金融工学への誘い(その5)…オプションの世界を変えたブラックショールズ

 ブラックショールズ・モデルは、フィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズの2人によって与えられました。その公式はそれを検証したロバート・マートンによってブラック・ショールズ公式と命名されました。ブラックは1995年に他界しましたが、ショールズとマートンはこの公式によって1997年にノーベル経済学賞を受賞しました。

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 金融取引にはデリバティブと呼ばれているタイプの取引がありますが、ブラック・ショールズモデルは、そのデリバティブの中で最も難解と言われているオプション取引のために編み出された計算式なのです。

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 資産価格は、その資産の価値を評価することによって計算されます。資産価値とは、資産を持つことで得られる利益を意味します。ドルコール・オプションのような通貨オプションも、あるいは株式についてのオプションも、やはり資産の一種ですから、それを保有することで得られる利益を計算すれば、それがそのオプションの価格となります。

 オプションはある条件下で特定の期間内に資産を買う、あるいは売る権利を与える有価証券です。オプションは自由に加工がしやすく、自在に組合せできるため、複雑な金融取引を生み出しています。そして、群を抜いて難解とされているのがオプション価格の計算です。

 正規分布のグラフを利用して、オプションの価値を示すグラフと合わせて計算すれば、オプションの価格が計算できます。ただし、そのためには、オプションの価値のグラフを、連続して描かれた確率分布のグラフに応じて評価することが必要です。この難解な計算を一本の式でスマートに解くことに成功したのが、フィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズの二人で、その公式は、それを検証したロバート・マーロンによってブラック=ショールズ公式と命名されました。下にその計算式を示します。公式の背後にあるモデルも含めて、ブラック=ショールズ・モデルと呼ばれます。このモデルについて詳細を説明しているものまで出版さています。

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 ブラックは1995年に他界してしまいましたが、ショールズとマートンはこの公式によって1997年にノーベル経済学賞を受賞しました。それほど画期的な公式なのです。但し、通貨オプションの場合は、この公式はそのままでは使えず、修正を加えられた公式が用いられます。他にも修正された公式がいくつも発表されていますが、ほとんどがちょっとした修正ですので、それらを総称して、修正ブラック=ショールズ・モデルと呼ぶことが多いようです。

 ブラック=ショールズ・モデルを理解するのは大変です。確率分布にしたがって変動する資産価格について、微分方程式を使って計算しているため、高等数学が操れる人でないと、どこがどうしてオプションの価格計算になっているのか、まったくわからないからです。

 例えば、平均株価の変動については、傾きaの直線と、ウィナー過程に従っている時系列Z(t)に分解して計算に用いています。

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 しかし、この難解さの一方で、その内容が理解できなくても、関数電卓やポケット・コンピュータがあれば、意外と計算は手軽にできます。変数がやたらに多くあるようにみえますが、ポイントになるのはボラティリティと呼ばれる変数だけで、あとは取引の条件を示すものであったり、容易に計算できるものであったりします。そして、ボラティリティは、株価や円相場などの原資産価格の変動の激しさを示すもので、確率分布のばらつき具合を計る数値、いわゆる標準偏差のことです。なお、確率分布として正規分布を使うことの意味や、ボラティリティの意味については、以降で示します。

 ブラック=ショールズ・モデルの登場は、現実のオプション取引を拡大・発展させるうえで、大きな推進力となりました。そして、ブラック=ショールズ・モデルは、その難解さのために、デリバティブの難解さのシンボルとされ、また、公式とコンピュータさえ使えば、仕組みを理解しなくても計算ができるという手軽さのために、金融取引における金融工学とコンピュータの有効性を示すシンボルの1つとなっているように思われます。この計算式は、何か判らないけど、唱えると願いが叶う魔法の呪文として信じられ、それが組込まれたコンピュータは、オプションという魔術のような金融商品を自由自在に操るための魔法の杖として、大変に重宝されてきたのです。

 ブラック・ショールズモデルの解法は、大きく分けて次の2つのステップから成っています。
Step1, ブラック・ショールズの偏微分方程式を作る。
Step2. ブラック・ショールズの偏微分方程式を解く。

 この取扱いの詳細は、石村貞夫+石村園子著「ブラック・ショールズ微分方程式」に述べられています。私も一応は、読み解きました。

正規分布とボラティリティ

 オプション価格の計算をするとき、よく利用される確率分布は、正規分布と二項分布の2つです。円相場や株価などの原資産価格が、無限に細かな時間を単位として、無限に細かな幅で連続的に変化すると想定するモデルでは、その変化率は正規分布に従うと考えることが多く、一方で、1分毎に1銭刻みで変化するというように、離散的な変化を想定するモデルでは、その変化率は二項分布に従うと考えることが多いのです。前者の正規分布を使うモデルの代表がブラック=ショールズ・モデルです。(正確に言うと、対数正規分布が使われています)

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 正規分布を前提に、ボラティリティ(標準偏差)の具体的なイメージを説明します。ここでは、ボラティリティとは、予想される円相場変動の激しさを意味することにして、かなりおおまかな計算方法を説明します。

 もし誰かが、円相場の変動についてボラティリティがX%と予想しているのなら、円相場の変化率が年率でプラスX%とマイナスX%の間に収まる確率を68%(約7割)と予想していることになります。また、さらに2倍の範囲に円相場の変化率が収まる確率を95%と予想していることになります。例えば、現時点の円相場が1$=120円であるとして、「ボラティリティは15%と予想する」という人がいたら、120円の15%は18円ですから、約7割の確率で、1年後の円相場が120円プラス・マイナス18円、つまり1$=102円から138円の範囲に収まると予想しているのだということが分ります。

 オプション取引では、変動性(ボラティリティ)という他の商品にはない要素を取り入れた戦略を組めることが最大の魅力となっています。変動性という要素が加わることで、どのような相場展開にも対応できる戦略が組めるのですが、皆さんどう思いますか。



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