コーヒーブレイク…日本酒半蔵にまつわる秘話

 今回は地酒にまつわる話です。まず地酒がどの様に作られているのかを確認します。次に、伊賀の地域は地酒で有名ですが、伊賀の地酒の特徴について調べてみましたので、それを紹介します。最後に、2016年の伊勢志摩サミットで一躍有名になった伊賀の地酒「半蔵」について、その人気上昇の秘話について紹介したいと思います。

地酒の製造工程

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 日頃から多くの人に親しまれている日本酒ですが、完成するまでにはさまざまな工程や人の手が加わっており、そのひとつひとつが日本酒の味を左右しています。また、この日本酒は、ビールやワインと較べると、その製造工程に大きな差があることが分ります。
・ 日本酒は「糖化」と「アルコール発酵」が同時に行われます。
・ ビールは「糖化」と「アルコール発酵」が別々に行われます。
・ ワインは原料に糖分が含まれるため、「アルコール発酵」のみが行われます。

 日本酒の「糖化」は、蒸した米に麹菌を付着させ、米の中で麹菌を繁殖させます。質の良い麹になるかどうかは、日本酒の質を左右してしまうほど重要な工程です。

 日本酒の「アルコール発酵」は、麹と水を混ぜ合わせたものに、酵母と乳酸菌、さらに蒸米を加えて行きます。このようにして日本酒の元となる発酵した状態の「もろみ」を作り上げます。発酵期間が終わると、もろみを絞って日本酒と酒粕に分ける「上槽」が行われます。いつどのタイミングで酒を絞るかは、日本酒の味を決める上で重要な工程です。それぞれの酒蔵や日本酒の種類によって変わるほか、天候、成分分析値などを元に決定されます。

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伊賀の地酒

 地酒の良さを決める要素は、酒米と水と酵母と杜氏の4つが挙げられます。

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 まず、第一の酒米についてですが、酒米で一番有名なのは、山田錦です。伊賀ではその他に神の穂というのが使われます。山田錦と神の穂の違いですが、山田錦は背が高いので、台風が来るとすぐに倒れてしまいます。一方、神の穂は背が低く、風に強い米です。しかも、早稲なので台風が来る前に刈り取れます。従って、山田錦と神の穂の両方を作り、通常はこれによって台風に対するリスク分散を行います。伊賀地方でも山田錦と神の穂の両方が栽培されて、台風による全滅を避けています。

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 2番目の水ですが、酒造りの名水の定義は、鉄分やマンガンが少なく、酵母によるアルコール醗酵に有用なミネラル成分が適当に含まれていることです。お酒の製造工程で、酵母によるアルコール発酵が行われますが、この段階で水が含むミネラル成分が非常に重要です。伊賀地域は、四方の山々から流れ出た清水が地下水となって、軟水の伏流水として豊富に溢れており、良水となっています。従って、伊賀の水は、良質のミネラル成分が含まれかつ軟水であることが地酒に適しているのです。

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 次に第三番目の酵母ですが、酒の製造工程では、まず麹で米のデンプンを糖化させ、それを酵母の力でアルコール醗酵させています。ここで麹と酵母ということばが出てきます。麹は、米にコウボカビといわれる微生物を繁殖させたもので、これで米のデンプンを糖化させます。そして糖化させたものを今度は酵母という単細胞の菌を加えます。すると糖化した米はアルコール発酵をしてお酒となります。酵母には多種多様のものがありまして、各社独自のものを持っています。製品ごとに酵母を使い分けます。この酵母で酒の味が変わりますので、酵母はお酒を造るうえで非常に重要です。

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 次に第四番目の酒造りの職人杜氏ですが、杜氏は何度で酵母をアルコール醗酵させるかを決め、酒の品質を追求します。皆さんご存知の吟醸酒というのがあります。これは温度13℃以下の低温で、長期間寝かせてアルコール発酵を行ったお酒です。そうすることで、良いもろみができると言われています。この辺は、杜氏の腕です。伊賀地区の杜氏には、岩手県というように東北地方から出稼ぎで来ているそうです。



