平成27年度研究報告書

テーマ:「在日ブラジル人子供対象の紙芝居授業四日市モデルの確立」

1.はしがき
 三重県北勢部に位置する四日市市においては、平成22年3月末時点で、市の総人口の2.85%に当たる8,939人の外国人市民が暮しています。そのうち、申請者らの研究対象としている四日市市笹川地区には、約2,500人のブラジル人が住んでいます。

 三重大学社会連携研究センター四日市フロントは、平成22年度に、四日市市市民文化部市民国際課から、この笹川地区の多文化共生問題への取組み支援の要請を受けました。以降下記の活動を続けてきました。

・平成22年度…四日市市からの支援要請を受け、三重大学人文学部に相談しました。
・平成23年度…三重大学人文学部が文科省から「医療過疎地域における多次元的評価に
       よるアラートシステムの構築」で補助金を得たので、その一環として笹川
       地区の日本人390世帯、ブラジル人240世帯へのアンケート調査を実施し
       ました。
・平成24年度…「アンケート」調査の分析を進め、ブラジル人と日本人すべての児童・生
       徒を含めた学力支援、学力促進が重要であるとの結果を得ました。
・平成25年度…準備段階で得た成果を基に、四日市市からの事業費で本格的に紙芝居・折
       り紙授業を行ないました。授業は保育園、幼稚園児を対象に年間5回
       実施しました。題材は「ねずみの嫁入り」です。
・平成26年度…笹川保育園、笹川西保育園、笹川中央幼稚園で紙芝居・折り紙授業を
       年間5回実施しました。題材は「うらしまたろう」です。平成25年度の
       授業が好評であったことを受けての授業継続です。
       みえの現場・すごいやんかトーク100回メモリアルへ出席し、鈴木三重県
       知事と懇談しました。

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・平成27年度…平成25、26年度と同様に、笹川中央幼稚園、笹川保育園、笹川西保育園
       で紙芝居・折り紙授業を年間5回実施しました。題材は「ねずみの嫁入り」
       です。本授業も3年目を好評のうちに終了しました。

2. 研究の目的
 研究の目的は、下記の点にあります。
 (1) 紙芝居・折り紙を通して、子どもへの日本文化の理解促進
 (2) 紙芝居・折り紙を通して、幼児から学童を対象とした日本語習得の初期指導
 (3) (1)、(2)の活動が日系南米人の子どもの学力支援、学力促進に与える効果の
    定量的評価

3. 実施方法
(1) 紙芝居の準備
   平成27年度は、紙芝居の題材として「ねずみの嫁入り」を準備しました。
   「ねずみの嫁入り」は、自分達の素晴らしさに気付く物語です。

(2) 紙芝居の進め方
 1) 年間を通して「ねずみの嫁入り」と1本で通します。1本の紙芝居で毎回やること
   の意味は、子ども達にこの紙芝居の内容を覚えてもらい、日本文化の持つ意味を
   十分に理解してもらいたいという思いがあります。
 2) 具体的なやり方としては、1回毎にオリジナルの紙芝居を2枚づつ折り紙で作った
   紙芝居に置き替えて行きます。これの目的は、子ども達の参加型の授業として、
   子ども達への本紙芝居授業への興味を与えることにあります。また、最後には、
   スタッフ、先生方、子供達による演技も行います。

(3) 実施日時と実施場所
   第1回目:平成27年6月15日
   場 所:笹川中央幼稚園 … 9:30~10:15
       笹川西保育園 …… 10:30~11:15
       笹川保育園………  13:30~14:15

    第2回目:平成27年7月14日
    場 所:笹川保育園……… 9:30~10:15
        笹川中央幼稚園 …10:30~11:15
        笹川西保育園…… 13:30~14:15

    第3回目:平成27年10月8日
    場 所:笹川中央幼稚園… 9:30~10:15
        笹川保育園……… 10:30~11:15
        笹川西保育園…… 13:30~14:15

    第4回目:平成26年12月4日
    場 所:笹川中央幼稚園… 9:30~10:15
        笹川西保育園…… 10:30~11:15
        笹川保育園……… 13:30~14:15

    第5回:平成28年2月19日
    場 所:笹川西保育園…… 9:30~10:15
        笹川保育園……… 10:30~11:15
        笹川中央幼稚園… 13:30~14:15

4. 実施状況

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 本事業は、三重大学の協力のもとNPO法人ハートピア三重が中心となり行っている「紙芝居・折り紙を用いた日本語モデル事業」です。平成25年度(2013)から開始し、3年目となる平成27年度(2015)も引き続き行われました。

