新世界秩序への誘い(その29)…宇宙を解明する量子論

 アインシュタインが相対性理論を引っ提げて登場した時、それまでニュートン力学を信奉していた宇宙科学者達は悪夢を見ている様でした。ところが、更に研究が進んで、宇宙論がビッグバンとそれに伴う宇宙膨張説が語られ始めると、今度はアインシュタインの相対性理論の重力場の方程式さえも役に立たなって来ました。

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 新たにビッグバンの原点となる超高温、超高密度、無限小の奇妙な世界が登場したのです。ここでは、時間と空間の相互作用が強くなり過ぎて、それら二つの間にはっきりとした区別が無くなってしまうのです。時間と空間が混沌としたなかでは、物事は突発に、不連続に起こり、時間の流れに沿った常識的な因果関係は全く成り立たなくなるのです。



 これまでの物理学の法則が成り立たなくなってしまう原初宇宙の探究を進めるためには、その様な世界を扱うための、特別に工夫された新しい物理学「量子力学」が登場しました。

 量子論とは、無限に小さな世界において成り立つ特別な物理学の法則を探り、更にその法則を用いて、不連続に発生あるいは消滅を繰り返す微小なエネルギー粒子である素粒子の性質を研究する学問です。

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 ドイツの物理学者マックス・プランク(1858~1947年)は、20世紀初頭に、「光は極めて周波数の高い電磁波であり、極めて高周波の電磁波は不連続な粒子の様に見える」という仮説を提唱しました。光が波なのか、粒子なのかで意見が分かれていた学会に、「光が波なのか粒子なのか悩むよりは、波の性質を持ったエネルギー粒子こそが、真の光の姿であると考えた方が良い」という大胆な見解を示したのです。

 光の波長を極限まで短くして行きますと、周波数は異常に大きくなって行きます。その結果、波の性質を持つ光のエネルギー量も、また無限に大きくなって行きます。現実にそんな強い光が自然界では存在するとは、まず考えられませんが、プランクは、その様な超高周波、超高エネルギーの光が存在する確率はゼロではないと主張しました。

 統計力学上の確率論に従う光は、1,000兆分の1以下と言う低い確率でしか起りませんが、この宇宙では、そんな不可能に近い出来事でも、起る時には起こるものなのだとプランクは考えたのでした。プランクの理論に従えば、ビッグバンの初期に想像を絶する超高周波、高エネルギーの光が存在していたと考えてもおかしくないことになります。

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 その後、プランク理論は、ウェルナー・ハイゼンベルク(1901~1976年)の不確定理論によって確かな裏付けを与えられ、更に、エルヴィン・シュレディンガー(1892~1987年)の導いた微分方程式によって発展を遂げたのです。

 ハイゼンベルクの「不確定性原理」は、位置の標準偏差σxと運動量の標準偏差σpを結び付ける下の不等式で表現されます。この式の意味するところは、「ある粒子の位置をより正確に決定する程、その運動量を正確に知ることができなくなる。逆もまた同様であることを意味しています。

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 一定の限界を超えたミクロの世界では、ある特定の出来事の発生時刻や変化の様子を正確かつ連続的に定めることは不可能で、その出来事の起こる様子を確率的な可能性として取り扱うことしか出来ないというものです。

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 これを示す具体例として、高い塔のてっぺんからチリ紙の断片をばら撒く状況を考えてみます。風向きや塔の高さなどのデータから、確率的におよその飛行距離は推定できるかも知れませんが、個々のチリ紙の断片の正確な飛行距離を決定することは不可能です。正確な飛行経路計測のために、観測者がチリ紙に近づこうとすると、近づくというその行為によって落下飛行中のチリ紙断片の周辺気流が微妙にゆらぎ、飛行経路が変わってしまうからです。

 要するに、飛行経路というものは観測者との相互関係によって決まるもので、「正しい飛行経路」がもともと存在しているわけではないと言うのです。不確定性原理の意味するところを比喩的に述べると、この様なことになります。

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 一方、シュレディンガーの方程式は、光が波動の性質を持っていると考えた時に、その光子の全エネルギーEはどの程度かを計算する式です。ところが、光子特性は位置座標の関数である波動関数ψ(x, t)で決められるので、そのエネルギーは変動します。しかも、どの様にもエネルギー値を取るので、確率分布を示すわけです。


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 これを更に解り易く示すものとして「シュレディンガーの猫」の話があります。これは、外から見えない箱の中に猫が一匹入っていて、青酸ガスが発生すると、猫は死ぬ仕掛けになっているとします。青酸ガス発生装置は、検知器が放射性元素が放出するα粒子(ヘリウムの原子核)を感知すると作動するものとし、一定時間内にα粒子が飛び出す確率は二分の一だとしてみます。一定時間が経過した後では、箱の中の猫は生きているか死んでいるかのどちらかなのですが、実験者には実際に箱を開けてみるまで、猫の生死は確率的にしか予測できません。箱が閉まっている間は、猫は二分の一の確立で生きており、二分の一の確率で死んでいると考えるしかありません。奇妙なことですが、猫の生死は、実験者が箱を開けた時点で初めて確定することになります。

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 この話は、量子論の世界においては、素粒子の観測こそが「結果」すなわち「確定的な事実」を生み出すのであり、観測が行われる以前から、個々の素粒子の位置や運動様態ははっきり決まっているのだとする考えには意味がない、ということを言わんとしたものです。別の言い方をすれば、「物事が起こるかどうかは、どんなときも確率的にしか述べられない」という量子論の立場を説明したものです。

 ミクロの世界で確立された量子論が、宏大な宇宙の現象を明らかにしたとは本当に驚かされますが、皆さんどう思われますか。



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