金融工学への誘い(その2)…ルーレットをポートフォリオ理論で遊ぶ

1. はじめに

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 今回のコーヒーブレークは、「金融工学への誘い」ということで、2019年4月23日にK信用金庫の会員向けにお話ししました内容を紹介します。



2. 金銭教育講座

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 3年前、平成28年の8月に金銭教育講座を開催しました。その際には、講師から期待値や現在価値法について数学的な説明がありました。その後、色々な方々に訪ねましたら、難しいが面白かったという意見が多かったです。

 今回、それを受けて「金融工学への誘い」として、期待値やこれに関わるポートフォリオ理論について紹介します。金融の世界でこれらが何を意味し、どの様に現場で使われているかもお話ししたいと思います。特に皆さんが大きな関心のある資産形成と密接に関わるのがポートフォリオ理論です。一方、現在価値法については、今世間を騒がせているカルロス・ゴーンが陥ったオプション取引とも関わりますが、これについては別の機会にお話しします。

3. ダイスによる期待値計算の例

 まず、期待値の話です。1個のサイコロを1回投げて、出た目の数だけ10円硬貨を受け取るゲームがあります。1の目が出れば10円、6の目が出れば60円貰えます。参加料が40円のとき、このゲームに参加することは得であるか、損であるか。皆さんどのように判断しますか。これは、受け取ることのできる期待値と参加料を比較すると、参加すべきかどうかの判断ができます。ゲームに参加した人の受け取る金額の期待値を計算してみます。

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 1の目は10円で1の目が出る確率は1/6ですので10円×1/6が期待値です。2の目は20円で2の目が出る確率も1/6ですので期待値は20円×1/6となります。あと6の目まで同様のことが言えますので、全体の期待値は計算しますと35円となります。

 10円×1/6+20円×1/6+30円×1/6+40円×1/6+50円×1/6+60円×1/6=35円

 これは参加料40円よりも安いので、参加することは損です。

4. 宝くじの期待値

 同じく期待値の問題です。2018年年末ジャンボ宝くじですが、1等は7億円で、1等前後賞は1.5億円でした。ここで期待値を計算してみます。

・宝くじの購入代金300円/枚です。
・年末ジャンボ宝くじの組は、01組から100組までの合計100組です。
・番号は100,000~199,999までの10万枚です。
・合計 100組×10万枚=1,000万枚です。
・1等が当る確率は1,000万分の1となります。
・期待値は7億円×1,000万分の1=70円となります。

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 1,000万人の人が300円払ってこのゲームに参加し、参加料300円の内の70円が1等当選者に集中して配当7億円を受ける。そういうゲームです。300円の参加料に対して、期待値は70円ですので、参加することは割に合いません。しかし、損な買い物ではあるが、当たれば大きいので夢があります。ですから、人気があります。

5. ルーレットゲーム

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 それではもっと大きな期待値が得られるゲームはないのでしょうか。それはありますそれはルーレットというゲームです。皆さんルーレットの経験はありますか?ルーレットと言えばカジノです。ラスベガスのカジノでは、ディーラーがこのルーレットを回し、球がどこで止まるかで勝敗がきまります。美女もお出迎えですよね。

 日本でも2018年9月にカジノ法案(Integrate Resort 統合リゾート)の成立により、いよいよ日本のカジノ解禁が現実味を帯びてきました。

6. カジノに関する新聞記事

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 主なカジノ候補地は、9カ所あり、中でも北海道、大阪、神奈川が有力な候補地と見られています。来年、2020年代の中頃には、日本初のカジノ施設が開業する見通しです。先日3月30日の日本経済新聞では、ゲーム前に現金をチップに交換する際、100万円超の場合には国に届け出ることが法律で定められたと報じていました。これはマネーロンダリング対策のためです。ちなみに日本は100万円ですが、ラスベガスは110万円、シンガポールは80万円、マカオは680万円となっています。

