リーマンショックの真実(その5)-ヘッジファンドを率いるマークの採った空売り大戦法

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 2015年に製作された「マネーショート」という映画があります。これは米国で2008年に起こったリーマンショツクの裏側を描いた映画です。とても面白い映画でした。マイケル、マーク、ベン、ジャレドという4人の主人公が出て来ます。マイケルは小さなヘッジファンドのマネージャー、マークはベアスターンズ傘下のファンドマネージャー、ベンはJPモルガンの元トレーダー、ジャレドはドイツ銀行の現役銀行員という設定です。

 リーマンショックの発端は、サブプライムローンと呼ばれる信用度の低い住宅ローンで、返済不能となった借り主が続出したことです。そのため、このローン債権をベースにした証券化商品(CDO:債務担保証券)が暴落し、証券を買った機関投資家の多くが大損失を被りました。
 
 この映画は、米国住宅不動産市場の破綻を描いていて、この破綻を逸早く気付いたこれら4人の主人公達が不動産バブルを作り上げた張本人である投資銀行の詐欺まがいの行動に立ち向かい、空前の「空売り」を実行して大勝利を納めるという物語りです。

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 今回取り上げるのは、投資銀行業界で第2位にモルガン・スタンレーがありますが、その傘下のヘッジファンド「フロントポイント」でファンド・マネージャーをやっているマーク・バウムの空売り大戦法の話です。





 2008年9月のリーマン・ショツクの3年以上前の2005年3月ことです。ドイツ銀行のジャレド・ベネットがMBSの空売りの話を、マークとそのスタッフ3人の処へ持って来ます。彼の殺し文句は「燃えさかる家の前で、火災保険を勧めている」というものです。サブプライムローンの債務不履行での焦げ付きの確率はすでに4%になっているが、もしこれが8%になったら、BBBも屑になりアルマゲドンになるとマークらを煽ります。保険を掛けるのであれば、今がチャンスとCDSを売り込みます。

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 マークは、仲間のヴィニー、ポーター、ダニーの3人に大至急調査を指示します。調査の内容は、「今は住宅バブルか?」「そうならはじけそうか?」の2つです。

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 まずは、フロリダマイアミの郊外の住宅開発地のローンの焦げ付き状況の調査をしました。その結果、90日のローン滞納者が結構いるということ、また、100軒中住人が住んでいるのはたったの4人ある事実を摑みました。マークは、少しずつ市場の破壊が始まっていると判断しました。

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 次に不動産販売業者から取引価格の状況を聞き出します。その結果、景気が好調の時期には、新築が35万ドル、2年後には48万ドル、1年半前までは58万5000ドルにまで高騰していましたが、最近は65万ドルで買って同額で売るケースが増えているとのことでした。景気が跡踏み状態になって、失業者が出始めているからです。

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 さらに、受託ローンの仲介業者を紹介してもらい、サブプライムローンの契約状況を聞き出します。その結果、ローン契約の90%が変動金利でのサブプライムローンであること、しかも契約書の収入欄が空白でも契約は成立するとことでした。これは違法です。

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 最後にストリップダンサーです。ストリップダンサーーはサブプライムローンを使って、何と家5軒にコンドミニアムを所有していました。

 調査の結果からのマークの結論は、住宅市場はバブル状態であるというものでした。マークは仲間のベニーにBBBの債券のCDSを5,000万ドル(50億円)で買えと指示します。

 その後、2007年1月の段階では、住宅ローンの債務不履行が100万件に達する見込みとなりました。しかし、サブプライムが危機なのに債務担保証券のCDOの格付けはそのままという状態に陥ります。その際、銀行は約束通りに190万ドルの担保を追加要求してきました。

standard&poors

 マークらは、なぜこのような状況が起こるのかを知るために、格付け会社のスタンダード&プアーズへ出掛けます。そこで知り得た事実は、公平であるべき格付け機関が、格付けを売っているショップに成り下がっているという事実でした。ここでも汚くて、非合法なことが行われていました。


 そこでマークらは、債務不履行が増加しているのに、なぜ債券の価格が上がっているのかを知るために、ラスベガスで開催される証券化フォーラムへ出掛けることにしました。サブプライム業界の人間が大集合するので、その正体を見極めることができると考えたのです。個人的な会合もセットしてもらいました。

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 マークが会合したのは、メリルリンチ傘下のハーディング社でCDOの管理をするマネージャーでした。彼から「MBSがマッチなら、CDOは油まみれのボロ、合成CDOは爆発寸前の原子爆弾である」ことを知らされました。合成CDOとは合成債務担保証券のことで、互いの一部が入っている“CDO1”と“CDO2”を合成し、さらに“CDO3”を突っ込む。CDOの2乗なることを指します。CDOのCDOになるのです。合成CDOの市場規模はローンの約20倍にまで膨らんでいましたので、合成CDOとCDSで額面5,000万ドル分である場合、これが市場では20倍の10億ドルで売買されるということです。

 ラスベガスから帰って暫くして、マークは親会社であるモルガン・スタンレーの上司から呼ばれます。上司の話は、2年前、債券部の同僚が20億ドル分のBBBのCDSを買ったそうです。ところが、中々価格が下がらないため、保険料の支払いが収益を食ってきました。そこで、その保険料をカバーするため、影響ないと判断してAとAAのCDSを大量に販売したのです。そしたら今度は価格が下がってしまってモルガンスタンレーはCDSの支払い債務を賄なえない状態に陥ったと言う訳です。その債務額は150億ドル(1.5兆円)に達するというものでした。

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 上司はマークが持っている5,000万ドル分のCDSをモルガンスタンレーのために売って欲しいという申し入れた訳です。今売れば、かなりのお金が入って来るからです。しかし、マークは、今回の金融市場の破綻は、投資銀行の投資家に対する詐欺行為が原因だと考え、親会社であるモルガンスタンレーももっと苦しむべきだと考えます。もう少し待てば3倍になって返ってくるからと言って、上司の申し入れを拒否します。仲間のベニーは、あまり待ちすぎるとその前にモルガン・スタンレーそのものが破産したら共倒れになると心配しますが、マークは待って、待って待つんだと指示します。

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 結局、マークは最後の大勝負に出ます。2008年9月、リーマン・ブラザーズが破綻します。それを観てついにマークは全部売れと指示します。マークの持つCDSは最終的に相当な倍率まで値を上げたと考えられます。そのおかげで親会社であるモルガンスタンレーは生き残りました。


 投資の世界ではファンド・マネージャーの判断1つで大金が動きます。一方で、汗まみれでわずかな給料を得て暮らしている一般庶民からみると、全く別の世界の出来事のようですが、皆さんどう思われますか。



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