世界の温暖化対応(その6)-EUのスタンス

 EU(欧州連合)のCO2削減に対する取り組みの原点は、ISO規格の世界標準化戦略と同一線上にあるように思えます。EUはISO9000品質保証規格、ISO14000環境マネジメント規格を世界の標準規格に育てて来ました。日本でも多くの企業が、大手からの受注をスムーズにするために、ISO9000、ISO14000の導入に一生県命取組んで来ました。今回の地球温暖化問題におきましても、全世界のCO2削減の標準化を、EUが逸早く取り込んで世界をリードしようとする姿勢が見え見えです。

 EUの世界を相手の交渉は秀でています。現在実効力のある京都議定書の枠組みは1997年の京都会議で決まったわけですが、EUはそれ以前から、「2020年には1990年対比20%を削減する」という独自の目標を掲げていました。その上で、「これはEU加盟国だけが負う義務だが、先進国全体で取り組むのであれば、30%を目標にすべきだ」と主張しました。そして、こうしたEUの巧みな交渉術に「日本が不当に高い目標をのまされた」という見方が、今でも政府や産業界に根強く残っています。その結果、現在日本は、1990年対比2012年までに温室効果ガス6%の削減義務と、2020年までに温室効果ガス25%の削減目標を背負っているわけです。

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 更に、2005年から、EU加盟国15カ国間での排出権取引(EU-ETS:European Union – Emission Trading Scheme)が開始され、温暖化対応という実際面でも、EUは世界をリードしようとしています。図はEUで排出権取引がスタートした直後のCO2の価格の推移を示しています。取引価格に乱高下はありますが、ほぼ20ユーロ/トン(2,292円/トン)前後水準にありました。これまでのところ、世界で唯一、キャップアンドトレード方式によって取引が実施されています。

 キャップアンドトレード方式は、図に示すように企業にCO2排出目標値を設定し、その値よりCO2排出量が増加する場合には、排出権を市場から調達しなければならないという義務を課します。日本の産業界は、この方式に反対しています。その理由は、CO2排出の上限が明確になると、それ以上の排出分については、設備の交換や排出権の購入という形で、大きなコストとして企業経営に跳ね返るからです。1997年の京都議定書発効の段階で、すでにCO2削減に対しては相当努力してきたのに、更に努力を強いられるはたまらないという思いがあるからだと思います。

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 最近のポスト京都議定書を巡る国連における気候変動枠組条約国会議(COP)での交渉場面では、やはりEUのしたたかなやり口が垣間見えます。EUもポスト京都議定書では、CO2を排出する先進国すべてが議定書に参加すべきとする日本と同様の前提条件を設けています。しかし、日本が交渉力学や存在感の弱さということから、孤立しているのに対し、EUは、前提条件を前面に出さずに交渉することで、多国間外交で多数を占める途上国や非政府組織(NGO)といった国際世論を味方につけています。

 日本は、1997年の京都議定書採択の時と同じ過ちを繰り返さないためには、交渉を有利に進め、国際政治における日本のソフトパワーを高めるための戦略・戦術こそ、いま検討すべき時です。しかし、EUのやり方を参考にすべきなのでしょうか。皆さんどう思います。



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