中小企業診断士の経験則(その5)…現金の出入りをみるキャッシュフロー会計

 企業会計の基本は
1) 貸借対照表
2) 損益計算表
3) キャッシフロー計算書
の3つだと言われています。

1)の貸借対照表は、営業年度が終わった時点で、その瞬間にどれだけの財産(資産)・
  借金(負債)・元手(資本)があるかを表します。
2)の損益計算書は、その営業年度内にどれだけの売上を上げ、いくらの経費を使って、ど
  れだけの利益を上げたかを表します。
3)のキャッシュフロー計算書は、その営業年度内にどれだけのキャッシュを回し、また
  キャッシュを調達して手元にいくら残っているという資金の流れと残を表します。

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 ここで紹介するキャッシュフロー計算書は、売上があっても入金されるまでは収入に計上されませんし、仕入れを行っても、支払うまでは支出に計上されません。文字通り現金主義によって作成される決算書がキャッシュフロー計算書です。

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 例えば、突然の不渡りや、突然の品質補償問題、自然災害による出費、等々に対応するためには、おカネのストックが必要です。これに対応できるかどうかは、キャッシュフローで見るしかありません。また、損益計算書には、実際に資金の伴わない費用、すなわち、非キャッシュ損益も計上され、その分利益とキャッシュの開きを大きくします。その代表格が「減価償却費」です。ですから、非キャッシュ損益が大きい時は、例え利益は少なくても資金的にはそれほど心配する必要はありません。キャッシュフロー計算書では、そうした会社の資金状況を把握することができます。つまり、利益でその年度の会社の業績や実態を的確に捉えると同時に、キャッシュフロー計算書によって資金の動きを見て行くことの重要性がますます高まっているわけです。

 一見、B/SやP/Lで利益がある様に見えても、本当に動かせるキャッシュがあるかどうかを見ることが重要です。事業計画の開始時は、消費税、固定資産税、法人税、減価償却費の払いがそれぞれ異なります。最も効率の高い手法を取ることが重要です。

 決算書でも歴史が新しいのがキャッシュフロー計算書(C/F)です。損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)よりも遅く、上場企業に2000年から義務付けられました。現金に焦点を絞り、1年間でどういう理由で、どのくらい増減したのかを示していて、家計簿に似ています。資金繰りにつながる現金の流れを追うことで、企業の真の実力を知ることができます。CFは現金の出入りを「営業・投資・財務」と3つに分類した上で、最終的に現金が増えたのか、減ったのかを記入しています。

 「営業CF」は、本業で稼いだ現金の増減を示します。製品の代金を現金で受け取ったときや、後払いで販売した代金を回収したときに増え、仕入れの代金を支払ったときや、従業員に給与を払ったときに減ります。

 将来の利益につながる活動に使った現金の増減を示すのが「投資CF」です。企業は通常成長のために設備投資やM&A(合併・買収)をします。工場建設や買収で現金を使った場合は減り、逆に有価証券など資産を切り売りした場合は増えます。

 「財務CF」は、市場や銀行との現金のやり取りを示します。株式を発行したり、銀行から融資を受けたときは増え、借金の返済や株式への配当をしたときは減ります。

 営業CFと投資CFを足したものが「フリーキャッシュフロー(純現金収支=FCF)」です。営業CFと投資CFは、ともに事業での資金の出入りなので、FCFがプラスなら事業活動でお金を生み出したことになります。FCFがプラスであれば、事業活動で生じた資金を返済や還元に使う余地が増えます。逆にマイナスであれば、事業で不足した資金を外部から調達することになります。

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 マイナスの状態が続くと、財務が悪化します。FCFがマイナスになった理由が、投資が一時的に大きくなったことなのか、本業からの儲けが少なくなっているのか、などの見極めも重要です。どの活動を通してお金が増減したかを知ることで、企業がどんな状況にあるかを把握できます。

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「安定型」

 現金の出入りで最も多いのが、本業で稼いだ資金で将来に向けた投資をし、さらに返済や還元に充てるタイプです。この「安定型」は上場企業の半数以上が該当します。2018年3月期の日立製作所は、鉄道システムなどが好調で、本業で7,000億円を超える資金を稼ぎ出しました。米国の空気圧縮機の会社を買収するなどしましたが、FCFは約2,500億円に達しました。その資金を使い、社債を償還し、配当金を支払いました。



「積極投資型」

 本業で稼いだ資金以上に将来に向けた投資をしているのが「積極投資型」で、上場企業の2割が該当します。2018年3月期のJR東海は東海道新幹線という安定した収入源がありますが、2027年の開通を目指すリニア中央新幹線での建設費用など約1兆6,000億円の投資をしています。

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「成長途上型」

 本業で稼げていませんが、将来に向けた投資を進めるのが「成長途上型」です。創業から間もなくこれから大きく成長することを目指している企業に多く、上場企業の1割弱に当りますが、メルカリの2018年6月期は増収でしたが、広告宣伝費などがかさみ、本業では30億円の資金が流出しました。上場の際の増資で500億円を調達するなど、資金を確保しました。




 キャッシュフロー経営の重要性が唱えられて(1996年)23年が経とうとしています。企業価値は、将来にその企業が獲得すると期待されるフリーキャッシュフローの現在価値に求められます。この様に現金の流れから事業の価値想像力を捉えることがキャッシュフロー経営のポイントと言われますが、皆さんはどう思われますか。



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