リーマンショックの真実(その3)…米リーマンショツクの引鉄となった債務担保証券CDO

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 2008年9月、米国でのリーマンショックがどの様な状況の下で起ったのかを知りたいと思っていたところ、友人のK氏より、リーマンショツクの真実を描いた映画「マネー・ショート」を絶対観るべきだと言って紹介されました。本映画は2016年度のアカデミー賞作品賞ほか5部門にノミネートされ、見事脚色賞を受賞しました。映画の中では「MBS:住宅ローン担保証券」「COD:債務担保証券」「CDS:クレジット・デフォルト・スワップ、CODの保険商品」と言った金融用語が出て来ますが、劇中で解り易く説明されています。

 本シリーズでは、リーマンショックが起こった一部始終を、この映画を参考にしながら追っ掛けてみます。今回はまず、アメリカにおける住宅ローン担保証券の変遷の歴史を追います。

Step1. 1968年:MBS保証機関ジニーメイの設立
    1970年:政府系MBSの発行
   
 一般に、MBS(住宅ローン担保証券)が住宅ローンを担保として発行される場合、住宅ローンの貸し手である銀行などのオリジネーター(債権の原保持者)が、住宅ローンの貸出債権を証券の発行体に売却し、その発行体が貸出債権を元にして証券を発行します。そして、発行された証券は、元利金の支払保証がなされるなど、信用力や格付けを高めた上で、投資家に販売されるという仕組みになっています。

 特に米国では、モーゲージ証券の大部分が政府系の機関
・ジニーメイ(連邦政府抵当金庫)…設立1968年
・ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)
・フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)
によって発行されており、通常は米国債と並ぶ、高い信用力を有しています。しかし、2007年のサブプライムショツクとその後の世界的な金融危機の際には、米国のMBS市場が崩壊し、世界中の投資家が多大な損害を被りました。

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Step2. 1970年代後半 退屈な銀行業務

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 1970年代後半、銀行業は大金とは縁遠い退屈な仕事でした。安全を売っている負け犬どもの集まりと見做され、債券部などはまるで無気力でした。債券の利息は小さいので、15歳でもらった債券が30歳で100ドル程度という状態でした。

 下図に示します様に債券は購入した後、利子を定期的に受取りつつ、償還時に元本を返してもらう」という形になります。債券には「クーポン(=利息)」が付いていて、それに記されている利率に応じた利子が支払われます。額面金額が100円で、クーポンが1%であれば、年1円の利子が支払われるという訳です。従って、債券投資の基本は、「利子を定期的に受け取りつつ、償還時に元本を返してもらう」という形になります。

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 債券投資では発行元がデフォルト(債務を支払えなくなること)さえなければ、償還まで保有していれば、元本割れで損失を被ることはありません。このことから、債券投資は、元本の安全性が極めて高い投資対象というのが、金融や資産運用の世界における共通認識です。なお、MBSには、定められた満期期限よりも前に債券を償還してしまう期限前償還が可能です。そのリスクの分だけ、同格付けの債権と比較して、相対的に高い利回りを享受することができます。

Step3. 2000年代前半:非政府系MBSの登場

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 そんなとき、投資銀行ソロモン・ブラザーズにL. ラニエーリが現れ、投資家に「諸君、一緒に巨万の富を築こうじゃないか。どうだい。」と語り掛けました。彼は単純な発想で銀行業務を変えてしまいました。銀行にとって住宅ローンは30年固定金利で利益は小さいわけですが、まとめて証券化すれば、住宅ローンは信用格付がAAAと安全なので、リスクは少なく利回りも確実に上がると考えました。ミシガン年金基金は2500万ドル買いというように大量の金が動きました。バンカーの生活スタイルも変わりました。もはや株や貯金は無意味となり、彼らはモーゲージ債(MBS)で年間2000億ドル(20兆円)を売買するようになりました。

