不動産投資の世界を覗く(その1)…不動産事業の戦略的展開について

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 今回は、不動産投資をする場合の基本戦略について述べてみたいと思います。これをまとめるに当っては、ゴルフ仲間の川津昌作氏が2014年に著した『いまさら誰にも聞けないプロのための不動産投資利回り』を参考にしています。

 私事ですが、1989年(平成元年)に中日カントリークラブの個人会員となりました。入会して3年位した1992年(平成3年)頃から、不動産経営をしている川津氏と知り合いになり、それ以降26年程一緒に月例杯やら暦杯といった競技会を共にして来ています。私は1948年生まれの70歳、彼は1958年生まれの60歳です。お互い歳を取りましたが、ラウンド中には、不動産に関する話題が頻繁に飛び出します。特に金融工学に関わる話が多く、ブラックショールズの紹介も彼から受けました。

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 川津氏は、変わった経歴の持ち主です。1981年に滋賀大学経済学部を卒業後、現在のパナソニックに勤務しました。その後1985年に父親の死去にともない不動産業を継ぐために名古屋に戻りました。しかし、経営理論に大きな関心があるのか、2002年に愛知学院大学の博士課程に学び、経営学博士号を取得しています。これまでに6冊ほど不動産に関する書籍を出版しています。私もほとんどに目を通しましたが、今回は、彼から推奨された2014年発刊の1冊を参考にしています。

2000年 「不動産投資マネージメントの戦略」 晃洋書房
2002年 「不動産投資の成長メカニズム」 清文社
2004年 「不動産投資戦略」 清文社
2006年 「ハイレバレッジ不動産投資」 清文社
2008年 「リスクを移転し始めた不動産投資市場」 清文社
2014年 「いまさら誰にも聞けないプロのための不動産投資利回り」 清文社
 
 川津氏によれば、不動産投資を考えるに当り、

(1) 資産利回りを指すキャップレート(Cap Rate)
(2) 資産評価額を指すアセットバリュー(Asset Value)
(3) 家賃収入利回りを指すエヌ・オー・アイ(Net Operating Income)

の3つが重要とのことです。これらの3つの関係式は下図となります。自ら投資ポジションを取る時は、その意思決定に必要な情報としてこの3つが必要なわけです。

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 これらキャップ・レート、アセットバリュー、NOIは、実際の現場では次の様に使われています。

ケース1
 まずは、NOIが500万円ある資産は、市場利回り5%で考えると、資産評価額はいくらになりますか? というケースです。
(答え)
・NOIは実データで500万円を取ることができます。
・次に市場利回りが5%とありますので、これを市場のキャップ・レートとします。
・すると、資産評価額は
Asset Value=NOI/Cap Rate=500万円/0.05=1億円となります。

ケース2
 建築費が1億2,000万円、設定家賃収入が600万円の物件の利回りはどの位か? というケースです。
(答え)
・Cap Rate=NOI/Asset Value=600万円/1億2,000万円=5%
・但し、5%はグロス利回りで、ネット利回りのNOIはもう少し小さくなります。
・家賃から一般経費を控除する前の利回りを通常「グロス利回り」と言います。家賃から一般経費を控除した後の利回りを「ネット利回り」と言って区別しているようです。通常は、一般経費は家賃の20%とみなします。

 ちなみに、中町の物件は2,450万円で最近購入しました。家賃12万円ですので、NOIは12万円×12ケ月×0.8=115.2万円となります。キャップ・レートは115.2万円÷2,450万円=0.047でほぼ5%です。まずまずの投資物件であることが判りました。

ケース3
 投資総額 1億5,000万円、投資の要求キャップ・レートは6%と設定した場合、必要な家賃収入はどのくらいか? というケースです。
(答え)
・NOI=Asset Value×Cap Rate=1億5,000万円×0.06=900万円
・しかし、NOIは家賃収入から経費を控除したものであるので、経費率を20%と考えるなら、求める家賃収入は 900万円×1.2=1,080万円となります。

 ここで不動産への投資スタイルと利回り戦略について、川津氏の見解を見てみます。不動産投資には、どのような投資環境でどのような利益を求めるかによって、下記3つのスタイルがあるそうです。

