孫正義の投資戦略(その2)…SBGにとっての自社株買いの意味

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 2020年3月13日版の日経新聞に、ソフトバンクグループ(SBG)は、5,000億円を上限に自社株買いを実施すると発表しました。これは米国のアクティピスト(物言う株主)エリオットが2兆円規模の自社株買いを要求するなかでの実施となります。新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけに、世界の金融市場は混乱しています。SBGの株価も過去1ケ月間で3割強下落しており、自社株買いの好機と判断したもようです。

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 株主還元策として「配当」と「自社株買い」が挙げられます。株主から見ると、「配当」は実際にお金を受け取るので分り易いのですが、「自社株買い」は直接的な利益はありません。しかし、「自社株買い」を行なうと株価上昇要因となり、敵対的買収から企業を守る効果が出てきます。

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 自社株を購入することにより、企業は発行済株式数を一部取得することになります。その一部は、企業は金庫株として保管されます。これにより市場に出回る株式が減るので、一株当たりの利益(EPS)は上がります。また企業は金庫株の消却をすることもできます。株式を消却処理するということは、企業の資本金を減らすことを意味します。貸借対照表上では資本を減らすことにつながり、投資家が重視する自己資本利益率(ROE)を高める効果があります。一方で、自己株式の消却にはデメリットも潜んでいます。企業規模が縮小するのでその後の株価の上昇は難しくなります。
 
 続いて2020年3月26日の日経新聞に、「モノ言う株主と神経戦 ソフトバンクG、自社株買い」の記事が掲載されました。それによれば、SBGは物言う株主エリオットと水面下で神経戦を繰り広げているようです。

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 関係者によりますと、SBGに出資する米ファンド、エリオット・マネジメントは3月に入り、SBG株の買い増しに動いたようです。エリオットはSBG株の約3%を取得したことが2月に明らかにしましたが、そのうえで、最大2兆円の自社株買いや社外取締役の増員を要求するとともに、新たな買い増しに意欲を示しています。

 これに対しSBGは3月13日に計2.5兆円の自社株買いを実施する方針を公表し、13日には第一段として上限5,000億円の自社株買いを実施しました。巨額の自社株買いが実現すれば、孫正義会長兼社長の持ち分は3~4割に増える試算ですが、物言う株主の要求をこなしつつ、一方でけん制もして行く舵取りは今後も続きそうです。

 物言う株主として知られるエリオットの動きの背景には、SBGの株価低迷があります。新型コロナウィルスの感染拡大による金融市場の混乱で、3月に入ってSBGの時価総額は5兆円近く減り、一時6兆円を割り込みました。一方、SBGは投資会社として中国・アリババ集団や国内通信機器子会社ソフトバンクなど27兆円超の株式を保有しています。この乖離幅についてSBG幹部は「会社創業以来、最大の水準」と話しています。エリオットはSBGの時価総額を「著しく低評価だ」とみています。エリオットからすれば、この状況は買い増しの好機であり、出資比率が高まれば、経営への発言力も高まると考えています。実際、手元に抱える資金が多い企業に対して、投資などに充てる予定がないならば自社株買いによって還元すべきだと、外国人投資家が求めることが多くなっています。株主総会で自社株買いを求める株主提案がでることもあります。

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 SBGの企業価値向上を目指す点は同じですが、エリオットは名うての物言う株主です。SBGは要求をこなしつつもけん制する必要もあるなか、SBGの打ち手は、4.5兆円の保有資産を売却して得た資金で最大2兆円の自社株買いを実施する計画でした。自社株買いを実施しきれば、孫氏のSBG株の持ち分比率は現状の2割強から3~4割に上がる見通しで、これは特定の外部投資家の経営関与に対するけん制に成り得えます。

 その後、SBGの株価は大型還元を好感し大幅高が続き、時価総額は2020年5月25日時点で一時の6兆円から8.7兆円まで回復しました。

 もっとも「コロナ影響で市場が混乱するなか、上場株などの資産売却と自社株買いのタイミングを計るのは簡単ではありません。アリババ株の売却も検討する計画ですが、同社株はSBGの信用力と資金調達の要であり、借り入れの裏付け資産にもなっています。売値を間違えれば、今後の投資戦略に支障が出る可能性もあります。

 SBGは純有利子負債を保有株価値で割った「負債カバー率(LTV)」を財務規律の物差しとしています。この数値が低いほど財務が健全とし、目標を25%未満に設定しています。足下の数値は19%で安全圏です。だが投資先の企業価値が目減りすれば保有株価値は減り、LTVの数値を押し上げます。株安がどこまで続くか分からないなか「兆単位の株主還元に打って出る体力はなく、そのタイミングでもありません。

 また、「ユニコーン」への投資は岐路に立っています。運用額10兆円の「ビジョン・ファンド」の投資先では米シェアオフィス大手ウィーカンパニーやインドの格安ホテル大手OYOホテルズアンドホームズがリストラ策を実施します。

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 コロナ影響による需要減は経営の逆風となるなか、SBGの物言う株主との神経戦は今後も続きそうです。皆さんはどう思われますか。



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