平成28年度三重大学夏休み自由研究教室開催

1. はじめに

 今年も夏休みを利用した「三重大学夏休み自由研究教室」を四日市公害と環境未来館および北伊勢上野信用金庫本店で開催しました。この事業は、三重大学人文学部と北伊勢上野信用金庫の相互連携協力協定締結に伴うもので、三重大学が進めるESD教育の一環として行いました。

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 右の新聞切り抜きは、平成28年5月11日に三重大学人文学部と北伊勢上野信用金庫の間の相互連携協力協定締結式の模様を中日新聞が報じたものです。
今後は色々な分野で両機関が連携して事業を進めて行く体制が整い、三重大学夏休み自由研究教室もその一環として展開されました。

 三重大学夏休み自由研究教室と、三重大学の冠を付けてあるのは、三重大学が進めるESD教育を基盤に置いているからに他なりません。ESD教育とは、英語でいうEducation for Sustainable Developmentの略語です。テーマはどうするのか、何に焦点を絞って授業を展開するのかは、次項で詳細に説明しますが、ESD教育の一番のポイントは、授業を先生から一方的に受けるというのではなくて、必ずディスカッションと発表、情報共有と発信が授業の中で行われるということです。

2. ESD教育とは

 ESD教育とは何かについて少し説明します。ESD教育は、世界の国の子供達が人種や宗教を越えて仲良くやって行く授業で、ユネスコが推奨しているものです。この教育をやることによって、持続可能性社会の構築につなげて行くことができます、と一般には説明されます。

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 しかし、この表現は解釈が難しいので、もう少し平易に説明します。ESD教育のテーマとして取り上げられるのは、環境問題、多文化共生、国際金融、人権、開発、防災です。要は、世界共通の話題であれば、何でもテーマとして取り上げることは可能です。

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 ただ、テーマを扱う視点というのがあって、人間の尊重、機会均等、国際社会、平等ということを軸にして展開する必要があります。そして、その授業の進め方ですが、意見交換、発表、情報の共有と発信が必須となります。

 これらのことは、実は日本人が最も不得意としているものです。





3. ESD教育の展開

(1) 夏休み自由研究教室(幼児の部)

 幼児の部では、ESD教育を次の様に展開して行きます。まず、日本の昔話しを紙芝居で楽しみます。この紙芝居はあらかじめ準備して行います。そして、貼り絵と折り紙を使って、自分達で紙芝居をもう1つ作り上げます。最後は、作り上げた紙芝居を元にスタッフ、先生方、子供達による演技も行なわれます。

 この様な手順で授業を行う目的は、子ども達に授業に参加させることにより、子ども達への本紙芝居授業への興味を与えることにあります。

 ESD教育の本質は、自分の考えをまとめて発信することです。保育園児、幼稚園児の参加型授業にしている理由は、これを引き出すためです。自分の考えをまとめて発信することは、日本の教育が苦手とするものですが、日本の将来を考える時、これを子供達に学ばせ克服して行くことは重要です。

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(2) 夏休み自由研究教室(小学生・中学生の部)

 ここで行う夏休み自由研究教室は、通常、小学校・中学校で行っている夏休み自由研究教室とはちょっと違います。

 例えば、良く行われるのが里山見学ですが、通常は、里山で昆虫の観察をし、その観察内容をまと、そのままで宿題として学校に提出します。これが普通のパターンです。

 ESD教育は、少し状況が異なります。テーマを見付け、フィールドで観察をして、そしてそれをまとめるまでは同じです。ただ、最後にグループの仲間と語り合ったり、自分自身で発表してもらうということが加わります。皆と語り合って、自分で発表しなければなりません。これは日本の子供達がちょっと嫌がるかもしれません。ところが、これから成長して大人になっていく過程では、自分の考えを自分自身で発表するということは、とても大切なことです。

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(3) 金銭教育講座(高校生・大学生・一般の部)

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 高校生・大学生・一般を対象としたESD教育として、今回は金銭教育講座を提供しました。ここでのテーマは国際的に扱われる金融の問題であり、国際社会の視点から金融を考え、これについて意見交換することが重要なことです。

 質問用紙を準備し、授業が終わったら、出て来た質問を皆で考えてみるという方式を取りました。





4. スケジュール

 平成28年度は、下表に示す様に8月10日(水)と8月12日(金)の2日間を利用して、夏休み自由研究教室(幼児の部)、夏休み自由研究教室(小学生・中学生の部)、金銭教育講座(高校生・大学生・一般の部)を開催しました。

