孫正義の投資戦略(その9)…孫氏の「空箱」年内上場の波紋

 孫氏が率いるソフトバンクグループは、2017年5月に10兆円規模の「ビジョン・ファンド1号」を2019年夏に「ビジョン・ファンド2号」を立ち上げました。

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 ビジョン・ファンド1号の1件当たりの投資規模は最低でも1億ドル、場合によっては数10億~100億ドルの大型出資もあります。想定される上場時の時価総額が10億ドル(1000億円)以上の企業を「ユニコーン」と言っていますが、いまや孫氏は巨額の資金を流し込むことによって無理やりユニコーンを作り上げてしまっているのです。

 これら企業価値が10億ドルを超える未公開企業「ユニコーン」の一部に対して、伝統的な手続きをせずに上場できるSPACを活用したいとの要望が出ているようです。

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 SPAC(Special Purpose Acquisition Company、特別買収目的会社)は、自らは事業を営んでおらず、未公開会社や他社の事業を買収することのみを目的として株式を公開する企業です。買収先を見つけると、その会社と合併します。事業を営む買収先が存続会社となって、上場会社となります。2年程度で買収先を見つけられなければ、投資家に資金を返す仕組みになっていることが多いようです。投資家はSPACの運営者の目利きを信頼して投資することになります。





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 SPAC上場時には事業の実体のない「空箱」で、未公開企業を見つけ買収するのが目的となります。SPACの上場時にはどの会社を買うか不明なので、白紙の小切手を指す「ブランク・チェック・カンパニー」とも呼ばれます。米市場で上場が急増しており、7~9月の新規株式公開(IPO)による市場調達額630億ドル(約6兆6000億円)のうち、半分をSPACが占めたそうです。

 すでに米国では著名アクティピストとして知られるビル・アックマン氏がSPAC上場で40億ドル(約4200億円)を調達し、ユニコーンへの投資を進めています。一方、SBGのSPACは数百億円規模にとどまる見込みです。SBGのビジョンファンドなどファンド事業は資金集めが難航していますが、10兆円規模で運用するSBGにとって資金調達が主な目的ではないとみられます。

 2020年秋の新聞情報によりますと、SBGによる「特別買収目的会社(SPAC)」設立計画について、SBGが早ければ年内にも、数百億円規模で米市場に上場させる見通しであることが分かりました。潜在的な投資先企業から早期上場への要望が強いことに応えるためです。ただSPACに対しては、買収先が上場会社となるため、安易な裏口上場につながりかねないとして批判も強いものがありました。SPACへの反対意見はSBG社内にもあり、「これが投資の中心になることはあり得ない、投資手段として検討せざるを得なかった」とSBG関係者はSPAC導入の背景について話しています。

 それでもSPAC活用に踏み切るのは、潜在的な投資先に上場までの手続きや期間を短縮したいとのニーズがあるからです。SPACは買収先を見つけると、その会社と合併します。事業を営む買収先が存続会社となって、上場会社となります。SPAC経由での買収を希望するユニコーンは増えています。

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 SBGはSPACで調達した資金を新規投資に用います。仕組みの上では、SPACを使い、傘下ファンドの既存投資先の買収・上場も可能ですが、SPGは既存投資先の買収には使わないと言っています。新規投資の際、SPAC経由で買収を打診すれば、「通常の出資形態よりも投資効率が高まる可能性があります。SPACを通じて上場までの「最短ルート」を提供することを交渉材料に、出資比率などの面でより有利な条件を引き出す構えです。投資会社として投資手段を広げる狙いがあります。

 一方で、買収先が通常のIPOの手続きなしで上場するため、SPACには「裏口上場」との批判も根強いものがあります。米市場でもSPACが乱立し、加熱感や投資家保護への懸念が高まっています。詐欺疑惑に揺れる電気自動車(EV)メーカーの米ニコラもSPAC上場です。日本では2008年にSPACの上場解禁が検討されましたが、課題が多く見送られています。

 SPACの運営ではガバナンスが問われます。今回の取り組みが実現すれば、個人を含む幅広い一般投資家がSPACを通じ、SBGが選んだユニコーンに投資できます。SPACを通じた上場で投資先の価値の客観性が高まる半面、一般投資家を巻き込むため、より慎重な投資プロセスが求められます。

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 安易な裏口上場をふせぐためにも、企業買収時の「質」の見極めが重要となります。皆さんはこのSPACどう思われますか。



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