1. バリューアップ戦略
2. コア戦略
3. オポチュニスティック戦略

 下の表には、現在私自身が保有している不動産をこの分類に従って区分したものです。これをAsset Value, NOI, Cap Rateの値を用いて比較してみました。詳細はこの後説明しますが、上手い具合に3つの戦略に分散されていることを確認でき、ほっとしました。

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バリューアップ戦略

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 バリューアップ戦略とは、上質なマネジメントを新たに追加することでNOIを成長させることを求めます。上質なマネジメントとは、
・ 劣化したビル施設に再投資をして付加価値を上げる。
・ あるいは、更地から開発することにより、大きな価値を創造する。
これらがバリューアップ不動産投資のスタイルです。

 中町の3階建て一軒家を、即購入したのは、このバリューアップ戦略に相当します。自宅の敷地と地続きであり、将来売却するにしても、より高付加価値で扱えます。また、将来、長女が戻って来ても、住まわせる用途にも使えます。但し、賃貸契約は定期借家方式を取らざるを得ません。

コア戦略
 コア戦略とは、資産のバリュー(価値)が最大に発揮されている状態で、その最高のインカムゲインに対して投資をするスタイルがコアの不動産投資スタイルとなります。要は家賃が十分取れる物件です。再生された上質な収益に投資をすることから、バリューアップ不動産投資の出口となります。

 1994年(平成6年)に2,340万円で取得した名古屋鶴舞のライオンズマンション(貸室)
はこれに相当します。

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 約10年後の2005年(平成17年)に5,860万円で建設したヘーベルハウス・マンションUNOメゾンは、コア戦略に相当すると思います。

 1985年(昭和60年)に2,600万円で建設した自宅のヘーベルハウスは、価格が通常の1.5倍でしたが、その質の良いことがヘーベルハウスを選んだ理由であり、後年に建てたマンション建設においても、躊躇なくヘーベルコンクリートを選んだという経緯があります。1階を塾の教室にし、2階と3階の4部屋を賃貸しすることになりました。



オポチュニスティック戦略
 オポチュニスティック戦略とは、個々の資産の価値のマーケティング価値成長ではなく、バブル経済、新興経済の拡大などのファンダメンタルズ価値の短期的な拡大・膨張する「機会」において、土地ころがし、地上げ等を行い、短期的利益機会を対象に投資するスタイルがオホチュニスティック不動産投資スタイルと呼ばれているものです。コアの不動産スタイルでホールドしていた資産がバブル等で高騰すると、キャピタルゲイン狙いで売却されますが、コアの不動産投資の出口となります。

 1988年(昭和63年)に2,200万円で購入した京都の一軒家は、すでに42年経過していますが、川津氏の言うオポチュニスティック戦略に相当すると考えています。

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 購入のきっかけですが、妻が京都精華女子大学へ通っていたこともあり、結婚後も事ある毎に京都を訪問する機会が多くありました。「何時か京都に別荘が欲しいよネ」ということになり、物件を捜しに出掛けることになりました。そして、松ヶ崎の物件を2,400万円で紹介されました。当時松ヶ崎はまだ地下鉄も走っておらず、北町通りの一角にはまだ畑が残っていたのを覚えています。近くに京都国際会議場があり、プリンスホテルやノートルダム女子学院もあるのでなかなか好印象の場所でした。その当時から、いずれ地下鉄が通り、どこかのディベロッパーが入り、これら不動産を買い求めてくれればと願っています。

 2011年に一度300万円かけて改修工事を行なっていますが、現在の家賃は72,000円です。場所は京都の松ヶ崎と、地下鉄で2分の場所にあります。残念ながら、長屋で道路に面していないため、自分の処だけを建替えができません。不動産屋が800万円で買うと言えばこれに応じる予定です。ただ、2020年の東京オリンピック、2025年の大阪万博に向けて、京都には今後インバウンド効果が期待できますし、民泊の需要も大きいです。

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 川津氏が考える長期景気循環を、投資スタイルのポジションイメージは、下図の様になります。この様に、バリューアップ ⇒ コア ⇒ オポチュニスティック と出口を求めて市場が進化して行きます。


 私自身、株や金先物商品を止めて不動産投資に傾注し始めてから30年近くが経ちました。不動産は動きは少なく、長期展望に立つ投資ですが、皆さんはどう思われますか。



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