金融工学への誘い(その4)…オプションの計算に難しい数学は不要
前回は金融市場におけるオプションの役割について理解しました。特に宝石の様な高級品を輸出入する業者にとっては、オプションはとても重要なツールとなります。例えば、3ケ月後にドル決済にて10億円の宝石を売り渡す場合には、その際にドルが入ってきますので、直ぐに円交換する必要があります。ドル高・円安が望めるならば、ドルコールオプションを買って為替変動をヘッジします。具体的には、1$=100円で権利行使のオプションを購入して、1$=110円になった時にドルを売れば、1$につき10円の利益を得ることになります。今回はオプション価格の具体的求め方について紹介します。これを理解しておけばオプションの取扱いがより容易になると考えます。
オプション価格の計算原理

資産価格は、その資産の価値を評価することによって計算されます。資産価値とは、資産を持つことで得られる利益を意味します。ドルコール・オプションのような通貨オプションも、あるいは株式についてのオプションも、やはり資産の一種ですから、それを保有することで得られる利益を計算すれば、それがそのオプションの価格となります。
オプションを保有することで得られる利益については、すでにオプションの損益図でみました。これを基本に考えればいいことになります。
通貨オプションのプレミアム計算
Step1. 「3ケ月後の円相場の予想」を示すグラフを描きます。
・ このモデルは、円相場は1ケ月の間に1/3ずつの確率で
① 5円だけ円高になる。
② そのままの相場を維持する。
③ 5円だけ円安になると
想定しています。
・ 1ドル=100円から始めれば、1ケ月後には1/3ずつの確率で、95円か、100円か、
105円になります。3個の丸印ができます。
・ 2ケ月後にはそれぞれの場合でさらに1/3ずつの確率で5円の円高か、そのままか、
5円の円安が生じるので、90円から110円までの円相場が予想されます。丸印は全部
で9個となり、1個は1/9の確率を意味します。2ケ月後では、現在の円相場である
100円を中心に山形の分布を描きます。
・ そこから、さらに3ケ月後まで予想して行くと、2ケ月後予想の「丸」印ひとつひと
つについて、また3つの可能性があることになるので、9個の3倍の27個の「丸」印
で確率が示されることになります。
・ その様にして1ケ月後、2ケ月後、3ケ月後の3つの円相場の予想をグラフにしたの
が、この図です。
・ このグラフは、確率分布と呼ばれるものです。グラフの横軸が円相場を示すのに対し
て、グラフの縦軸が「その相場が生じる確率」を示します。
・ 1ケ月後は丸印が3つで、どの相場も1つの丸印なので、1/3=33%、
・ 2ケ月後は1つの丸印は1/9=11%。100円は3つで33%、95円、105円は2つで
22%、90円、110円は1つで11%。
・ 3ケ月後の丸印は27個で1/27=4%。100円は7ケで24%、95円、105円は6ケで22%
となっています。
・ この予想に基づいて、権利行使価格が1ドル=100円で、満期日が3ケ月後の「ドルコ
ール・オプション」のプレミアムを計算しなさい。なお、現在の直物円相場は1ドル=
100円、ドルの金利は4%、円の金利は0%で、そのため、受渡日が3ケ月後の先物円相
場は、直物円相場より1円高であり、プレミアムは1ドルにつき何円かを、少数点第2位
を四捨五入して求めるものとします。
''Step2. 次に、オプション取引の基本パターンから、対象とするものを選びます。今回
はドルコール・オプションです。''
Step3. 作図します。
Step4. 金利の影響を計算する。
・ オプションを行使することで得られる利益は、将来の利益ですから、現在価値に割り
引いて評価する必要があります。
・ これは、金利で割引くのが一般的です。ドルコール・オプションでは、2ケ月後にドル
を買う訳ですから、それまで円は手元にあり、2ケ月間の金利分で、オプション価格に
も2ケ月分の金利分がオンされているとみなし、現在に割引きします。
・ すなわち、オプション価格が4.0円と計算されていた場合には、これを円の金利分だけ
割引けば良いのです。
・ それには、円高であるから、現在価値はオプション価格に金利分の半分を足し込む必要
があります。
・ ドルプット・オプションでは、2ケ月後にドルを売るから、その時に円が手に入る。
しかし、その時には円高なので、オプション価を現在価値に戻すと、オプション価値に
金利差の半分を足し込んでやる必要があります。半分の意味は、銀行サイドのヘッジを
勘案していることになります。
・ 先物は将来の取引きなので、期日までに金が増えるか減るかを考え、割り戻すことにな
ります。
貿易による為替リスクを通貨オプションで回避しようとする企業や、株式オプションで資産を増やそうとする個人など、一般的な企業や個人がオプションの価格を計算する場合には、パソコンを使ってブラック=ショールズ・モデルで計算するよりも、むしろ、四則演算だけでおおまかに計算した方が、ずっと実用的だと、吉本氏は主張されていますが、皆さんはどう思われますか。