ベンチャー企業に対して、将来研究開発の成果が出
  て、特許などが認可された場合に、これを担保にすることを前提に日本政策投資銀行
  が融資を行います。

③ 民間金融機関融資…融資を受けるには、これまでの金融機関との付き合いが重要となり
  ます。また、展開しようとしている事業の内容を金融機関に十分に説明しておくことも
  必要です。融資額ですが、小規模事業者や中小企業を対象としている信用金庫では、融
  資限度額のガイドラインを5億円としているところが多いようです。

 2018年に関わった(株)マツザキの小水力発電事業では、建設資金として政策金融公庫からの融資1.85億円と民間金融機関からの1.85億円の計3.7億円を活用しました。民間企業である㈱マツザキが200kw級の小水力発電事業を進めるにあたっては、色々な問題をクリアしながら資金調達を進めて来ました。通常、小水力発電事業というと、地元の地方自治体や第三セクター(地方自治体と民間が共同)が進める場合が多いのですが、今回は民間会社が主体となっており、全国的にも非常にまれなケースとなっています。

 企業が事業を起こすためには、必ず資金が必要で、一般に3億から5億が必要となります。日本の場合、ベンチャー企業が資金調達するには、エンジェルの支援を乞う必要がありますが、ベンチャー企業が生まれるのは一般に情報分野であり、製造業ではなかなかむつかしくなっています。従って、中小企業が資金調達するためには、金融機関からの融資に頼らざるを得ない状況となり、金融機関からの融資を得るためには、従来より不動産等の担保を要求されます。しかし、最近はプロジェクトファイナンスと言って、事業の将来性を担保として行われて始めています。現在は、金融庁もプロジェクトファイナンスを推奨していますが、ただ、これを進めるためには、金融機関がプロジェクトの将来性を判断する能力が要求されます。今回の事業では、第二創業で得た収益を一般社団法人に基金として積んで地域に貢献するプロジェクトを考えました。一般社団法人とは、配当行為さえ行わなければ、通常の法人と同様で、使い勝手に優れています。

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(4) エクイティファイナンス

 エクイティファイナンスとは金融機関から融資してもらうのではなく、自らが新株発行を行なって資金調達をすることを言いますが、幾つかの種類があります。

① 自己資金…起業家自身・家族・友人の出資による資金をいい、スイートマネーともいい
  ます。設立当初どの程度の資金を用意すべきかは、ベンチャー企業の業種によって違い
  ます。起業家がスタートまで、どのようなネットワークを築いてきたかによって、自己
  資金の量と出資者の構成内容が決まります。

② エンジェル資金…ベンチャー企業を支援する個人投資家(エンジェル)からの資金で
  あり、富裕層と専門職業者の多い欧米でよく見られます。専門家としてのネットワーク
  をもち、単なる出資だけではなく、事業を軌道に乗せるためのアドバイス機能ももって
  います。日本ではこのエンジェル資金が少ないと言われています。

③ 政府系ベンチャーキャピタル…1963年に制定された「中小企業投資育成会社法」に基
  づき、東京、名古屋、大阪に3つの投資育成会社が設立され、ベンチャー企業の設立段
  階からの出資も行っています。

④ 民間系ベンチャーキャピタル…証券系や銀行系のベンチャーキャピタルがまず設立さ
  れ、メーカーや商社などの事業系も多く設立されています。また、既存ベンチャーキャ
  ピタルなどで投資活動を行なっていた専門家によるベンチャーキャピタルが、新たに設
  立されています。

⑤ 私募…特定少数(50人未満)に対する株式などの募集のことです。株式上場までの成
  長資金、あるいは事業協力者からの出資を、公募ではなく私募による第三者株式割当
  で募るものです。

⑥ 取締役・従業員持ち株会…株式上場以前に、リスクの高いベンチャー企業の経営に参画
  してもらった取締役や従業員に、会社貢献を賞与以外のキャピタルゲイン(株式値上が
  り後の価値増加)で報いるために、持株会社を組成し、貢献に応じて株式を増資配分し
  ます。

⑦ 株式上場市場…成長するベンチャー企業にとって、最もダイナミックな資金調達は株式
  上場による調達です。ベンチャー企業の目指す市場は、ジャスダック市場(特に二号基
  準)、東京証券取引所の新興企業市場「マザーズ」、さらに大阪証券取引所の「ヘラク
  レス(グロース)」「新市場部銘柄」などです。赤字企業でも公開できるのが、ジャス
  ダック市場(二号基準)やマザーズですが、将来の収益モデルが明確になっていること
  が前提です。

