七十歳代黄金期への誘い(その13)-荒稼ぎするヘッジファンドの正体

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 今回から、世界の経済を大きく転換してしまうヘッジファンドの投資戦略を追いかけます。ヘッジファンドと言えば1992年のブラックウェンズディの際にイングランド銀行を破産させたユダヤ人投資家ジョージ・ソロスが有名です。当然、波乱万丈に満ちた彼の人生も明らかにしますが、今回は彼の武器となるヘッジファンドと、その根底にあるヘッジという事柄をまずきっちりと押さえておきます。

どの様な時にヘッジを利用するのか?

 成長が見込める企業を探し出してその企業の株を購入し、値上がりを待って、十分に利益が出たら売り捌く、これが一般的な投資方法です。これは小遣いの範囲内で、ゲーム感覚で楽しむ分には何等問題はありません。しかし、投資対象が財産ベースの話になりますと、もし失敗した場合には、企業の倒産に繋がりかねません。場合によっては家計に影響が及ぶことになります。利益は犠牲にしても、損失は絶対に避けたい場合が絶対に出て来ます。この様な時には、リスクヘッジを行ないます。以下リスクヘッジの幾つかを紹介します。

どの様にしてリスクヘッジをするのか?

第1段階

 最も確実なヘッジは、同じ対象物に対し、現物で買い、同額の資金を準備し先物で売るやり方です。ただし、これは売り買いの手数料分と消費税分が損失として出ます。

 例えばある商社が、米国から大豆10,000トンを輸入することを考えます。米国で買い付け、船で日本に到着するまでに1ケ月かかるとします。1ケ月の間に大豆の販売価格が仮に1kgあたり10円下がったとすると、商社は1億円の損失を出すことに成ります。そのため、商社は必ず買い付けと同時に、商品先物取引を利用して10,000トン分の大豆を売り契約し、1ケ月後にあらかじめ契約した値段で売ることにすれば利益額を確定できます。値下がりすれば先物で利益が出るので、現物の損失と相殺することができます。値上がりの場合は利益を放棄することになりますが、商社の利益は価格変動の激しい相場商品を安全に取引することにあると考え良しとします。

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 また、生産者も、植え付け前に先物市場において採算価格で販売契約し、販売価格を生産前に決めておくことで、収穫時の投機的な値上がり益の可能性を放棄する代わりに、適切な利益を確保し、収穫時の価格下落による採算割れを気にせずに安心して計画的に生産することができます。

第2段階

 ヘッジに別の対象物を持って来て、何かが起こった場合の保険と考えて扱うこともできます。例えば、金融機関から変動金利契約による融資を受けているが、金利の上昇の危険を軽減または回避するため、同時に日本国債(JGB)先物を売ったり、ユーロ円3ケ月金利先物を売ることは保険つなぎになります。

 為替ヘッジも保険に相当します。円で米国債を購入しましたが、円高観測があるので、ヘッジのために手持ちドルを先物で売っておく場合です。

・100$外債を10,000円で購入。同時にヘッジのために先物の100$を10,000円で売っておきます。
・円高となり、100$外債は8,000円の価値となり、2,000円の損失となります。
・一方、ヘッジで売っておいたドルは、円高で8,000円になった時点で10,000円で買って貰えるので2,000円得になります。
・外債での損失分を為替でヘッジした形になります。保険に相当します。

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第3段階

 ヘッジをもう少し効率的にできないのかを考えると、ヘッジに信用取引とか、商品先物を使います。これらはレバレッジを効かせて、より少ない金額でヘッジが掛けられるという利点を活用します。ただし、追証に苦しめられるというリスクはあります。

 具体的には、金細工の業者が、1年先には「金の加工品」を販売する目的で、現時点で原材料である金を大量に仕入れる必要があるとします。しかし、1年先は金価格が大きく下落する不安定要因が十分に考えられるとします。そこで、ヘッジのため、少ない手持ち金額で同じ分量の金を1年先に売る契約をします。「金」は高価格であり、現物では金額の値が張りますので、少額の手持ち金額でレバレッジの大きい先物を同額売ることにより、ヘッジをする訳です。

