七十歳代黄金期への誘い(その2)…長期金利上昇で国債価格下落の理屈

 「長期金利が上がると国債価格は下落する」と言われていますが、今回は、その理屈
をきっちりと押さえます。

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 この後、我々はイングランド銀行を破産させた男と呼ばれるジョージ・ソロスのヘッジファンド戦略に迫ります。この「長期金利が上昇すると国債価格が下落する」という関係をしっかりと掴んでおかないと、ジョージ・ソロスが何を考えて、どの様な企てをするのか判りづらくなります。その様なことで、今回はまず国債というものの技術的な面についてしっかりと理解しておきたいと思います。

・まず、資金の調達方法について見て行きます。

 会社を経営して行くには、資金が絶対に必要です。この資金調達の方法としては、色々と考えられます。大きく分けて、債券を発行して買い取ってもらう、株式を発行して買い取ってもらう。あるいは、銀行から融資という形でお金を借りる。もちろん自社の蓄えで賄う手もあります。しかし、これらの手法を活用できるのは、上場企業であって中小企業はせいぜい金融機関からの融資で進めざるを得ません。

 また、国もお金が必要となると、国という信用力を前提に、国債を発行して投資家に買い取ってもらうわけで、まさに会社が社債を発行するのと同じ直接金融に相当します。

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・次に、年利率と年平均利回りの使い分けについて見てみます。

 金融商品を購入した時、「元本に対して支払われる利息の割合」を利率といいます。一方、「最終的に得た利益の総額の元本に対する割合」を1年当りの平均値に直したものを「年平均利回り」といい、一般に「利回り」と呼んでいます。

 例えば、元本100万円を年利率4%の定期預金に入れて複利で運用し、5年後の満期時に元利合計で122万円受け取った場合、年平均利回りは4.4%ということになります。

計算式:定期預金複利 100万円(1+0.04)5=122万円
    年平均利回り {(122-100)万円÷100万円)}÷5年×100=4.4%

・次に国債の仕組みについて理解します。

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 近年、政府の借金問題、あるいは日銀のバランスシート問題などで、常に議論の俎上に上ってくる「国債」を中心に、理解して行きたいと思います。

 債券の基本的な仕組みや、債券市場の構造などについて解り易い解説がありましたので、紹介します。この部分は大槻奈那、松川忠共著「本当にわかる債券と金利」に基づいています。

 下図に示します様に債券は購入した後、利子を定期的に受取りつつ、償還時に元本を返してもらう」という形になります。債券には「クーポン(=利息)」が付いていて、それに記されている利率に応じた利子が支払われます。額面金額が100円で、クーポンが1%であれば、年1円の利子が支払われるという訳です。従って、債券投資の基本は、「利子を定期的に受け取りつつ、償還時に元本を返してもらう」という形になります。

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 このことから、債券投資では発行元がデフォルト(債務を支払えなくなること)することなく、償還まで保有していれば、元本割れで損失を被ることはありません。

 これまでは、債券投資は、元本の安全性が極めて高い投資対象というのが、金融や資産運用の世界における共通認識だったのです。ところが、債券の利回りがマイナスになるのは、これまでの債券投資の常識を覆すことになります。なぜなら、償却まで保有しても元本割れになることを意味するからです。

・ここで「国債の最終利回り」が「長期金利」であることを理解します。

 債券の価値を判断する上で、「最終利回り」というものが非常に重要です。「最終利回り」は、クーポンすなわち利率による儲けの部分と取引時の儲けから成り立っていて、この取引価格が重要になます。

 具体的な例で示しますと、償還まで1年、クーポンが年2%の債券が、額面100円に対して103円と高価格で取引きされた場合、最終利回りは-1%になります。同じ条件の債券が額面100円に対して97円と低い価格で取引きされた場合、「最終利回り」は5%と上昇します。すなわち、債券価格が上昇すると、「最終利回り」は下落することが分かります。

 そしてこの「最終利回り」は、「長期金利」とも呼ばれます。従って、国債価格が上昇すると「最終利回り」下がり、「長期金利」も下がります。また、国債価格が下落すると「最終利回り」は上昇し、「長期金利」も上昇します。このことが、債券では重要です。

