米国シェールガス革命の裏側(その10)-巨大都市ニューヨークの運命は

 2010年に米国のテレビで放映された「ガスランド」というドキュメンタリー映画の紹介は今回が最終回となります。最終回はアメリカの心臓となっている都市ニューヨークでの状況を取り上げています。

 デラウェア川流域は、ニューヨーク市の水瓶となっています。ここからニューヨーク州680万人、ペンシルベニア州540万人、デラウェア州70万人、ニュージャージー州290万人の合計1560万人の人々に飲料水が供給されています。
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 2010年の時点では、このデラウェア川流域でガス井戸掘削は行われてはいませんでした。しかし、デラウェア川流域にも豊富なシェールガスが存在することから、現在何かが起ころうとしています。

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 まず、ニューヨーク市議会の環境委員会委員長のジェームス・ジョナロのコメントを紹介します。
 「大人達がテーブルを囲んで、濾過されていない飲み水が安全なのかどうかを話し合う。その光景が現実のものになろうとしているのです。こんな状況は狂っているし、まさに滑稽を通り越している。」

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 次は、マンハッタン自治区長のスコット・ストリンガーのコメントです。

 「太陽系の他の惑星で、水を見付けることができますか。ニューヨーク市の飲料水は優れものです。ところが、火星に水を捜しに行かなければという議論が初まっているのです。これまで20年近くレストランに通っているが、誰も瓶詰飲料水が欲しいなんて言わない。人々は、レストランでは水道水を飲むのが当たり前なのです。現在、ニューヨーク市は、最大の環境危機に晒されています。」

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 更に、モーリス・ハッチェイ ニューヨーク州下院議員のコメントを紹介します。

 「ガス井戸掘削会社は、自分達のやっていることが環境を害するということよりも、会社が儲けることばかり考えている。我々自身がもっともっと情報を入手して、ガス井戸掘削についてより詳細を理解すべきなのです。」

 この様な状況の下、ニューヨーク州ではエネルギーと鉱物に関する小委員会の中で公聴会が開催されました。公聴会では何人かの下院議員から質問が出されます。この質問に対し、ガス会社のロビイストや環境コンサルタントがそれぞれの意見を述べる形式で進められます。

 ここでは、コロラド州出身のデゲット下院議員がガス井戸掘削会社のロビィストをやり込める場面を紹介します。デゲッテ下院議員は次の様に尋ねます。

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デゲット議員:
「西部の地域では、これまで人の健康被害や大きな環境被害をもたらす各種のシェールガス掘削手法を経験してきました。そこで、ジョンさん、あなたは水圧破砕法が絶対に飲料水に対し安全であるという姿勢を取られる訳ですね。そこで仮にそれが正しいとすれば、あなたはなぜ“安全飲料水法”の下で行われた水圧破砕で用いられる化学物質の公開を拒まれるのですか?」

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ガス会社ロビイスト:
「すでに申し上げたように、我々は個別にではなくて一括情報として近いうちにこれらデータを提供しようと考えています。」




デゲット議員:
「どうしてあなたはこの場での情報公開を拒むのですか。十分に安全であるなら、使用された化学物質を公開すればいいではありませんか。」

ガス会社ロビイスト:
「判りました。本日公開させていただきます。」

デゲット議員:
「水圧破砕のそれぞれの工程で、どの化学物質が用いられているのかをはっきりさせて下さい。」

ガス会社ロビイスト:
「水圧破砕工程で登録されている化学物質としては、ちょっと待ってください……。」  なかなか出そうとしない。

デゲット議員:
「現状では、あなたは私が提出した修正法案に賛成なのですよね。」

ガス会社ロビイスト:
「我々はすべての情報を提供して行きます。」

デゲット議員:
「あなたはそれらの情報を提出した時点で、私の修正案に賛成するということになるのですが、分かっていますよね。」

ガス会社ロビイスト:
「済みません、あなたの修正法案について詳細を存じ上げていないので、何とも言えません。」

デゲット議員:
「修正法案の内容は、“安全飲料水法”に基づいて水圧破砕を行った場合には、含まれる化学物質をすべて報告することを義務付けているのです。」

ガス会社ロビイスト:
「すでに述べました様に、我々は現在持っている情報を信じています。」

デゲット議員:
「修正法案に賛成なのですか? 反対なのですか?」

ガス会社ロビイスト:
「我々は現在持っている研究室で出したデータを信じています。」

デゲット議員:
「そうですか。分かりました。あなたは化学物資は安全であると言葉では言っているけれど、現在の“安全飲料水法”の下では報告する必要はないという理由で、私の修正法案には反対であるということなのですね。」

ガス会社ロビイスト:
「その通りです。」

 2010年の時点で、この様な討論がニューヨークを含め各地で始まろうとしていました。折しも、2014年12月19日の日経新聞に「米ニューヨーク州が17日、州内でシェール開発のための採掘を事実上禁止することを決めた。」というニュースが掲載されました。ようやくアメリカもシェールガスによる環境汚染対策に動き始めたという感じがしていますが、皆さんどう思われますか。



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