七十歳代黄金期への誘い(その10)… 仮想通貨取引システムの落とし穴

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 最近、良しきにつけ悪しきにつけ、仮想通貨に対する関心が急速に高まっています。関連記事が毎日の様に新聞で報じられています。また、雑誌も仮想通貨に関する特集を組んでいます。平成30年1月28日の日経新聞には、「仮想通貨取引所コインチェックの巨額資金の不正流出が発覚」という報道が流れました。巨額資金とは、約580億円分のNEMの不正流出です。

 一方で、仮想通貨が採用している基本システムはブロックチェーンと言いますが、このシステムはインターネットの登場そのものと同じくらいの技術革新に相当し、「改ざんなどの不正が、事実上不可能」と紹介されています。これなどは不正流出の記事と辻褄が合いません。また最近、仮想通貨は「値上がりする新しい投資対象」という面が大きくクローズアップされています。

 この様に、仮想通貨については、色々な側面から取り上げられ、一体何がどうなっているのか良く判りませんでした。そこで、今回、仮想通貨に対する全体像を追ってみます。

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 上図は、仮想通貨に関わる全体像を図にしてみました。Aの領域は、システムの根幹となるブロックチェーンの部分です。Bの領域は仮想通貨の本来の機能を表す部分で、海外への送金の手段としての部分で、送金コスト削減を狙っています。Cの部分は、仮想通貨を投資の対象としている領域で、非常にリスクの高い領域です。

A領域

 ブロックチェーンは、ビットコインの中核的基礎技術であり、電子的な情報を記録する新しい仕組みです。取引記録をネットワークの参加者全員で、公開された台帳に記入し、管理します。10分間に世界中で起きたビットコインの取引データを「ブロック」という1つのまとまりに書き込みます。

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 AさんからBさんに送金、CさんからDさんに送金、EさんからFさんに --- という取引を全部書き込むわけです。主な特徴は、管理者が存在せず、自主的に集まったコンピュータが運営しているにも関わらず、事業が信頼できること、そして、記録が改ざんできないことです。つまり、不正が困難な分散管理の取引台帳です。

 ブロックチェーンは、これまでのものとは全く次元が異なる技術で、経済や社会に大きな変化をもたらします。これまで、送金などの経済的取引は、銀行など信頼を確立した機関が管理することで行われて来ました。ブロックチェーンは、そうした管理主体の代わりに、コンピュータネットワークが取引の正しさをチェックします。しかも、記録を書き換えることが、事実上できないようになっています。このため、管理者が不必要になり、低コストで運用できるのです。

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 野口悠紀雄著の「入門ビットコインとブロックチェーン」という本に解り易い数学的な解説がありましたのでそれを紹介します。

 ブロックチェーンの特徴は、「改ざんなどの不正が、事実上不可能」ということですが、そのために「ハッシュ関数」というものが重要な役割を果たします。あるデータの集まりをハッシュ関数に入れると、「ハッシュ」という数が出て来ます。これは、一方向性処理であり、ハッシュ化されたデータから、元のデータを計算で見出すことは非常に困難で、事実上できません。また、元のデータを少しでも変えると、ハッシュの値も変わります。

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 ハッシュ関数がどういうものかをイメージするには、素因数分解を考えると良いでしょう。素因数分解はハッシュ関数によく似ています。素因数分解とは、6なら「2×3」、10なら「2×5」というように、ある数を素数の積に分解すること、つまり、「正の整数を素数の積の形で表すこと」です。この作業は、6や10など桁が少なければ簡単ですが、桁が増えれば増えるほど難しくなります。但し、素因数分解した数字から、元の数字を求めるのは簡単です。例えば、素因数分解した素数の集まりが「2, 11, 13, 13, 1283」であれば、全てを掛け合わせれば元の数字が出ます。この場合は「4770194」です。

