若者キャリア観の変化(その1)-「多様な個人」生かす組織を

 2014年8月15日の日経新聞の経済教室のコラムに、早稲田大学の竹内則彦准教授が、「多様な個人を生かす組織を」と題して投稿しています。その中で日本の企業における新入社員の意識変化がどの様に変わってきているのかを非常にうまく説明されていましたので紹介します。

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 元々の論文は、2014年8月初旬に米フィラデルフィアで開催された経営学の世界的な権威である米国経営学会の国際会議にてスイスのIMDビジネススクールの研究グループによって報告されたものです。非常に興味深い内容であったことから、それを竹内准教授が現在の日本の状況に照らし合わせて整理し直したものです。

 多様化する個人のキャリアに対する考え方を分類可能な形で整理すると、大きく4つに分けられる様です。表は竹内准教授が彼等の発表を基に作成したものです。

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 それによりますと、第1は「階層的キャリア(linear career)」です。
図のピラミッド型の組織構造のなかで、自身の相対的な地位を高め、責任の範囲を拡大し、影響力を高めることを志します。この志向が強い人は、いかに着実に組織や社会の「タテ」の階段を上って行くかがキャリア成功を判断する基準となります。

 第2は「専門的キャリア(expert career)」です。
自身の「天賦」といえる仕事領域を見付け出し、そのなかでより高い専門性(技術や能力)を追求します。これを重視する人は、自身の仕事の専門性をどの程度高められるかによって個人のキャリア成功を評価する傾向にあります。

 第3は「スパイラル・キャリア(spiral career)」です。
比較的早い段階で経験した自身の仕事の領域を核にしつつも、その後5~10年程度ごとに新たな領域に挑戦し、より幅広いスキルや知識、能力を形成します。まさに中心から周辺へと同心円状に広がっていきます。「らせん状」にキャリアを形成する考え方と言えます。この考え方を持つ人は、歳月を経て得られるスキルや知識などの広がりと、そこから得られる自己の連続した成長感を大切にします。

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 第4は「変動的キャリア(transitory career)」と呼ばれ近年良く見られます。
自身にとって新しいことや変化とは何かを重視し、新しい経験を求め、前向きに仕事領域の変更や転職を繰り返します。前述のスパイラル・キャリアとの大きな違いは、前職や以前の職務経験とその後に秩序だった連続性や一貫性を求めない点であるそうです。1つの仕事領域や組織に従事する期間も平均すると2~4年程度と必ずしも長くありません。この考えを重視する人は、仕事を通じてどれだけ斬新で夢中になれる経験ができたかによって、キャリアの成功を捉えるということになります。

 近頃の若い人は何を考えているのか判らないと、昔流の教育で育ってきた人たちは良く嘆いています。しかし、そう思うのがもう過去の考え方ではないでしょうか。海外では一貫性を求めないキャリア観が浸透し始めているようです。そして、日本においても新入社員の意識変化の中で、この一貫性を求めないキャリア観の普及の芽が生まれようとしています。

 日本の企業においても、このことを十分に理解した上で、新入社員の方向性や人材像はどうあるべきかを発信し、職場のミスマッチが起きないように努力すべきです。そして、日本の大学においても、これからの企業は新入社員に一貫性を求めないキャリア観を求め始めていることを十分に認識した上で、新しい大学教育の在り方を模索する時期に来ていると思いますが、皆さんどう思われますか。




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