七十歳代黄金期への誘い(その5)…日本が借金で潰れない理由

 日本は、現在約1,200兆円の借金を抱える世界でも有数の借金大国です。2017年度は新規国債発行が34兆円、償還による買戻し分が23兆円と、10兆円が毎年積み上がっています。今回は、日本がこれまで積み上げた負債総額1200兆円の返済が不能となるデフォルトに陥るのかどうかを調べてみました。

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 同じ様な借金問題を抱える国の1つにギリシャがあり、デフォルト問題を引き起こしました。ギリシャは2015年6月末でのIMF(国連通貨基金)への15億ユーロ(約2,000億円)の返済が難しい状況となり、デフォルト一歩手前の厳しい環境に置かれていました。ギリシャのチプラス政権が、ユーロ圏の債権者たちの要求(緊縮策)に応えたことから、ひとまずギリシャのデフォルト危機は脱しました。ギリシャのデフォルト危機の原因は、

(1) ギリシャの財政赤字をGDPの5%程度と発表していましたが、新政権に交代した時に、実際には財政赤字がGDPの12%であることが判明し、その財政問題が国際社会で一気に表面化したこと、
(2) 財政問題の原因として、公務員の数が国民の10%(労働人口比率は30%以上に上ります)と多い上に、その公務員の給料や年金を優遇し過ぎていたこと、

によるものでした。

 さて、今の日本は、ギリシャの様な騒動が起こるのか起こらないのか。大半の意見ではデフォルトは起らないと言われています。

 ある経済評論家は、日本のGDPが世界第3位で信用がおけるからだ、と説明されていましたが、そのような定性的な話では納得できません。もっとデータを使った定量的な説明が欲しいと思っていました。最近、これだったら納得できるかなと思う説明を入手しましたので、皆さんにも紹介します。

 英国ファイナンシャル・タイムズのコラムで、チーフ・エコノミクス・コメンテーターのマーティン・ウルフが面白いことを言っていました。それによれば、日本が借金で潰れない理由として、かれは2つ上げています。

1つは、日本国民の個人の現金・預金の保有量が多いこと、
1つは、日銀が日本国債の半分近くを買い占めていること、

です。

 まず、日本人の個人資産についてみてみます。

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 個人資産全体が1,809兆円で、そのうち現・預金が894兆円の52%、保険・年金加入が520兆円の31%、株式・出資金が181兆円の10%、債券が27兆円の1.4%です。

 更に下図で、日本人の個人資産とアメリカ人の個人資産を比べてみます。日本が「現金・預金」で半数超えと大きく傾倒している一方で、アメリカ合衆国は「株式・出資金」や「投資信託」さらには「債券」を大量に保有していることが大きな違いです。

 リスクを許容し投資を重視し成果に期待するアメリカ合衆国、確実性に重点を置く日本と、両国の貯蓄性向、金融資産への考え方の違いがそのまま数字に表れていいます。また日本で「現金・預金」が多いのは、主に高齢者による貯蓄性向の表れでもあるようです。高齢者は老後を考えて、本来ならば消費に回すお金を貯め込んでいるものと思われます。

 日本、米国、ユーロエリア3国で比べてみると、3国・地域とも「保険・年金準備金」の比率はほぼ同じ(いくぶん日本が少ないが)。一方で“「現金・預金」”と“「債券」「投資信託」「株式・出資金」で構成される有価証券”の保有比率が、ユーロ圏は日米の中間にあるのが興味深いところです。バランスの観点では、日本は現預金過多、アメリカ合衆国はリスク商品が多め、ユーロエリアのバランスが一番リスク分散の上では優れていると言えます。

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 個人の現金・預金比率が非常に高いということは、これが消費や投資へ回れば、日本のGDPは大きく向上する可能性が出て来ます。また、GDPが大きくなれば、借金返済に対する信用に関しては有利に働きます。

 また、個人の現金・預金は、消費と貯蓄の2つを考える必要があります。現在、消費については、日本の家計貯蓄率は既にゼロに近いので、消費を拡大して物価上昇率2%を実感するには、もっと家計収入が増える必要があります。

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 今の日本人は、バブルの時の様に、消費財にお金をつぎ込むというような浪費はしません。従って、消費に課税することではなくて、貯蓄に課税することが必要とマーチン氏は主張します。これにより、投資もされず、分配もされない企業利益を消費へと転換させることができるという訳です。

 次に国債の問題です。マーチン氏は

(1) 日銀が日本国債の4割以上を保有していること、
(2) 日銀がずっと保有し続ける必要があると判断すれば、永遠に保有し続けられること、

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(3) また、民間銀行が日銀に当座預金として保有する準備預金に金利をつけるのを止めることもできること、これは法定準備金の決まりを変えればいいだけです。

 これら日銀の選択肢が多いことを、日本が借金で潰れない理由の2つ目として挙げています。

 これらのことは、日本の国債の債権者は日本国民なので、政府が国民に対する借金を処理する方法は、いくらでもあるということです。例えば、基礎的財政赤字が解消された時点で、政府は現在の債務を低利回りの無償還国債に転換することもできます。いわゆるヘリコプターマネー戦略の実行です。

 ヘリコプターマネーとは、政府側は、本来は市中銀行からの借入金(国債発行)を日銀から調達した形に持って行き、日銀側は資産として市中銀行から買い入れた国債(国債買入)を政府から買い入れた形に持って行くことを言います。永久無利子国債として利息なし、期限なしで政府が日銀に償還していくという形に会計処理すれば良い訳です。

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 図は、日本の国債の保有状況を示したものです。国債発行残高1,039兆円のうち、日銀が40%、銀行・保健会社50%、外国人投資家10%です。金融機関、年金・保険機関の国債運用額は大きく、結局は国民のお金の多くが国債に向かっていることを意味し、国債は国内に残っていると言えます。一方、日銀の国債買い占めで、外国人投資家には国債購入の約10%しか回っておらず、外国人投資家に支配されることはありません。

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 マイナス金利政策下で、銀行は国からいやいや国債を購入せざるを得ませんが、日銀がどんどん買い取ってくれるので、現状では銀行は日銀に国債を売り、日銀から出た金をどんどん市中に回している状況です。

 日銀黒田総裁は、現在戦略的に国債を40%内外まで買い占めています様に見えます。この買い占めの意図ですが、外国人投資家に国債を買い占められないようにすること、デフォルトを避けること、言う風に予想しています。

 黒田日銀総裁が、今後日本の出口戦略をどのように進めるのか、皆さんはどう思われますか興味津々です。



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