 授業の定員数は、夏休み自由研究教室(幼児の部)が20名、小学生・中学生の部が30名、金銭教育講座が20名として進めました。

 夏休み自由研究教室は四日市市の広報を通して、金銭教育講座は三重大学人文学部を通して募集しています。今年の夏休み自由研究教室は、2年目ということもあって、定員の倍近くの応募がありました。最終的には抽選で定員に絞りました。

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5. 具体的な授業内容

(1) 夏休み自由研究教室(幼児の部)

 8月10日(水)10:00~12:00の2時間、NPO法人ハートピア三重による紙芝居実演と折り紙を使った工作授業、更には全員参加の演劇を展開しました。会場は、博物館1階 四日市公害と環境未来館研修・実習室です。

 まず、NPO法人ハートピア三重の道上氏による紙芝居実演が行われました。参加したのは、市内に在住または通園する保育園児・幼稚園児の親子。子どもらは、興味津々といった表情で実演を聞いていました。演目は「浦島太郎」でした。

 紙芝居を見た後は、子どもたち自身で紙芝居を作ります。折り紙を使った貼り絵と、簡単な魚やイカの折り紙を貼ることで自分たちの紙芝居を形づくっていきます。完成したら、子どもらが作った紙芝居を使って、また紙芝居の実演です。子供らからは、今自分たちがつくったばかりの紙芝居を使って物語が読み上げられるのを聞き、歓声が上がっていました。

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 そして、最終プログラムは、子どもたちによる浦島太郎の演劇です。男の子はみんな浦島太郎、女の子たちは乙姫を演じました。頭にそれぞれ面をつけ、男の子らには竹でつくった釣竿が小道具として手渡されました。ストーリーはほとんど覚えているとは言うものの、いざ演じるのは難しいもの。大人たちの後について、台詞を言っていきます。三重大学人文学部の朴恵淑教授も乙姫に扮して子どもらを指導します。



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 劇中は、亀役の大人について教室中を回遊したり、白い髭や眉毛でおじいさんに変装するシーンなども。とまどうこともあったけど、練習無しのぶっつけ本番にしては、なかなかの出来栄えでした。

 最後に、皆で記念撮影を行いました。来年度も講座は実施予定です。




(2) 夏休み自由研究教室(小学生・中学生の部)

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 8月10日(水)午後、8月12日(金)午後は、三重大学が主導する夏休み自由研究教室(小学生・中学生の部)が開催されました。8月10日(水)の午後、一行は川越電力館テラ46へバスツアーにでかけました。

 一行はまず、川越火力発電所の、敷地面積にしてディズニーランド二個分という広大な発電所構内のバスツアーを行いました。高さ200メートルという煙突や、緑化を進めていることなど、ツアーガイドさんによる詳細な説明がありました。それからグループ分けを行い、中央制御室などの見学を行いました。「ここは、人体で言うと脳に当たるエリアです。ここからタービン建屋に指示を送っています」なかなか普段見ることができない制御室の様子に、子どもらは見入っていました。

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 電気を発電するための燃料である液化天然ガスは、カタールやインドネシアなどから船で輸送され、液体の状態で保管されています。タンクの大きさは、なんと75メートル×45メートル。しかしこの巨大なタンクも、なんと1週間で使い切ってしまうそうです。ガイドさんによる「平日と休日のどちらが電気を使うでしょう」というクイズには、休日!と答えた子も多かったですが、実は平日の方が各施設などが稼動するため、使用量が多いのだそうです。また、実際の発電部についても見学をすることができ、子どもらにとって大変貴重な経験となったことでしょう。

 最後は、中部電力の南創はじめ氏による、エネルギーに関する講義です。電気について学び、「電気を使う家電には何があるでしょうか?」という質問に、子どもらは「LEDライト」「冷蔵庫」「コンピューター」などと、回答していました。磁石とコイルを使い電流が流れると動く電流計や、手回し電球発電機など、子どもたちの興味をひく体験型学習がふんだんに盛り込まれ、電気の仕組みや発電について、また自然エネルギーについてなど、わかりやすい内容となっていました。

 また、人力発電自転車では、全員が自転車を漕いで、発電体験を行いました。たとえば、掃除機は1200ワット、レンジでは1300ワット、炊飯器では300ワットを必要とします。いざチャレンジ、学年と男女に分けて、最高発電力を競います。発電することについて、身をもつて体験することができた講座となりました。

