七十歳代黄金期への誘い(その3)…世界の金融緩和出口戦略

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 現在の世界経済情勢は、2008年のリーマン・ショツクの後、世界が金融恐慌に陥りました。各国は金融緩和政策を実施して10年近くが経とうとしています。その中で、米国がようやく、ずっと続けてきた金融緩和政策を終了させようと、動き始めました。そこで、今回は現状の世界経済がどうなっているかをしっかりと見る目を養いたいと思います。

 2017年8月5日の日経新聞コラム・大機小機の中で「4大中銀の累積効果」と題して、下記の記述がありました。

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 ……注目すべきは、米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日銀、中国人民銀行の世界4大中銀の資産合計と、世界経済との連動が強まっていることです。4中銀の資産合計と世界の通貨供給量の相関係数は過去3年間、0.94と高いものとなっています。金融グローバル化の進展で、FRBだけでなく、4中銀の金融政策の総和で見ないと、世界経済は語れないと述べています。……

 主なる内容は下記の通りです。

・FRBはH29.9月の会合で、膨張した資産の削減を始めることを表明しました。
・ECBも秋に量的緩和の縮小を議論する予定ですが、デフレ脱却はドイツだけで資産削減はかなり先になりそうです。
・日銀は物価目標の達成時期を先送りしています。
・巨額の不良債権を抱かえる中国は長期戦の構えです。

 いずれにしても、4中銀の資産合計はしばらく高水準が続きそうで、大金融緩和政策の累積効果で世界景気が浮上しつつあるとのことです。4中銀が焦らず順番に出口戦略を進めることで、世界経済はインフレを抑えつつ、息の長いロングラン景気が期待できるのではないでしょうか、という主張です。

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 イエレンが議長を務める米国FRBの出口戦略は、米国債券を売却せず、満期まで保有する計画です。保有債券の償還スケジュールなどからみて、5年後に半分程度まで削減することになりそうです。この様に、出口戦略について早くから方向を示し、市場に浸透させ、計画的に償還して行けば、高値で買い取った債権を、安値で売却してこうむる債券売却損の心配もなくなりました。

 『今回の資産縮小計画は、景気を失速させずに膨張した資産を圧縮する練りに練った戦略です。ECBや日銀は、これをモデルケースに、今後、出口戦略の開始時期を探ることになるでしょう。』と好意的なコメントとなっています。

 FRBの出口戦略計画がどの様なものか少し眺めてみます。2008年のリーマン・ショック後、市場の崩壊を食い止めるため、初の量的金融緩和に乗り出しましが、景気回復で、2014年10月に量的緩和は終了しました。

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 しかし、大量購入した米国債などを4.5兆ドル(約500兆円)も抱え込んだまま危機から9年たち、ようやく保有資産の縮小を決め、「金融政策の正常化」にたどり着いた、という感じです。2014年秋には「金利政策の正常化に関する原則と計画」を公表。利上げをまず始めてから、主に国債の買い取りなど再投資額を減らす形で緩やかに資産残高を縮小させる方針を明らかにしました。今回の決定は、この3年前の計画に基づいたものです。

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 次に、欧州中央銀行(ECB)はどうかですが、平成29年10月27日の日経新聞では次の様に報じています。『ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は、平成29年10月26日の理事会で、量的緩和政策の縮小を決め、月々の資産購入額を2018年1月から半減する。FRB(米連邦準備理事会)に続いて、量的緩和政策の幕引きに舵を切った。』とあります。

 しかし、ECBの場合は、単にFRBの後追いをしているだけで、戦略に欠けており軽い感じがします。

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 さて、日銀の黒田総裁の出番です。日本は出口戦略が遅れているのではないかという指摘が起こっていますがどうなっているのか、そこを少し見てゆきたいと思います。

 現在の日本は危機的状況の下、黒田総裁が異次元金融緩和政策を進めています。日銀は2012年12月に発足した第二次安倍政権の下、アベノミクス戦略の中で、2%の物価目標を掲げて、黒田日銀総裁による金融政策を進めて来ました。具体的には、2010年から取られていたゼロ金利政策に替えて、2013年4月からはマネタリーベースの拡大による金融政策をに変えました。2016年1月からはマイナス金利政策を、更に2016年9月からは長期金利の代表である10年国債利回りを0%近辺に誘導するイールドカーブコントロール政策を推進しています。

 この様に、2%の物価目標達成は見渡せず、黒田総裁の任期切れが迫る中でも、超金融緩和からの出口議論は封印されたままです。

 黒田総裁が出口議論を封印していることに対するコメントは以下です。『脱緩和に動くと、すなわち利上げで自国通貨の価値が上昇して、米欧などに世界のマネーが還流する。これにより、新興国が通貨安に見舞われれば、ドル高によりドル建て債務の返済負担が膨らむ恐れがある。すなわち、金利上昇は、各国の財政悪化リスクを高くし、いずれも世界の景気を下押しする懸念となる。前例のない危機モードからの脱却は、世界経済の自律的な回復力を試すことになる。』とし、金融緩和政策を続けて行くとしています。また、FRB(米連邦準備理事会)、ECB(欧州中央銀行)の様に、市場に計画を提示して手の内を明かすようなやり方では、次の一手が見え見えで、金利引き締めの効果は少ない、という意見も持っています。

 一方、金利政策の進め方は、株式相場や債券相場とも絡み、目が離せません。

 業績相場とは「株高・債券安(金利上昇)」のことで、株高は企業の業績が上がっているので、企業の株がどんどん買われて行くということになります。長期金利が上昇するのは、日銀が景気を過熱させないように操作していることを意味します。

 一方、金融相場とは「株高・債券高(金利低下)」のことで、株高は金利低下で投資家の下にあるお金がどんどん株式に向っているという状況です。日銀はお金を市場に回すために国債を買い込みます。

 現在の状況は、業績相場と金融相場のいいとこ取りで「株高・債券安定」という微妙なバランスが保たれている状況にある様です。しかし、このバランスも少しずつ崩れようとしています。

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 平成30年2月11日の日経新聞には、「投資マネー逆回転。株式米に続き日中急落」なる記事が出ました。それによれば、金利上昇圧力と株価暴落の因果関係には2つの観方があるようです。

 1つは、金利上昇は国債の利回り上昇であり、国債価格の下落を意味します。多くの投資家は、その国の国債を買って利回りを得ようとするため、資金は株式から債券へシフトします。すると、これまでの株式の上昇は頭打ちとなって、株価の高い内に利益を確定しようとする動きが出て、株式は売られるというものです。

 もう1つは、金利が上昇すると、マネーは市場に回らなくなるから、企業は借入をストップして投資活動を控えることになります。企業の生産力はダウンします。すると、投資家は、企業のこれ以上の収益向上は見込めないと判断し、株価の高い内に売りに出して利益を確定しようとします。多くの投資家が追随すると、連鎖反応で株価の暴落が起こります。

 黒田総裁の任期は、平成30年4月とあまり時間はありません。もし戦略的に何かを企んでいるとすれば、そろそろ動き始めた方が良いと思われますが、皆さんどう思われますか。



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