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 中小企業の資本政策としては、第三者株主からの資金調達方法と、創業者のシェアを確保する資金調達方法を組合せます。事業の成功率が高ければ、第三者から設立時株価(たとえば5万円)の数倍から十数倍の資金調達もできます。但し、第三者からの大型資金調達をする前に、創業者のシェアを確保するために新株引受権付社債を発行し、創業者が新株引受権(ワラント債)を確保したり、ストックオプションを取得しておく必要があります。株式上場後も創業者を含む安定株主が、過半数近い株式を維持することによって、経営権を確保し、経営の安定化をはかる方法です。

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 また、対象企業が、利益を余剰金として積み立ててしまえば負債の返済に使われる可能性があります。配当として受け取ってしまえば、出資者すなわち有限責任株主の手元に移った資金は取られることはありません。倒産までに十分に分配してくれれば、会社が倒産しても構わないという概念が出て来る可能性もあります。

<株主安定化政策の重要性>

 株式上場を前提にしているベンチャー企業は、スタート期から、どの様な第三者株主から協力を得、資金調達するかが重要になってきますが、以下の3つのいずれかから選択をしなければなりません。

(1) 自己資金の範囲内での資金調達…スタート期の先行投資を可能な限り引き延ばし、短
  期間に資金が入る受託開発や下請け生産などを中心に資金余裕をつくり、その後本来の
  開発に着手する方法です。しかし、自己資金の範囲内で、時間をかけて商品やサービス
  の開発をするので、成長のタイミングを失う恐れがあります。

(2) 事業の社会的認知を優先した第三者からの資金調達…技術に独創性があり経営システ
  ムに新規性があれば、第三者からの資金調達は容易です。ベンチャーキャピタルなどの
  第三者から多額の資金調達をし、素早く商品やサービスを市場に出し、事業の社会的認
  知を得て株式上場で多額の企業価値をつける方法です。しかし創業者の出資比率が低い
  と、過半数のシェアを超える第三者株主に経営を支配される恐れがあります。

(3) 創業者のシェアを重視した成長資金調達…技術の独創性と経営システムの新規性はあ
  るが、資金のない創業者は、設立当初の資本政策が重要です。

 コラボ本部は、設立して10年間は、ファンドオリエンテッドで進められて来ました。その意味は、ファンド26億の内、いくつかをIPOに持ち込むべく力を注ぐというもので、2.5%の6,500万円は、毎年運営経費として認められています。その中で、T社長の給与は支払われて来ました。ファンドの設定期間10年が過ぎ、ファンドの運営経費はなくなり、現在は会員会費に依存し、E専務とT社長は無給でアドバイザーとして勤務し、1,500万円でK氏他2名、賃料700万円で残100万円でやり繰りしている状況です。

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 MM Groupはエメラルドやダイヤモンドなどの宝石を扱うブラジルの管理会社であり、図に示すように鉱山会社、加工会社、販売会社を傘下に持ちます。MK氏は管理会社を運営するパートナーの1人であり、弟のMT氏は日本でMM合同会社を設立し、日本を含むアジア地域での委託販売を営んでいます。

 A7 Stones社はブラジル政府機関に正式に登録され・認可された鉱山会社で、現在2つの鉱床で採掘が行われ、第3の鉱床を探索中です。この2つの鉱区の採掘量は400kg/月で、今後10年間は十分に維持できる量と言われています。

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MM合同会社は、資本金50万円、従業員1名(社長:MT氏)の会社です。業務内容は、エメラルドやダイヤモンドといった高価宝石類の委託販売および金地金などの貴金属の仲介業を行なっています。MM合同会社は、次の3点において、将来の可能性を秘めています。

(1) 資産の大元をグループ内に確保していること。
  エメラルドやダイヤモンドでは、原石を安く入手して加工屋に渡すブローカーと呼ばれ
  る連中が存在します。miemeibutsujapan合同会社は、ブローカーの1つですが、鉱
  山会社と連携していますので、品質の高い原石を供給することが可能となっています。

(2) 資本政策が確立していないこと
  会社をまだ設立したばかりで資本金50万円と取引が成功すれば、今後の伸びしろの大
  きい会社だと言えます。したがって、資本投資がしやすい状況にあります。

(3) 個人保証をうまく活用できること
  MT氏は父親がブラジルの農場経営で大きく成功していることもあって、5億ほどの
  相続資産を有しています。今回の一連の取引においてもその資産の一部を担保として
  提供できており、取引の信頼性を高めています。

 以上、ベンチャー企業の資本政策を見て来ましたが、一攫千金を狙うベンチャー企業の運営は非常に難しいものがあります。いくら良い技術を有していようが、資金面の管理をしっかりとしてやらないと、とんでもない羽目に陥ることがあります。私は経験上そう思っていますが、皆さんどう思われますか。



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