 しかし、「4770194」を素因数分解しなさいと言われたら、大変な作業です。2, 3, 5, ----と順に素数で割って、割り切れるかどうか確かめて行かなければならないので、膨大な時間と手間が必要です。つまり、素因数分解は、「ある方向に計算するのは簡単ですが、逆方向に計算するのは著しく難しい関数」です。こうした性質を持つ関数を「一方向関数」と呼びます。ハッシュ関数も「一方向関数」なのは、元のデータからハッシュを導くのは簡単で すが、ハッシュから元のデータを見出すのはとても難しいのです。

 ビットコインシステムには中央管理者がいませんが、ビットコイン取引の記録作成作業を行っているマイナーは存在します。マイナーには、マイニング作業にかかる電気代などの手数料を支払う必要があります。

B領域

 ビットコインとは、インターネットで使うことができる仮想通貨です。よく似たものに電子マネーがあります。しかし、ビットコインと電子マネーは全く別のものです。最大の違いは、管理者の有無です。電子マネーには、管理者がいて、それがマネーのやり取りを仲介しています。つまり、中央集権的な仕組みで運営されています。しかし、ビットコインの場合は、その様な管理者が存在せず、利用者が直接に情報をブロックチェーンに送信することによって、取引がされています。管理者は存在せず、コンピュータの集まりによって運営されています。つまり、管理者なしに通貨の取引が可能になっているのです。

 仮想通貨は確かに送金手数料は非常に安くて済みますが、海外へ送金する場合は、通常の通貨と同じ様に為替レートの問題が発生しますので、注意が必要です。海外への送金手数料が安くなった分が、為替の変動分で軽く吹っ飛んでしまいます。

C領域

 ビットコインの本来の機能は、送金ですが、最近は、ビットコインが投機・投資目的で購入される場合が増えてきました。資産保有目的に用いるのはそもそも問題がありますが、そうする場合には、細心の注意をもって行う必要があります。

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 ブロックチェーンそのものは、非常に安全なシステムですが、仮想通貨の保有者のパソコンやスマートフォン、そして取引所がハッキング攻撃される危険があります。冒頭に紹介した巨額資金の不正流出騒動は、取引所がハッキング攻撃を受けたもので、上昇軌道を辿ってきた仮想通貨市場に冷や水を浴びせました。NEMの価格は流出騒動直後に約2割下落し、ビットコインやリップルなどの他の仮想通貨も連れ安しました。価格高騰を受けて昨年末にかけて仮想通貨取引に続々と参入してきた個人が、不正流出に不安を抱き、市場から離れる可能性もあります。


 仮想通貨の取引には、元手より大きな金額を取引できる証拠金取引があります。証拠金取引を使えば、投資家は元手を上回る金額を取引できます。元手に対する倍率は5~20倍が多いのですが、国内でも取引所によっては25倍まで可能です。

 そのレバレッジが10倍の場合にどれ位損失を蒙るのか試算してみます。

Aさんは500万円の証拠金を差し入れてビットコインを売買していましたが、まず、1割の価格下落で追証を差し入れ、取引を続けます。下表に示す様に追証は450万円が必要で、証拠金は当初の分と合わせて950万円となります。

更に状況は悪化し、24時間で価格が2割下がると取引所は強制的に損失を確定する反対売買(強制ロスカット)を発動します。これを食らうとAさんの損失額は元手を大きく超える約600万円となります。証拠金を失い、現物で持っていたビットコインも売却しました。

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 ビットコインの急落は、他の仮想通貨に連鎖して行きました。ビットコインは証拠金としても使われているためです。ビットコインの価値が目減りすると、「ロスカットの発動が相次いだ」と言われています。証拠金取引は、一部の国内取引所でビットコイン取引高の8割を占めるほど浸透していますが、「逆回転を始めると雪だるま式に損失が膨らむ」怖さがあります。

 最近、若い人達の間で、ビットコインで憶万長者になったというニュースをよく耳にします。これは証拠金取引をやっていた若者の話で、間違いなく今回の不正流出騒動で大きな損失を被っていると思います。皆さんどう思われますか。



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