映画「卒業」にみる奇跡を起こす方策
今回はダスティン・ホフマンが主役を演じた1967年の「卒業」という50年前の映画を紹介しながら、奇跡はどのようにして起こせるのかという問題について考えてみます。
1967年は、丁度私は東京の大学に入学した18歳の時でした。渋谷の映画館へ、同じように東京の芸大に通っていた高校の同級生を誘って、この映画を見に行きました。初めてデートした若い2人にとってはややショッキングな内容で、この映画に誘った自分が少し恥ずかしいと感じていたのを覚えています。その後、彼女との交際は途絶えました。
映画のストーリーですが、大学を優秀な成績で卒業したベンジャミン(ダスティン・ホフマン)は、故郷へと凱旋します。両親の期待を一身に受け、何不自由なく育った彼ですが、自分の将来にはなぜか漠然とした不安を抱いていました。そんなある日、彼は父親の友人である人妻、ロビンソン夫人(アン・バンクロフト)に誘惑され、関係を持ってしまいます。夫人との危険な逢瀬に溺れていくベンジャミンでしたが、ロビンソン夫妻の娘・エレイン(キャサリン・ロス)が現れたことで、ベンジャミンの人生は一転します。エレインとの真実の愛に目覚めた彼は、周囲の様々な障害を跳ね除け自分の気持ちを貫こうとします。
この映画の全編をサイモンとガーファンクルのスカボロー・フェアという曲が流れます。他にもサウンドオブ・サイレンスやMs.ロビンソンという有名な曲も流れるのですが、なぜかこのスカボロー・フェアという曲がずっと頭の片隅に残っていました。それから50年後、別の形で、若い時に慣れ親しんだスカボロー・フェアが私の前に登場しました。
まずは下記のサイトでこの曲を聴いてみて下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=He-LXx0dsL4
50年ぶりのきっかけは次の様なことからでした。私は2005年(平成17年)9月から妻と一緒に近くのゴルフ練習場でティーチングプロからゴルフのレッスンを受けています。プロは私と同じ歳で、1948年生れで70歳です。ゴルフレッスンの最中にプロがこのスカボローー・フェアのメロディを口ずさむのです。ある時、私は「卒業」という映画のDVDをプロに渡し、自分も再度スカボロー・フェアという曲が、なぜこの映画の中で使われているのかを調べてみました。
歌詞の一部を紹介します。パラッド(仏:バラード)として詠われたものが受け継がれているのですが、具体的に誰がどう作ったかについては、正確な記録は残されていないということです。パラッドとは、イギリスなどで伝承されてきた物語や寓話のある歌のことであり、通常は詩の語りや、語る様な曲調を含んでいるとのことです。
Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Remember me to one who lives there,
For she once was a true love of mine.
スカボロー(Scarborough)は、英国ノース・ヨークシャー州に現存する海沿いの街であり、中世紀は交易の拠点として栄えていました。毎年、夏に市(Fair)が開催され、歌詞にある様なパセリ、セージ、ローズマリー、タイムといったハーブも売買されていました。因みに、それぞれの花言葉ですがパセリが安楽、セージが強さ、ローズマリーが愛、タイムが勇気です。
スカボロー・フェアの曲は、その町へ出掛ける友人に、以前の恋人への伝言を頼むという形式を取っており、一連の不可能な仕事を成し遂げてくれれば再び恋人になれるだろうと語る内容です。歌詞は下記の様です。
1.「縫い目もつけず、細かい針仕事もしないでシャツを作っておくれ。」
「しかもそれを乾いた井戸で洗っておくれ。」
「水も湧かず雨も降らない土地に育つイバラの上でシャツを乾かしておくれ。」
という私の願いを昔の恋人に伝えて欲しい。これらのことができるのであれば、
もう一 度恋人同志に戻れる。
2.「海の波打ち際に1エーカーの土地を見つけておくれ。」
「羊の角でそこを耕し、一面コショウの実を蒔いておくれ。」
「革の鎌でそれを刈り取り、それらをヒースのロープでまとめておくれ。」
という私の願いを昔の恋人に伝えて欲しい。これらのことができるのであれば、
もう一度恋人同志に戻れる。
この歌詞が意味するところは、彼女が奇跡的な事柄を起こさない限り、再び昔の恋人に会うことは不可能だということです。
映画「卒業」では、最後にベンジャミンは誰も考えない様な行動に出ます。教会でエレインが他の男と結婚式を挙げて、まさに指輪交換という場面で、式場の後ろの、2階の隔てられたところから、窓ガラスを叩いて式を妨害し、遂には彼女を連れだして逃げるというシーンとなります。びっくりしました。
2016年に出版された「運命の逆転」という本で、高橋桂子氏は奇跡について次の様に述べています。
運命は、ただ「外からやってくる力」ではなく、そこには人間の側、私たちの側から働きかける強い力で変えることができます。私たちは、「運=外からやってくる力+内からの迎え撃つ力」を打ち立てるべきだとします。内から迎え撃つ力が運命を逆転します。こうすれば、奇跡を起こすことが可能になります。
ほとんど結婚式が終了する間際に、普通ではありえない不可能なことをベンジャミンはやってのけたのです。だから、彼女を結婚式場から連れ出して逃げるという事が可能になったのです。この様な行動が奇跡を生み出したのです。
今思うと、本当に凄い映画だったと思いますが、皆さんどう思われますか。