不動産投資の世界を覗く(その5)…ハゲタカファンドの非情な手口

 日本におけるバブル崩壊期は1991年(平成3年3月)から1993年(平成5年10月)までの景気後退期を指します。1998年(平成10年)当時、日本の金融業界が不良債権問題に苦しんでいた時、米国からやって来た外資系のハゲタカファンドが、日本中を闊歩しました。債権を抱かえた企業の株や債権などを買い占め、企業を手中にし、再生して行くというバルチャー(ハゲタカ)ビジネスという名称で呼ばれているビジネスの原点を構築した老舗として、KKLはあまりにも有名です。

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 その中で、真山仁によって書かれた「ハゲタカ」という小説はあまりに有名です。例えば金融機関の不良債権の処理の場面が出て来ます。

 手前どもホライズン・キャピタルは、先程ハットフォードから紹介がありました通り、世界中の投資家から資金を募り、それをファンドとしてプールし、不動産や企業に投資して投資家にリターンを提供している。いわゆる投資ファンドの運営を生業にしています。



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 我々の投資ファンドの仕組みをご説明いたしますと、現在ファンドとして運営しておりますのは、昨年10月に募集しました総額300億円のファンドです。通常、こうしたファンドは、資金を集めて組成しますから、一定の投資期間を決め、その間に有益な投資案件を物色した上で投資し、我々が投資家にお約束しております利回りを、お返ししていくということになります。

 実は、投資ファンドの場合、投資家からお預りしている資金だけで投資することは、まずあり得ません。案件ごとに安い金利の融資を仰ぎ、いわゆるレバレッジ効果を効かせて、資金の数倍の案件に投資いたします。

 二つの長方形を描き、「一方は、まるごとファンドの資金だけを使った場合で、翌年にはファンドから投資した100に対して求められる10%のリターンを加味した110の売上げが求められます。しかし、このうち、90を市場から年利2%で借り、残りの10だけファンド資金を使うと、翌年求められるものは、90の2%である1.8と、10の10%の1で済みます。つまり、自己資金だけでは110の売上げを求められるものが、レバレッジを効かせれば102.8で済むことになります。この差は大きいですよね。

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 本日頂戴するバルクセール内の各案件、DIP(Detailed Information Package)と言いますが、これを元に我々は、デューデリジェンス(精査)を行ないます。デューデリは、大きく分けて二つのラインから行います。

 1つは、債権自体のデューデリ。私達は、DIPの中の金銭消費契約、返済履歴、債務残高、抵当権の設定状態などを、公認会計士や司法書士、弁護士などの協力を仰ぎながら分析します。また、我々にとって最大の関心事である「入金の可能性」を知るために、債務者の信用調査も行います。

 もう1つのデューデリは、債権に付帯した根付不動産の鑑定です。私どもの不動産鑑定の最大のポイントは、キャッシュフローです。すなわち家賃収入ですね。したがって、地価がどれだけ高くても、民家の場合は非常に低い査定額になると思いますので、予めご了承ください。こうした作業を約4週間で行い、最終的にはバルクセールとしての買取り価格を算出することになります。流れとしては、ザッとこんな感じですが、いかがでしょうか。

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 債権区分では、正常先、要注意先になっておりますが、我々で独自に調べたところ、いずれも債務者自身の努力による返済ではなく、ペーパカンパニーから返済金を融資してもらっていることが分りました。その上、そのペーパーカンパニーに、貴行の系列ノンバンクが融資されておられます。大変失礼ですが、これは「飛ばし」と見なされる危険がありまして、我々としては債権価格を低く評価せざるを得ません。

 担保不動産の評価額が想像以上に低いのですが、いくら地価ではなくキャッシュフローベースの査定とはいえ、青山や六本木、赤坂、銀座などの一等地の商業ビルについての評価が低すぎませんか。

 担保不動産のデューデリにつきましては、以下のようなことを前提としております。


 まず第1に我々が担保不動産として評価致しますのは、その担保が第1順位の根抵当である場合に限ります。すなわち、二番、三番抵当としての担保では、その担保をたとえ債権から切り離し売却したとしましても、売却益は第一順位担保権者が優先されます。我々にその益が分与される可能性は限りなくゼロです。つまり、第一順位以外の担保不動産価値は、全て「ゼロ」になります。

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 第二に、今、沼田様からご指摘がありました通り、不動産評価は、同物件が年間に挙げられる収益を、5年間にわたってDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)方式によって算出致します。しかし、その際、当該建物の状態、空室率等も勘案することになります。

 さらに、十分に減価償却されていない物件もありました。また、現在の不動産市場は非常に冷え込んでいて、そうした築年数が古い物件はすぐに売却できる可能性も低いと見込まれます。もう1つ、これらの案件を地価ベースで処分するとしても、地価の下落で、ここに記された簿価の良くて五分の一、酷いものは十分の一でも売れないでしょう。

 第三に青山や六本木のビルは、時価でも100億円はすると聞いてはいるんだが、これらの物件は現在の所有者に問題があります。反社会勢力が持っていて、債権処理ができそうにありません。

 貴行の場合、不良債権に対する貸倒引当金の額が低すぎます。通常であれば、実質破綻先(回収不可能または無価値と判定された資産)なら100%、破綻懸念先で50%、要注意先でも20%程度は積むものです。しかし、貴行では実質破綻先ですら50%程度、残りはゼロに近い状態にあります。これではバルクセールの度に、多額の売却損が出てしまいます。

 貸倒引当金とは、貸付金の残高などの債権に対して一定額を積んでおく資金のことです。債権が不良債権化すると、全額の回収が難しくなります。そのため、まさかのために回収不能と思われる額を積み立てておくのです。

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 1999年、当時の金融再生委員会が「資本増強に当っての償却・引き当てについての考え方」を公表し、各金融機関に不良債権についての引当金の厳格化を求めましたが、1997年当時、引当金を厳格に積み上げていた銀行は稀でした。バルクセールでは、簿総額に対し10%で買い取るのが一般的です。ゴールドバーグコールズの連中に成功報酬として、バルクセールの売却額の3%を支払います。

 ハゲタカは、北米に生息する鷲、鷹類の総称として使われています。一方、日本の金融界では、闇夜に舞う最強の鳥として猛威を振るっているヘッジファンドのことを意味するようですが、皆さんどう思われますか。



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