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第4段階

 対象物を現金で購入すると同時に、オプションを使ってヘッジしておくと、事が順調に運んで損失が出ない場合でも、オプションを行使しないことによって上手く利益を上げることができます。これはヘッジの高級テクニックと言えます。

 具体例として、2014年1月に日経平均株価EFTを15,000円/枚で1,000枚購入しました。同時にヘッジとして、日経225プットオプション(売る権利)2014年3月限、権利行使価格15,000円をオプション価格500円/枚を支払って1,000枚同時に購入しました。2014年3月14日(金)時点で、日経平均株価EFTは14,000円まで1,000円下落しました。

 この時点で日経平均株価EFTの含み損は△100万です。一方、日経225プットオプションの方は、15,000円で売る権利を行使することで、100万円の利益を確定させます。しかし、オプションを購入する50万円を支払っているので、差引50万円の利益となります。

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 反対の場合、すなわち2014年3月14日(金)の時点で、日経平均株価EFTが16,000円まで1,000円上昇しました。

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 この時点で日経平均株価EFTは(16,000円-15,000円)×1,000枚=100万円の利益。
しかし、日経225プットオプションの方は損失が出ますので、権利行使しないことにします。すると、利益100万円-プレミアム50万円=50万円の利益がでます。

ヘッジファンドとは、

 ヘッジファンドとは、国内外の株式や債券、不動産、デリバティブなど、収益を生み出すものには何でも投資するという、自由度の高いオフショアファンド、いわゆるタックスヘイブンに設立されるファンドのことです。富裕層の個人投資家の資金を受入れており、一般の個人投資家を対象としている投資信託とは異なります。そのため、1口の投資金額は投資信託のように低くなく、ほとんどが最低1億円以上となっています。

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 ヘッジファンドにもさまざまな運用スタイルがあるのですが、名前のとおり、どの運用戦略であっても、市場の動向に関係なく絶対額で利益を上げることを目的としています。日本株ヘッジファンドの場合は、ある個別株を買って、反対に他の銘柄を信用売りし、日経平均先物やTOPIX先物、オプションを売買し、株式下落の際のヘッジをします。加えて、多くのヘッジファンドがレバレッジを効かせた運用をしています。

 2008年のリーマン・ショック前までは、ヘッジファンドのレバレッジ率はファンドの総資産額の10倍以上だったこともありました。しかし、リーマン・ショツク後は、このレバレッジ効果は大きく低下して、現在は平均して1.5~2倍程度です。

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 このように昨今ではヘッジファンドは下火となっていますが、これは2008年にスタートしたオバマ政権が、リーマン・ショックによる大瓦解の原因となった金融派生商品デリバティブなどへの規制を強化したからです。オバマ政権は金融改革の新法、「ドッド=フランク法(DF法)」を成立させ、ヘッジファンドに対して顧客の身元を報告することを義務づけたのです。ヘッジファンドは、匿名性が最大の魅力でした。個々の金持ちだけでなく、企業や組織の年金機構や大学基金なども、ヘッジファンドに運用を任せていることを世間に知られたくないと考えています。ところが、DF法では社外投資家からの預り金総額が1億5千万ドル以上だと、2012年3月末日までに「証券取引委員会(SEC)に届け出ないといけません。但し、自己および家族の資産は埒外に置かれています。

 ヘッジファンドはハイリスクと言われることがありますが、下げ局面で買い持ちの下げを信用売りや先物・オプションのヘッジが相殺することにより、相場環境に大きく影響を受けることがない様に設計します。

 リスクヘッジを掛けることは、お金だけでなくとも人生色々な場面で発生してきます。従って、リスクヘッジを掛ける要領を身に付けることは非常に重要と考えますが、皆さんどう思われますか。



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