7. ルーレットゲームの特徴

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 カジノで行われるルーレットは、博打と思われている節がありますが、本当はとても知的で、実用性の高いゲームです。ルーレットは金融工学で良く出て来る、ポートフォリオ理論、マーチンゲール戦略、損切戦略といった理論戦略を活用しているゲームなので、とても知的なゲームと言えます。

 ルーレットには3つの特徴があります。1つは、勝てるゲームであること、2つ目は知的なゲームであること、3つ目は実用に役立つゲームであることです。

 皆さん、へッジファンドというのを知っていますか。投資家から金を集めて運用し、運用率30~40%という高い収益率を実現しています。このヘッジファンドの戦略をルーレットというゲームで味わうことができます。

8. ルーレットゲームのルール

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 まずルーレットゲームのやり方をおさらいします。全部で11通りの掛け方があります。
まず大きくインサイドベットとアウトサイドベットに分かれます。倍率が高いのがインサイドベットです。この白い枠の内側で、このインサイドベットには6~36倍の賭け枠があります。

 これに対し、白い枠の外側のアウトサイドベットは賭け率が2から3倍と低くなります。これら全ての賭け枠を駆使してゲームを戦います。

9. ルーレットゲームの期待値

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 まずルーレットの期待値を計算してみましょう。

 最も倍率の高い、1つの数字に賭けるとします、倍率は36倍です。例えば、数字の5に賭けた時、数字は1から36までありますから、5に当る確率は36分の1となります。従って期待値は、配当倍率36倍×当る確率36分の1を掛けて1となります。同じことが他の位置の賭け枠についても言えます。

 このことは、ルーレットでは平均的にみると賭けた金額だけ戻って来ることになります。宝くじに比べるとずっと儲けやすい賭けになります。

10. ルーレットゲームを構成する金融工学理論

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 ルーレットを構成する金融工学理論としては3つがあります。まずは、ポートフォリオ理論と呼ばれるものです。掛け率と賭け枠の最適組合せを計算で求めます。いくらのお金をどこに賭けると最も効率良く儲けられるかを、始めに決めておくわけです。次に、マーチンゲール戦法といって、負けが大きくなった時に大逆転する方法も取り入れます。3つ目が、損切り戦法といって場の風を読む戦法です。

 ポートフォリオ理論、マーチンゲール戦法、損切戦法の3つです。ルーレットでの具体的な戦い方は後で示しますが、まずはこれら3つの理論戦法を皆さんと一緒に確認しておきましょう。

11. ポートフォリオ理論とは

 ポートフォリオ理論ですが、これは資産形成のために作られた理論です。今、A資産、B資産があります。B資産は、収益率は高いがリスク率も高いです。金融業界で言えば株式に相当します。A資産は収益率は低いが、リスクは低いもの、例えば債券です。このAとBの投資量を適当に調整して保有すると、そこそこの収益率があって、リスクも小さな資産Dになりますよということを言っています。

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 一方、E資産は収益は低いが、リスクゼロのもので、例えば銀行預金です。そこで、これらが作るE ⇒ D ⇒ Bの線上で、自分のポジションをどこにするか決めます。どこにするかは、自分がどの程度お金を準備できるかで決まります。

 すなわち、資産運用する人が、どれだけのリスクを受入れて、どれだけの収益率を目指すかに応じて、EとDあるいはDとBの間の点を選択し、それを実現するようにAとBの資産と預金を保有すれば良いのです。以上がポートフォリオ理論です。

12. アウトサイドベットでのマーチンゲール戦略

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 次にマーチンゲール戦略について説明します。最初は1万円を賭けます。以降は負けたら、次の回は掛け金を2倍にして賭けます。勝ったら、次の回の掛け金は基本の賭け金1万円に戻します。続けて負けると、損が倍倍で累積しますので、これが怖いです。


13. マーチンゲール戦法の怖さ

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 ここに10回連続して負けた場合の具体的数値を示します。連続して7回負ける確率は1/2を回掛ければ求まり1/128になります。0.8%と小さい値です。しかし、128倍のレバレッジで賭けないと破綻してしまいます。