 この投資銀行が開発した非政府系MBSは、政府系MBSと同様に住宅用モーゲージ・ローンのプールを担保に証券化された金融商品です。2000年代に市場は大幅に拡大し、2006年にはMBS市場における新規発行額の44%程度を占めるまでになりました。しかし、2007年のサブプライム危機以降は発行が激減し、現在では再び政府系MBSが発行額のほとんどを占める状況になっています。政府系MBSとの最大の違いは、非政府系MBSには政府関連機関による保証がついておらず、投資家が住宅ローン債務者のクレジット・リスクを負うという点です。また、市場規模が相対的に小さいため、非政府系MBSは流動性でも政府系MBSに劣る一方、相対的に高いリターンが見込めることや商品設計が多様であることが特徴です。

 当初、ラニエーリの非政府系MBSは投資銀行を大儲けさせます。2%の手数料で何百億ドルの利益が得られるので、銀行は売りまくります。基本的なモーケージ債は、元々は単純で、政府保証付きのAAAの住宅ローン債権の集まりなのです。MBSモーケージ証券の発行は、住宅ローン債権をモーゲージ証券として、セカンダリーマーケットを形成します。不動産(住宅政策)の金融商品化(ファイナンス化)は、不動産の流動性を高める点で、住宅ビジネスに携わる多くのセクターにとって、非常に有益なものとなりました。

Step4. 2000年代前半:MBSトランシェ構造の登場

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 ところが住宅ローン債権が底をついて来ました。それでも住宅と買い手は沢山ありましたので、まずは、保証なしトランシェ構造のMBAが登場します。トランシェとは、“切り分ける”ということです。具体的には、債券の引取り要求はAAAを先に行なわれます。銀行にとっては、AAAは直ぐに売ることが可能で、AAA ⇒ AA ⇒ A ⇒ BBB ⇒ BB ⇒ B ⇒ CCC ⇒ CC ⇒ Cと下に行くほど支払順位が後ろになります。Bトランシェは利回りは高いが、リスクがあります。利回りが高いとは、取引価格は低いことを意味し、時には焦げ付きます。MBS市場の急拡大で、BとBBはゴミ箱行きになりました。これらは、信用度(FICO)は最低で、所得なし労働者を対象とし、変動金利扱いとなります。ローン焦げ付きの確率は現状は4%ですが、これがもし、8%になったらBBBもクズになります。

Step5. 2005年~2008年:CDOの登場

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 市場が危険と判断したら銀行はどうするのか。リパッケージしてCDOに変えます。債務担保証券と呼ばれるもので、Bランクの売れ残りを他の山に積み重ねます。リスクは分散されたように見えるから無節操な格付け機関は質問もせずAAAを付けます。CDOは住宅市場を危機に陥れ、経済破綻を抱いた元凶です。

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 映画の中では有名シェフ、A.ボーディンが次の様に説明します。「私は日曜に店の献立を考える。注文した魚はクズ同然の債券だった。オヒョウが賢くなって新鮮なのが獲れない。ではどうする。BBBの債券であるこの古い魚はゴミ箱行き?まさか。私は悪知恵が働く。この債券をシーフードシチューにすれば古い魚は新しい献立だ。3日前のオヒョウを食べる。これがCDOだ。」

 犬のクソのMBSを猫のクソで包んだものがCDO。CDOは国債並みの評価だが、その価値はゼロに等しい。まさにCDOを販売することは、投資銀行の詐欺に相当します。

 更にもっと悪質な状況が起こります。互いの一部が入っている“CDO1”と“2”をさらに“3”に突っ込むことが行われてる様になります。CDOの2乗です。CDOのCDOになる「合成債務担保証券」合成CDOです。モーゲージ債MBSは“マッチ”で、CDOは油まみれのボロ、合成CDOは爆発寸前の原子爆弾に相当します。世界経済は破綻すると確信できる瞬間でした。

