福島原発事故による混乱(その7)-課題が多い「原発ゼロ」

 先日、三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱の加藤義人エコノミストの講演を聞きました。その中で加藤氏は、「我が国の財政運営における避けられない幾つかの制約条件を挙げられ、その制約条件の下、日本はどうすれば生き延びて行けるのか」について興味ある話しをしておられましたので、まずそれを紹介します。

 日本の避けられない制約条件の1つ目は、日本が今や世界随一の高齢化社会で、フロントランナーである点です。日本はどの国も参考にできず、反対に世界各国は、日本がどう舵取りをするのか興味津々で眺めている状況です。

 2つ目は、低成長でいいから、とにかく経済成長堅持を実現しなければならない、という点です。かつての高度成長ではあり得ません。

 3つ目は、借金残高の増大問題です。借金残高は、日本は世界トップクラスであるのに、まだ存続できる理由として、講師は、実質GDP(国内総生産)に対する長期債務残高の割合が重要だとされます。日本はGDP500兆円、債務残高1,000兆円で約2倍とまだ余裕があるとしています。しかし早晩、重荷になって来ることは間違いありません。これを回避するには日本の経済を少しでも良いから成長させなければならないというものです。

日本経済の制約条件



 そこで、上に掲げた3つの制約条件を眺めながら、「原発ゼロ」の問題を見てみます。

2030年に原発を0にすると

 まず民主党政府のエネルギー・環境会議がまとめた「原発ゼロの課題」では、原子力発電の比率ゼロを2030年に実現する難しさを浮き彫りにしています。日本の浮沈にかかわるGDPが「原発ゼロ」とすることにより、大きな影響を受けます。経済を成長させるには産業の活性化が必要となります。それにはエネルギーの安定供給は不可欠です。そうなると「原発ゼロ」は大きな問題となるはずです。

 一方、日経新聞では、「原発ゼロ」は特に「電気料金上昇」「日米関係」「温暖化ガス削減目標」の3点で重要と指摘しています。

 まず「電気料金の上昇」は、家庭の負担増に繋がり、我々の生活に密接に関わります。電気代が上がる最大の要因は、再生可能エネルギーの拡大によるものです。現在、太陽光発電のコストは、1kwh当り30~40円。同10円程度で済む石炭や液化天然ガス(LNG)の火力発電に比べ、3~4倍もかかることになります。

 高コストを支えるのは、平成24年7月に導入した固定買取り制度です。再生可能エネルギーによる発電事業が成り立つよう、一定価格で電力会社に再生可能エネルギーの電気を買い取らせます。コストは電気代に上乗せされます。同様の手法で、再生可能エネルギーが普及したドイツでは、電気代が上がり過ぎたとの批判が集まり、再生可能エネルギー制度の見直しを余儀なくされています。

 「日米関係」では、再利用するとしてきた使用済み核燃料を巡る政策転換は、日米関係に影響を落とすと考えられます。日本は核燃料リサイクルを掲げ、核兵器の原料ともなるプルトニウムを原発の燃料として生産することを、国際社会から許されてきたのです。特別扱いの裏付けは、日米原子力協力協定という米国からの「お墨付き」なのです。

 1968年に締結した同協定は、1988年に改定され、日本は独自に原発の使用済み燃料を再処理し、原発燃料用のプルトニウムをつくることが認められました。原発ゼロを選べばプルトニウムを燃料に使う必要は消え、事情は変わります。国際社会に説明を求められる可能性もあります。

 「地球温暖化対策目標の白紙化」については、政府は2020年の温暖化ガス排出量を1990年比で25%減らす目標を掲げていますが、原発依存度を2030年までにゼロにすると2020年時点で7%程度の削減にとどまります。温暖化ガスの削減目標は、欧州連合(EU)が1990年比で20%減、米国が2005年比で17%減とそれぞれ示しています。日本だけが削減目標を大幅に引き下げれば、国際的な非難を受けると懸念する声もあります。

 このように、「原発ゼロ」を推進するに当って発生する問題はまだまだ幾つもあると思います。太陽光などの自然エネルギーを最大限増やすのは大事ですが、原発に代わり主役になれるかどうかは未知数です。安全性を確かめた原発を再稼働させて電力不安を拭い、自然エネルギーの実力を見定めてから改めて中長期の政策を決める。そうした考えは現実的と言えそうです。皆さんどう思われますか。

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