 (1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2)=1/128=0.0078125=0.8%

 運悪く10回ゲームをして、しかも10回連続して負ける確率は約0.1%とかなり小さいのですが、その場合には、1000倍のレバレッジとなります。逆に、負けが重なっても、このマーチンゲールで一挙に元が取り戻せれるので、このマーチンゲール戦法をいかに上手く使いこなすことができるかがポイントです。

14. 損切戦法

 カジノではしばらくは場の状況を確認することが重要です。誰がどの様な賭け方で儲けているか。ディーラーの特徴はどんなか。この様に場の風を読む時に損切戦法を使います。

 理論的に説明しますと、例えは、この図で最初8種類の資産を購入します。暫くして、半分の4つの資産は+1値上がりし、残りの4つは値下がりしたとします。ここで損切戦法を使います。値下がりした資産はこの時点で直ぐに売ります。値上がりした資産は、次にまた上昇する確率が高いと言えます。暫くすると、今度は4つの内、3つが値上がりし、1つが値下がりしました。ここで、値下がりした資産は、次にまた値下がりする確率が高いので、ここで売ります。この様に続けて行くと、平均的には儲けることができます。

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15. ルーレットにおけるポートフォリオの応用

 それではいよいよ、これら3つのポートフォリオ理論、マーチンゲール理論、損切り理論をルーレットに利用します。私のルーレットのポートフォリオ戦略ですが、この図を選びました。

 まず、第1ステップとして、アウトサイドベットとインサイドベットの掛け率を5:1に設定しました。すると、ベースラインに対し、アウトサイドベットの部分の配当倍率が少し上昇します。

 次に、第2ステップとしてアウトサイドベットにマーチンゲール戦法を適用して、配当の嵩上げを狙います。

 私のルーレットでのポートフォリオ理論曲線はこの一番上のラインまで、配当倍率を上げることを考えました。

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16. ルーレットでの具体的な貼り方

 これは私のルーレットの賭け方です。すなわち、インサイドベットに白チップの1,000点、アウトサイドベットに5倍の青チップ5,000点をかけます。

 マーチンゲール戦略の活用ですが、3ベットゾーンには、ダズンの中央にマーチンゲールを採用します。また、2ベットゾーンでは、レッド・ブラックにマーチンゲールを採用します。その他は通常に賭けて行きます。

 損切戦法の活用は、インサイドベットに活用して、場の風を読みます。毎回、風の吹く場所へ、と白チップを動かし、これに応じてハイローとかカラムの選択を行ないます。

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17. これまでの成績

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 ここに示します様に、色々と試してみました。いずれも10回を基本にして実施してみました。①の例は、比較的上手く場の風が読めた場合です。ほどほどのスコアで推移します。②の例は、最初大きく負けていましたが、マーチンゲール戦法で大逆転を果たした例です。これは一例ですから、皆さんは皆さんのやり方で勝負して頂いていいのです。ただ理論に適ったやり方をお勧めします。

18. ヘッジファンドの戦法

 実は、金融の世界でも、このルーレット方式が使われています。皆さんへッジファンドというのをご存知でしょうか?有名なところでは、ジョージ・ソロスがいます。古い話ですが、1992年にイングランド銀行を破産させたことで有名です。これはブラックウェンズディと呼ばれソロスは1兆円の軍資金を準備して戦ったと言われています。

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 このヘッジファンドは、収益率が30~40%と言われています。通常、どれだけ美味い話があっても、せいぜい10%あるかないかで、銀行への預金もたったの0.1%程度です。この収益率30~40%をどうやって達成しているのか、その多くの要素がルーレットゲームに観ることができます。今日はそれを皆さんにご紹介しました。

19. おわりに

 ただ、ルーレットゲームもハイリスク・ハイリターンであることを念頭に置いて、お金の無い時はやめて下さいよ。

 実際の現場では、ディーラーと呼ばれる親が、球の落とし場所をテクニックを用いて決められると言うことで、理論通りには勝たせてもらえないそうです。



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