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・次に債券の構成要素を確認します。

 債券は、①発行体 ②クーポン ③償還期限 の3つの要素で構成されています。

 まず「発行体」ですが、債券は資金を調達する際に発行する「借用証書」、つまり借金です。「誰がお金を借りるのか」という点が重要です。政府(国)が発行したものは「国債」、地方公共団体が発行したものは「地方債」、公庫や独立行政法人など政関係機関が発行したものは「政府関係機関債」、民間企業が発行したものは「社債」、債券の発行が認められている金融機関が発行したものは「金融債」と称されています。債券を発行した主体は、償還日に借りたお金を返済する義務を負っていますが、なかには償還日前に利子の支払い滞ったり、償還日に元本が返済できなかったりするケースがあります。これが「債務不履行=デフォルト」です。

 「クーポン」とは、すなわち「利子(利息)」のことで、債券の発行体が債務者、つまり債券を購入・保有している投資家に、借金の対価として定期的に支払うものです。国債にせよ社債にせよ、利払いは年2回行われるのが通常です。

 「償還期限」とは、債券の発行体が借り入れた債務を返済する日です。

 これらの3つの要素を上手く組合せながら、債券の運用を行うわけです。

・次に債券投資におけるイールドカーブ戦略について説明します。

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 良く使用される債券投資戦略として、イールドカーブ戦略があります。イールドカーブの形から値動きを予測して投資する方法です。イールドカーブとは「金利曲線」のことです。例えば、長期金利と言えば「10年国債利回り」のことですが、金利は10年国債利回りのみではありません。翌日物(オーバーナイト)から、3ケ月、6ケ月、1年、2年と繋がり、長いものだと、日本の場合10年、20年、30年、そして最長は40年となります。

yieldcurveof japan

 つまり、これら年限別の金利という「点」を、「線」でつなげることによってつくられる曲線が、イールドカーブです。債券市場は、「点」でなく、「線」、すなわちイールドカーブで理解することが重要です。このイールドカーブの形を見て、期限ごとの債券の動きを予測しながら投資して行くのが、イールドカーブ戦略です。



・最後に米国の金融政策(1980~1995年)を具体的に見て行きます。

 イールドカーブの形状を決定するのは、金融政策であるといっても過言ではありません。ここでは、イールドカーブの変化が鮮明に現れている、1980年代後半から1995年にかけての米国のイールドカーブを見ていきます。
 

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まずは金融引き締め期です。

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 図は1989年6月のイールドカーブです。短期金利が長期金利を上回っているのがわかると思います。これを「逆イールド」といいます。1989年の米国は景気が好調で、やや過熱気味に推移していました。そこで、グリーンスパンFRB議長のもとで、金融引き締めが行われたのですが、金融引き締め期においては、イールドカーブが「逆イールド」になることも珍しくありません。政策金利の引き上げでまずは短期金利が上昇するのに対し、長期金利は、金融引き締めによる景気鈍化を予想して低下することで、このような形になることがあるためです。

 従って、逆イールドは、市場が金融引き締めで将来の景気の鎮静化を予想していることから発生します。これは、金融政策が効いている証拠です。だからこそ、長期金利が短期金利よりも抑制されているのです。

次は金融緩和期です。

 この後、金融緩和が実施され、そこから、1992年までに長期にわたる金融緩和がスタートしたのです。そして1990年の夏、イラクのクウェート侵攻を機に湾岸戦争が勃発しました。そして、米国内ではS&L(Saving and Loan Association)と呼ばれる貯蓄金融機関の経営悪化が問題になっていました。彼らが保有するジャンクボンド市場で値崩れが起こり、景況感が一段と悪化したのです。

 これを受けて、グリーンスパンFRB議長は段階的に利下げを実施した結果、オーバーナイト金利は9.75%から3.00%まで引き下げられました。図は一連の最後の利下げが実施された1992年9月と1989年を比較したものです。1989年と比較すると、きれいな「順イールド」になっていることがわかります。

 この様に、金融引き締め時、すなわち金利引き上げ時には、逆イールドカーブが現れ、金融緩和時、すなわち金利引き下げ時には順イールドカーブが現れると言えるようです。

 債券は性格が株式とは異なりますので、その扱い方も異なります。しかも、取り扱い量が余りにも大きいので、日本人にはあまり親しみがありません。しかし、現在は、我々日本人は、自分の国の行く末を認識していなければならない時に来ており、国債の扱いにもっと注力して行くべきと思いますが、皆さんどう思われますか。



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