 これは、紙芝居と折り紙を用いることで、在日外国人および日本人の子どもたちともに、言葉の習得に役立ててもらおうと企画されたものです。

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 在日外国人住民の多い四日市市笹川地区において、四日市市立笹川中央幼稚園(四日市市笹川3丁目157)・四日市市立笹川保育園(四日市市笹川6丁目29−1)・四日市市立笹川西保育園(四日市市笹川9丁目16−3)の3園を対象に実施され、モデルを組み立てようというものです。


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 紙芝居のテーマは、初年度が「ネズミの嫁入り」、昨年度が「浦島太郎」でしたが、本年度は初年度と同じく「ネズミの嫁入り」が選ばれました。会では、まず紙芝居の朗読が行われた後、台紙に子どもたちが順番に色紙を貼り、ねずみや花や草などモチーフとなる折り紙を折って飾り付けてオリジナルの紙芝居を作っていきます。

 平成27年度は、6月・7月・10月・12月と、平成28年2月に1回、計5回の日程で実施されました。

平成27年7月開催時の風景

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平成27年10月開催時の風景

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平成27年12月開催時の風景

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 各会ごとに2、3枚の紙芝居を作っていきます。この日は、完成した紙芝居に、園児らが自分の名前を記入していました。

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 最終となる2月には、子どもたちが自らで作り上げた紙芝居を朗読。子どもらは「それ、私が作った!」僕の名前がある!」などと声を上げながら、嬉しそうに紙芝居を聞いている姿が見受けられました。



 NPO法人ハートピア三重によるバルーンアートも披露され、子どもたちの歓声が沸き起こっていました。平成28年度についても、事業は継続する予定です。

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                          プレゼントされたバルーンアート
                          を披露する先生

5.ESD(Education for Sustainable Development)教育について
 平成27年6月15日の第1回紙芝居・折り紙授業には、本事業を支援して頂いている三重大学人文学部・朴恵淑教授にも参加頂き、ユネスコで推奨しているESD授業の観点から、色々とご指導頂きました。

 朴先生によれば、ESD授業は、世界の国の子供達が人種や宗教を越えて仲良くやって行く授業です。この中では、持続可能性社会の構築につなげて行きます。

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 ESD授業の本質は、自分の考えをまとめて発信することです。保育園児、幼稚園児の参加型授業にしている理由はここにあります。これは日本の教育が苦手とするものであり、日本の将来を考える時、これを子供達に学ばせ、克服して行くことが求められています。

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6.アンケート調査結果

6-1.アンケートデータ(データ数:40)

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6-2.アンケート項目の平均値レーダーチャート分析

1) 紙芝居のテーマ選定、紙芝居の進め方について

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 5項目の質問に対する評価点は6.3~8.0に分布しており、全体的に高い得点が得られたと見做されます。このことは、本事業を始めて3年経過しますが、基本的に授業の進め方が園の先生方に支持されていることを示しています。

 5項目の質問の内、(1) 昔話に触れる機会になりましたか? (2) 子どもたちは、興味を持って話を聞くことができましたか? については、評価点は8.0、7.9となり、高い評価点が得られています。このことは、紙芝居のテーマ選定、紙芝居の進め方が保育園児、幼稚園児に適していたことを示しています。一方、(3) 手先を使った遊びに興味が広がりましたか? (4) みんなで作り上げる達成感を味わいましたか? (5) 言葉の習得につながりましたか? については、評価点が6.9、7.2、6.3とやや低めの値となりました。このことは、保育園児、幼稚園児にとって紙芝居を十分に理解し、活用することは年齢的にもやや難しいことを示しています。

2) 紙芝居授業の効果の現れ方について

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 平成27年7月と平成28年2月の約半年間で、レーダーチャートはほとんど差をみせておりません。このことは、1年間という短期間の実施で、本事業の効果を得ようとするのは、やや無理があることを示しています。

7. 意見・感想

1) 平成27年6月15日
  ・紙芝居や折り紙に興味を持ち、聴いたり取り組んだりする姿があった。子どもた
   ちは、はじめての活・2枚目の花の折り紙は紙が小さすぎるように感じました。
   (手先の動きがまだ伴っていない子もいるので)動(紙芝居を折り紙に、という
   ところ)なので、自分のしていることがどうなっていくのかはまだあまりわかって
   いない様子だった。回を重ねると見通しをもっていけると思う。子どもへの言葉が
   けは、分かりやすいシンプルな日本語にして、言葉の習得を意識してもらうと良
   と思います。
  ・2枚目の花の折り紙は紙が小さすぎるように感じました。(手先の動きがまだ伴っ
   ていない子もいるので)
  ・紙芝居の話の途中での脱線は、子どもが混乱していました。少し長いような感じ
   です。花や葉の折り紙は良かったです。
  ・折り紙が小さかったので、花を折るときに指先はうまく使えない子には少し難しい
   と感じた。
  ・折り紙を折るときに、今から何を折るのかを伝えていただくと、子どもも見通しが
   持ちやすいです。折り方の見本は、最後の花のように大きい折り紙を使っていただ
   くと見やすいです。
  ・子どもの集中時間を考え、1時間以内が望ましいです。
  ・2回目で話の内容に見通しがもてて良かった。
  ・全体で折り紙をするという経験が今までなかったので戸惑っている子もいたが良い
   機会となった。