 映画の中で、行動経済学のR. セイラーとS. ゴメスが次の様に説明します。

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ゴメス…「ブラックジャックに1,000万ドル賭けたとするわ。(ブラックジャックは、カードの合計点数が21点を超えないように、プレイヤーがディーラーより高い点数を得ることを目指します。)」
セイラー…「いい手だ、カードは18。親は7でセリーナが優勢。彼女が勝つ確率は87%だ。勝算はあるし、連勝してる。」
ゴメス…「見物客は私に賭けるわ。当然よ。」
セイラー…「バスケットでよくある誤った確信だ。連続で得点してると、次も入ると思い込む。今起こっていることが将来も続くと。不動産市場の活況は一生続くと思われていた。勝算がある人は別の賭けを仕掛ける。それが最初の合成のCDO。」
見物客…「彼女の勝ちに5000万ドル。オッズは3-1よ。3-1 受けよう。すると誰かが彼らの賭けの結果に賭ける。それが第2の合成CDO。眼鏡の女性の勝ちに2000万ドル。もっとオッズを上げて。20-1は?決まり。
ゴメス…「こうして合成CDOが増えてくの。」
セイラー…「最初の1000万ドルで何十億ドルの大金が動く。」

CDOデリバティブ商品
 「CDO」という金融商品は、様々な債券を組合せてリスクを分散させて、リターンを大きくさせた証券ことです。リスクを分散という意味は、安定ではあるが人気のない利率の低い債権(AAA, AA)や危険ではあるが人気の高い債権(B, サブプライムローン債券)を色々と組み合わせることです。リターンが大きいということは、人気が出て多くの投資家が購入することです。金融市場においても、誰もが自由に買えて、“お得”だと思われていましたが、関係者も何が入っているのか理解していないというのが実態でした。サブプライムローンといった、無担保審査なしで借りた低所得者のローン債券(破綻が目に見えているもの)がたくさん含まれていたのです。それをよく見ようともせずに、私利私欲のために格付け会社はAAA(安全)と評価しました。それを信じて疑わなかった多くの投資家が損をみたのです。リスクの高い債券は購入価格が高くなります。しかし、設定利率が高いので、その分十分に配当がもらえて儲かるのです。

Step6. 2007~2008年:CDSという保険の誕生

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 クズになる8%でアルマゲドンなので、その手前で空売りのチャンスです。具体的には債券の保険契約をするのです(CDS)。レバレッジを効かせてCDSを購入しておけば、市場が破綻したとき10倍20倍のリターンが得られます。その日は近いにも関わらず、銀行は手数料を稼ぐのに忙しいから注意を払っていません。

 そして30年後の2008年全ては崩壊しました。まず、ベアー・スターンズの経営が悪化し、続いてリーマンブラザーズも破綻しました。現代における金融危機です。

 投資銀行大手とは、(1) ゴールドマン・サックス (2)モルガン・スタンレー (3) メリルリンチ (4) リーマン・ブラザーズ (5) ベアー・スターンズと続いています。ベアースターンズは、最後にJP・モルガン・チェースに救済されました。ちなみに大手銀行は、(1)JP・モルガン・チェース (2)バンクオブアメリカ (3)シティグループ (4)ウェルス・ファーゴ と続いています。

 2008年の9月の金融危機は、未曾有の金融大参事であり、米国のビジネスの崩壊です。MBSという怪物は世界経済を崩壊させました。専門家も予期せぬ事態であり、誰もが亜然としました。政府も要領を得ませんでした。住宅ローンをしている者が、破綻し始めると、金融機関は資金を取り戻せず、金融機関自身が破綻し始めます。すると、投資家も破綻し始めます。結局は、リーマンショックの様な現象が起こります。

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 2008年から約8年経った2015年にこの映画は製作されたそうです。その時点で、また大手投資銀行がCDOまがいのデリバティブ商品を売り出したとブルームバーグが報告しているそうですが、皆さんどう思われますか。



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