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 そして、8月12日(金)の午後には、最終プログラムの発表会を行いました。三重大学人文学部の朴教授は、「今日は、バスツアーでも学んだことを元にして壁新聞を作ります。そして日ごろ考えていたことなども含めて、文字や絵でも表現してみましょう。すごいなと思ったこと、印象に残ったこと、何でも良いので、自由に紙に描いてみてね」と話しました。



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 そして、いよいよ発表会です。それぞれが自分たちの壁新聞について、発表を行いました。さまざまな意見が披露されました。みんなの学習成果が凝縮された壁新聞。それぞれがしっかりと学んだことが伝わってくる発表でした。



(3) 金銭教育講座(高校生・大学生・一般の部)

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 2016年8月10日(水)四日市本店にて「金銭教育講座」が開催されました。

 これは、三重大学のESD教育の一環として開催されたもので、学生など若い人たちにも金銭教育に触れてもらおうというのが主旨です。挨拶に立った伊藤氏は「この春、三重大学人文学部と北伊勢上野信用金庫は総合連携協定を結び、今後も連携事業を進めていく予定です。ESD教育というのはただ講演を聞くということではなく、講演後にディスカッションを行い発信まで行っていこうというものです。最後に質問コーナーを設けていますので、ぜひ皆さん活発な議論を行ってください」と話しました。
 

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 講師は中小企業診断士で ファイナンシャルプランナーの専門家吉川友則氏。各地でライフプランニングやファイナンスの講演を行っています。

 「生涯に渡る資金計画、ファイナンシャルプランを立てていくのがライフプランニングという意味です。今回は金融や経済の基本についてがテーマです」

 まず用語など、ファイナンスの基本について説明が行われました。例えば割引現在価値というのは、金利がつくため現在のお金と将来のお金の価値は異なるというを意味します。

 「期待値についてご存知ですか。二人でじゃんけんをするとします。勝つと100円もらえて、負けると100円を失うゲームで自分の勝率が45%だったとします。10回勝負すると、4500円もらって、5500円失います。つまりー1000円です。これが期待値です」。

 クイズ形式で質問が行われるなど、講演の実践的な内容に参加した人々は、興味深そうに聞き入っていました。一つご紹介しましょう。

 問:40円を払って1個のサイコロを振り「出た目×10円」のお金がもらえるゲームに、あなたは参加しますか?

 会場からは「まあ40円なら参加してもいいかな」といった声が。「しかしこれは負け続ける可能性が高いゲームです。各目からもらえるお金は、10円・20円・30円・40円・50円・60円で合計すると210円です。平均をとって6で割ると35円。つまり期待値が40円より低いということですね」具体的に計算して示された数値に、なるほどと頷く人の姿も見られました。

 講義は、ギャンブルについての話題にも触れられました。「皆さん、国内最大のギャンブルって何だと思いますか?」お分かりでしょうか。答えは「宝くじ」。2010年時点で5700万人もの人に、宝くじの購入経験があるとのことです。

 「実は宝くじの期待値は30円ほど。つまり購入価格の10分の1です。それでも当たるかもしれないという夢を見て購入する人がほとんどです。事前確率を無視してしまっている。これを心の会計と言います」と、吉川氏は話しました。

 この後、保険のギャンブルとしての性質や、株など金融商品についての説明などが行われました。

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 そして最後の質問コーナーでは「孫さんによる大規模企業買収が話題になっています。例えば堀江さんなども借金をしてどんどん投資をした方がいいと仰っています。世間一般では借金をするのはダメというイメージがありますが、先生はどのようにお考えですか?」といった質問が。

 「私も投資に賛成です。借金をして投資する方がコストが安いんですよ」と回答していました。

 講義後、参加した三重大学生からは「分かりやすい講義でした。保険もギャンブルでるということに驚きました」という声も聞かれました。また三重大学の教員は「若い人にとってライフプランを考えるのに、基本的な考え方を学べた良い機会だったと思います」と話していました。

6. あとがき

 今年も夏休み自由研究教室は無事終えることができました。幼児の部、小学生・中学生の部は、2年目ということもあり、募集の方法も要領が判り、定員以上の申し込みを得ることができました。特に幼児の部では、市内の公立幼稚園23園を全部訪問し、チラシを配布したことがポイントでした。

 一方、金銭教育講座は、今年が初めての経験で、募集の仕方が今一つでした。来年は、市内の高校をターゲットに積極的に訪問し、チラシを配布したいと考えています。

 マスコミには、下記の内容の記事にして頂きました。

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