 次に製法によるお酒の分類について少しお話します。

 日本酒には、純米酒と呼ばれるお酒があります。純米酒は、製造工程で醸造アルコールを使わないものを言います。一方、醸造アルコールを使う場合には、本醸造酒とか吟醸酒と呼びます。醸造アルコールというのは、増量、品質調整、アルコール度数の調整を目的に用いられます。また、本醸造酒と吟醸酒の違いですが、吟醸酒は、低温でゆっくりと醗酵させて造り上げる伝統的な手法の1つです。更に、精米歩合といものがありまして、精米歩合は白米のその玄米に対する重量の割合を言います。具体的には、精米歩合60%というときは、玄米の表層部を40%削り取ることを言います。そして、お酒のランク付けは、先程の純米酒、本醸造酒、吟醸酒といった区分と、精米歩合で行われます。例えば、大吟醸酒といえば、精米歩合は50%以下となっています。

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伊賀の地酒「半蔵」の人気上昇にまつわる秘話

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 伊賀の地酒に大田酒造が提供する「半蔵」という銘柄があります。私が北伊勢上野信用金庫に勤め始めた直後の2010年頃でしたが、NPO法人ハートピア三重の佐野理事長を大田酒造に紹介しました。紹介した目的は、当時、NPO法人ハートピア三重は、ブラジルサンパウロを相手に三重の物産を輸出することを検討していました。日本酒として何が良いかを模索している際に、たまたまコラボ産学官の会員の中に大田酒造の名前があり、これが佐野理事長の目に留まりました。

 大田酒造は昔ながらの造り酒屋ということで、毎年東北地方から杜氏がやって来て、昔ながらのスタイルで酒造りをおこなっています。2015年にブラジルで開かれた三重物産展に出品し、知名度を上げるために色々な工夫を凝らしていました。また、2016年には伊勢志摩サミットが志摩で開催されることが決まり、「半蔵」もそこで使ってもらおうと色々な画策が始まりました。

 運よく、高島屋の部長が県庁を訪れていた際、「半蔵」を目にして、高島屋が「半蔵」を応援するという体制ができました。そして、実際に伊勢志摩サミット用の地酒として提供すべく、地酒と真珠とかつおぶしの3点セットで売り出すことになりました。

 一方、三重県庁での乾杯酒の選別作業でも「半蔵」はいつの間にか候補の一角を占め、あとは乾杯酒として選ばれるかというところまでやってきました。ちなみに、鈴鹿の「作」、伊賀の「半蔵」、名張の「瀧自慢」の3者が残り、最終的に「半蔵」が乾杯酒の座を射止めました。テレビでも「半蔵」は大々的に取り上げられ、その人気は一気に高まりました。

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 大田酒造は、創業1892年(明治25年)で、伊賀盆地のほぼ中央、周囲は白鷺が飛び交う豊かな田園に囲まれ、蔵近くでは酒造りに使用する米が作られています。原料米は地域性を活かして三重県産、主に伊賀産を使用し、手作業を心がけ「半蔵」を醸しています。




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 「半蔵」は服部半蔵の半蔵からきたもので、先祖代々伊賀忍者の頭領を勤めたと伝えられています。服部半蔵は、足利家・松平家・家康家に士官した父保長の長男として、1542年に生れました。父の死後、半蔵は家康に仕え、伊賀同心の支配役として、故郷の伊賀忍者や甲賀忍者を動かして、数々の戦功を立てました。江戸城にある半蔵門は、彼の名に由来すると言われています。


 大田酒造の地酒「半蔵」をいかに人気の酒にしたかは、NPO法人ハートピア三重佐野理事長の手腕を示す好例です。残念ながら彼も2019年5月に享年72歳で亡くなりました。皆さんも一度「半蔵」を試してみては如何でしょうか。



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