七十歳代黄金期への誘い(その1)…低迷する地域経済と都市消滅の恐れ
「地方創生」という言葉が生まれたきっかけ
「地方創生」という言葉が生まれたきっかけは、3年前の2014年末に出された増田レポートでした。増田レポートは、衝撃のレポートでした。「東京など都市圏への若者の流出」と「若年女性の減少」が進めば、2040年には全国の1,799のうち896の市町村は、「消滅可能性都市」になるという恐ろしいものです。
これによると、三重県は結構危険な位置付けです。三重県は、消滅の可能性が48%で、約半分の確率で多くの市町村が消滅する運命にあります。従って、三重県の各地域では、地方創生を一生懸命やって消滅するのを防衛する必要があります。
さて、地域問題の背景について考えてみたいと思います。今日本は将来をどうすれば良いのか、という大きな課題を抱えていまして、これに地域の課題を嵌め込んで行かなければならないと思います。地域問題というのは、地域で勝手に色々と考えてやればいいというものではありません。日本全体を地域と一丸になって考えて行く必要があります。
日本が抱える三つの問題
今、日本は将来をどうすれば良いのか、という大きな課題を抱えています。安倍政権の下、「地方創生」が叫ばれていますが、日本の将来を考えるには、地域の課題を嵌め込んで行かなければならないと思います。地域問題というのは、地域で勝手に色々と考えてやればいいというものではなく、日本全体を地域と一丸になって考えて行く必要があるようです。
まず、日本が抱える大きな課題とは何でしょうか。3つあります。
1つは少子高齢化問題であり、
1つはGDP国民総生産の低成長率であり、
1つは世界トップクラスの借金大国です。
これらの課題はいずれも地域創生と大きく関わってきます。これら3つの課題を認識しておかないと、地方創生、地方創生と言っても、何をすれば良いのか判りません。特に経済という観点からは、この3番目の世界トップクラスの借金大国という問題は、外すことができません。
少子高齢化問題
最初に、少子高齢化問題です。図は日本の年齢別の人口を示した図です。現在1947年から1949年の層は「団塊の世代」と言われています。実は私も、1948年生まれの団塊の世代の中心に位置しています。この私の属する団塊の世代の人口が800万人で7%、65歳以上の高齢者が約3,000万人と全人口の25%を占めています。反対に、2017年度の調査では、1歳児出生数は100万人と、団塊の世代の平均出生数の270万人に比べ1/3倍と、大きく減少しているのがわかります。この現象は、世界にも例がなく、日本は参考にする国はありません。反対に、世界中から日本は一体どの様にこの問題を扱うのか、着目されているというのが現状です。
GDPの低成長率
2つ目の大きな課題が、「GDPすなわち国内総生産の低成長率」です。図は縦軸にGDPの成長率、横軸に年代を取って、直近までのGDP成長率の変遷を示したものです。1990年頃は、まだ5%近くあったものが、直近ではゼロまたはマイナス成長となっています。
日本が今後生き延びて行くための最低条件は、低くても良いから成長し続けることが大事だと言われています。GDPそのものは、現在520兆円であり世界3位です。まだまだ日本の経済力はあります。問題はその成長率であり、ゼロまたはマイナスがここのところで続いていることです。これを何とか少しでも良いからプラス成長にしなければならないということです。そして、GDPは現状520兆円ですが、600兆円が1つの目標です。
このGDP(国内総生産)を増加するには何をすれば良いのでしょうか。GDPを構成する要因ですが、消費支出、投資、在庫は言い換えれば生産、輸出と言ったところです。特に地方創生戦略においては、地域の中小企業への投資とそれに伴う雇用の確保が重要です。
ちなみに、日本ではGDPの他に、経常収支や貿易収支という言葉が頻繁に出て来ますので、定義をおさらいしておきます。
・ 日本の経常収支とは、(1) 貿易収支、(2) サービス収支、(3) 第1次所得収支、(4) 第2次所得収支、までを対象とします。
・ (1) の貿易収支とは、輸出と輸入で、通常は貿易収支は黒字となります。
・ (2) のサービス収支は、輸送、旅行、金融商品の手数料、知的財産使用料の受取り、支払いのことを言います。
・ (3) の第1次所得収支とは、直接投資収益や証券投資収益を指します。
・ (4) の第2次所得収支とは、官民の無償資金協力や寄付のことを指します。