2) 平成27年7月14日
  ・笹川西保育園、笹川中央幼稚園と比べて、当日は人数が多かったので2回している
   事を、1回でもいいかと感じました。のりをつけて貼る順番列が長くなり、子ども
   飽きてしまいますので・・・。
  ・折り紙をまとめて配ると分かりにくいと思います。(子供が混乱していました)
   雲は下書きするか、元々線が無いと厳しいと感じました。

3) 平成27年10月8日
  ・風の神が細かったが、のりの量を加減してつける経験となった。落ちついて取り
   組む姿があった。草も説明を聞いて、折れる幼児が多かった(1学期の花に比べ)。
  ・40分ほどで、1年生の授業時間と同じでちょうどよかった。作業が簡単で作り上げた
   と感じられたと思う。折り方の見方が大きい折り紙で見やすかったと思う。
  ・作業工程が簡単だったので、分かりやすくどの子も達成感が得られた。あらかじめ
   使う道具を担任に伝えてもらえれば、必要なもの(たとえばハサミ)だけを用意して
   おくことができて良いと思います。
  ・風の細長い紙は扱いにくそうでした。
  ・一つひとつ指示をだしながら進めてもらったので、言葉を聞く力を意識して関われ
   た。

4) 平成27年12月4日
  ・見学の方の会話は外でしてほしいです。子どもたちは、続きを覚えていて楽しみに
   していました。
  ・折り紙は説明を聞いて折ろうとする姿があった。花も上手に折れるようになって
   いたので、成長を感じた。
  ・具体的にどれにのりをつけるかを言うか、つける分ずつ配ると子どもたちはわかり
   やすいと感じた。「さあのりをつけましょう」では、全部のりをつけなくてはと思っ
   てしまう。説明する時の折り紙が大きくなっていたので、子どもたちには分かりや
   すくて良かったと思う。のりのつけるところ(葉っぱの部分)がわかりづらいようだ
   った。花は手先の不器用な子にとっては少し折りにくかったように思った。
  ・名前を書くのは、良い機会ですが、一人ずつまだ時間がかかるので、待っている子
   たちが集中できなくなってしまいました。
  ・紙芝居が最後までできたことが嬉しかったようです。
  ・大きな折り紙を使って見本をしてもらったので、以前より見本が分かりやすかった
   と思います。

5) 平成28年2月19日
  ・今日は風船を使っていたので子どもたちは楽しめていた。
  ・時間や今日の見通しをあらかじめ教えてほしい。
  ・風船を見て興味を持つ姿があった。いろんな形を作ってもらったが、ねずみをたく
   さん作ってもらってみんなで遊んでも良かった。
  ・今までとは違う内容で子どもたちも喜んでいました。通年の活動で、一つの昔話を
   しっかり理解することができ、発表会への活動へとつながることができました。
   外国籍児も十分楽しめました。
  ・生活発表会の劇をしたこともあり、今日の紙芝居は、より楽しんでいたと思い
   ます。いつもと違ったバルーンを使っての展開に子どもたちは楽しんでいました。
   同じ話に触れることで、内容も分かり、親しむ機会となりました。ありがとうござ
   いました。
  ・紙芝居の「あいうえお」の言葉探しは文字に触れる機会としても良かった。
  ・興味いっぱいで楽しんでいました。ありがとうございます。

8.あとがき
 紙芝居と折り紙を組み合わせた四日市モデル紙芝居授業も、今年で3年目を迎え、色々な試みを授業に織り込むことが出来る様になりました。

 最も典型的な試みは、紙芝居と折り紙を駆使して子供達の参加型の授業にできた点です。これはユネスコが提唱している持続可能な社会の構築を目指すESD(Education Sustainable Development)教育の本質とも合致します。

 子供達の参加型とすることで、毎年、毎年子供達の反応に新たな発見を見付け出しています。アンケート調査でも、子供達が紙芝居による昔話を喜んで聞いてくれていること、折り紙への興味を示してくれていることからも窺えます。ただ、達成感とか時間的な問題については十分な効果が得られたかどうかは、まだまだ検討する必要があります。

以上