中小企業経営と向き合う(その10)-地域おこし事業展開における法人活用
社会貢献事業は直接お金儲けに繋がる話ではありませんので、どちらかというと敬遠されることが多いと言えます。しかし、地域に根差す企業を目指す場合には、自社のCSR活動とも絡んで、この社会貢献事業をどの様に展開するかは、非常に重要な戦略となりますので、今回はこれを考えてみたいと思います。
ここで、社会貢献活動をする方法として、一般社団法人、公益財団法人、NPO法人、一般財団法人がありますので、まずはそれぞれの定義を紹介します。
1)一般社団法人
一般社団法人は営利を目的としない非営利法人で、人が集まって初めて法人格を取得することができます。人が集まってということで、地域おこし事業のようなものには最適です。また非営利とは「利益の配分をしないこと」を言います。非営利と聞くと、ボランティアや無償活動を行わなければならないというイメージを持ちますが、まったく異なります。一般社団法人も株式会社などの営利企業と同様、利益を上げて、役員や従業員への給料支払いを行うこと自体は全く問題ありません。ただ、利益の配分を行なわなければ良いのです。
一般社団法人は、人が集まることによって本人格が与えられるので、設立のための要件として、2名以上の人(社員)が必要になります。社員には、個人はもちろん、会社などの法人も就任できます。また、法務局への登記のみで設立することができます。従って、様々な貢献活動を行うための取得しやすい法人格として期待されています。実際に、業界団体、医療系学会、資格認定機関、介護事業、互助団体など多種多様な用途に利用されています。
この様に、一般社団法人と言っても、株式会社では義務付けられている配当を行わなければ一般社団法人は株式会社と同じで、利益を得ることもできるし、給与も通常通り支払うこともできます。ただ、利益法人で行う場合には、その旨、届け出る必要が生じ、それなりの税金を払う必要があります。
2) 公益社団法人
公益社団法人と一般社団法人の違いは何でしょうか。公益社団法人を設立する場合は、2段階の手続きを踏む必要があります。まず、一般社団法人を設立します。その後、都道府県もしくは内閣府に公益認定申請を行ない、認定が下りれば、公益社団法人になれるのです。公益社団法人になれば、大きな税制優遇を受けられると言ったメリットがある反面、監督官庁の監督を受けることになり、一般社団法人と比較しても、より厳格な法人運営が求められます。認定を受けた後も、当然ながら、認定基準を維持し続けなければなりません。
機動性の一般社団法人か、あるいは優遇は多いが規制も多い公益社団法人か、活動目的や組織の規模など総合的に考えて、判断する必要があります。
3) NPO法人
一般社団法人の非営利型は一定の要件を備えた上で、登記さえすれば設立が可能です。これに対し、NPO法人の場合は、設立するのに管轄官庁の認証が必要となります。これらの理由から、現在は、NPO法人よりも非営利型一般社団法人が多く活用されています。
4) 一般財団法人
一般社団法人と似た法人に「一般財団法人」というものがあります。一般社団法人は「人」の集まりに重きを置いて活動するのに対し、一般財団法人は「財団の集まり」に重きを置きます。一般社団法人は財産の拠出がゼロ円でも設置は可能ですが、一般財団法人は300万円以上の金銭若しくは財産の拠出を行うことが設立要件となっています。人の集まりであるが故の「社団」と、財産の集まりが故の「財団」と考えてもらったら分かりやすいと思います。
ところで、社会貢献事業の1つに地域おこし事業があります。私も地域おこし事業に関わっていますので、具体的に第二創業や一般社団法人の活用の仕方を紹介します。
馬野川小水力発電復活プロジェクト
馬野川小水力発電復活プロジェクトは、民間企業である㈱マツザキ、地元金融機関である北伊勢上野信用金庫、三重大学の三者によるプロジェクトとして、今から5年前の平成25年にスタートしました。その後、平成26年事業性評価、平成27~28年技術開発、平成30年建設工事スタートで現在に至っています。
本プロジェクトの目的は、貴重な水資源からエネルギーを産出し、地域に還元する仕組み作りです。具体的には、伊賀市大山田地区の地域おこしの一環として、(1) 馬野川小水力発電復活事業と、(2) 同地区の温泉復興事業、連携して進め、地方創生の一端を担おうというものです。
プロジェクトの基本構想
基本構想を図に示しますが、発電事業は、第二創業であるみえ里山エネルギー㈱を発足させて運営します。収益の確保は、中部電力との間での固定価格買取り制度を活用したFIT事業で実現します。地域おこし事業は、一般社団法人を設立して進める計画です。
金融機関の役割
金融機関である北伊勢上野信用金庫は、技術開発段階から産学連携活動の一環として関わり、㈱マツザキと三重大学との共同研究のコーディネートの役割を果たしてきました。また、建設工事に際しては、従来のように担保物件を設定して融資する方式ではなく、将来の事業性を評価して融資を行うプロジェクトファイナンス方式を採用し、この部分は日本政策金融公庫と協調して進めています。この後の地域おこし事業においても継続して支援を展開する予定です。
地域おこし事業
地域おこし事業は、三重大学人文学部と共同での環境教育学習ゾーンを中心に下記の体験ゾーンで展開する予定です。
(1) 馬野川小水力発電所での自然環境学習ゾーン
(2) さるびの温泉での健康リゾートゾーン
(3) ほたる・星空観察ゾーン
(4) 農業体験ゾーン
すでに、自然環境学習ゾーンの部分については検討が始まっており、運営会社がFIT事業で得た収益の一部を一般社団法人に寄付し、一般社団法人はその寄付金を基金として、地域おこし活動展開するという考えです。小水力発電は、環境教育という面が大切で、発電小屋へのパネル展示やジオラマ展示を検討しています。
2019年1月29日発行の中日新聞に地域おこし事業を進めて行く上で参考になる記事がありましたので紹介します。記事の内容は、「景観まちづくりプロジェクト推進協定」を、地元の有力企業と市、まちづくり協議会が連携して、地域のまちづくりや地域活性化策を進めていくという内容です。ここで参考になることは、地域おこし事業を進めるために地域おこし事業を展開する一般社団法人に民間企業が寄付金を納めこれを基金として展開する方法の他に、地域おこし協議会と民間企業と地方公共団体の3者で包括協定を結ぶことができれば、民間企業は寄付金を全額費用として認められます。これに対し、一般社団法人に寄付金として供与した場合には、費用算入に限度額があるということです。
一般社団法人と言っても、株式会社では義務付けられている配当を行わなければ、一般社団法人は株式会社と同じで、利益を得ることもできるし、給与も通常通り支払うこともできます。ただ、利益法人で行う場合には、その旨、届け出る必要が生じ、それなりの税金を払う必要があります。皆さんどう思われますか。