今、国はマイナス金利政策という金融緩和を実施して、お金を市場に回し、企業にどんどん設備投資等をやって下さいと言っています。2%のインフレすなわち物価上昇させるべく、消費の増加と生産設備投資による生産増加、雇用確保、賃金上昇を図っています。これらはGDPを押し上げますが、これらのことが地方で起これば願ったり適ったりで、地方創生の実現に繋がります。実は、地域の中小企業の皆さんを相手にしている信用金庫でも、できるだけお金を使って下さいとしりをたたいている状況です。ですから、中小企業にとって今が事業を拡大するチャンスです。
世界トップクラスの借金大国
残る最後の日本の課題ですが、日本は今、世界トップクラスの借金大国であるということです。しかし一方で、日本はそう簡単には潰れないと言われています。理由の1つが、日本のGDPそのものがまだまだ世界3位というレベルにあることです。もう1つが、借金は国債の発行で賄われていますが、これの持ち主が日銀であって海外の機関投資家ではないことです。
そして図に示します様に、借金に対するガイドラインがありまして、借金約1,200兆円をGDP、国内総生産の額520兆円で割った値が2倍を超えない様にしようということです。この値が今後3倍に迫って行くと危ないと言われています。
これは日本のプライマリーバランスを示したものです。プライマリーバランスとは、税収に対し、基本的な国の支出の部分、すなわち、社会保障、地方交付税交付金、公共事業、防衛費のバランスを指します。現在の日本は、明らかに税収不足です。この不足分を国債を発行して補っています。2017年度ですと、新規発行が34兆円、買い戻し分が23兆円で、約毎年10兆円が積み上がっています。日本のこれまでの負債は1,200兆円になっていますが、これをどうするのか。大変な問題です。税収を増やして国債の発行をできるだけ抑えるためには、地方での経済を活発化する、すなわち地方創生が重要になってきます。
国債の話が出ましたので、現在の日銀が採っているマイナス金利政策を少し考えてみます。マイナス金利政策下で、銀行は国からいやいや国債を購入せざるを得ませんが、日銀がどんどん買い取ってくれるので、現状では銀行は日銀に国債を売り、日銀から出た金をどんどん市中に回している状況です。
日銀は、マイナス金利政策で、債券価格が上昇しても、これからもどんどん国債を集めると言っています。明らかに、長期金利の低下を意図しています。一方、金融機関はいずれもマイナス金利政策の余波を受けて、苦労しています。どういうことかと言いますと、お金は市場に回りますが、貸し出しの利息が低いので、取扱い量が増えても利益が出ません。仕方なく、住宅ローン、消費者ローン、保険手数料でかろうじて生きています。
長期金利を下げることは、国債の利回りを下げることに等しく、利回りを下げるためには、日銀が国債の買取価格を高目に設定することです。これは長期金利を下げることに等しいと言えます。
この辺の事情をもう少し分かり易くした説明がありますので紹介します。
図に示した日銀のバランスシートを観ますと、自ら発行する紙幣や銀行から預かる当座預金は「負債」となります。大規模緩和で供給されたマネーは、その当座預金に積み上がっています。ちなみに、マイナス金利政策とは、銀行が日銀の当座預金に預けている準備預金の一部に適用される金利をマイナスにするというものです。日銀が利上げに転じれば、当座預金の利払いが膨らみます。
一方で、日銀が資産として保有している国債の金利は極めて低いうえ、当座預金金利の様に一気に上がりません。なぜなら、国債の場合は、金利の低いものは、償還を待って金利の高いものに置き換わるのを待つので、全体として金利が上がるのには時間が掛かります。従いまして、利上げ局面では、負債が資産を上回る「逆ざや」にならざるを得ません。
これは今年2017年6月2日の日経新聞記事です。とうとう日銀の国債保有額は500兆円を突破しました。国債全体の40%以上を日銀が保有していることになります。こんなことは世界で始めてのことです。しかも、日銀はインフレ率2%が実現するまでは、買い続けると言っています。このまま行って、2%インフレが達成できた段階で、利上げという話になると、国債価格は大きく下落しますので、マイナス利回りの債券を多数抱かえた日銀は大損、債務超過になると喚いている学者もいます。ですから、それに至る前にどの様な出口戦略を見せてくれるのかが、今黒田日銀総裁に問われている課題です。
地方に暮らしている者にとっては、都市消滅の問題を経済問題と絡めて見て行く必要があると思いますが、皆さんどう思われますか。