中小企業診断士の経験則(その6)…設備投資の経済計算

 設備投資の経済性を検討する場合、2つの状況を想定する必要があります。

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 1つは、新規に設備を導入する場合で、この場合には設備購入のための資金も大きくなりますので、設備導入による収益の向上がどの程度見込まれるのか、この辺の判断が重要となります。

 1つは、既に使用している機械を新しいものに置き換える場合で、この場合には旧機械は下取りがあり、これを投資に回すことができる点、および新機械導入でどの程度のコストダウンが見込めるのか、この辺の判断が重要となります。

 ただ、共通して言えることは、新規導入の場合は最終年度の除去損の扱い、取り換えの場合には取り換え時点での除去損の扱いです。すなわち、

(1) 除去損も資金流出が伴わない費用であるため、減価償却費と同じ扱いをしなければ 
  ならない点、および
(2) 除去損による節約分だけCFが増加する点

です。

1. 設備の新規導入ケース

 設備の新規導入の典型的な例題です。この手の問題は、設備の減価償却の計算を正しく行えるか、キャッシュフローの計算が正しく行えるか、がポイントとなります。

<前提条件>

 系列会社の製品輸送を主たる業務内容としているB運送会社は、このたび、グループ内のある企業から、販路拡張に伴う新地域への配送業務を引受けるかどうかを打診され、目下その諾否を検討しています。契約期間は、グループ全体の新しい物流システムが完成するまでの今後5年間であり、その間、運送代金として、毎年後、40,000万円営業収益を保証するとのことです。

 この業務を遂行するには、年度初めの現時点において、車両等の固定資産の購入に10,000万円の現金支出が必要であるほか、各年度において、営業収益の92%に相当する燃料費、人件費等の現金支出を伴う営業費用が新たに発生します。

 投資をした場合、取得する固定資産については、耐用年数を大蔵省令が定める5年とし、残存価格を取得原価の10%とする定額法による減価償却を行ないます。また、契約の終了時にこれを除却するものとし、安全性の観点から、除却資産の処分価値をゼロ予測しています。

 なお、当社は、いわゆる黒字企業であり、法人税等の利益課税率を、毎年、50%と想定しています。各年度の現金による営業収入、営業支出ならびに法人税等の支払いはすべて年度末に行われます。以上の条件のもとに、車両の新規導入の是非を検討して下さい。

<試 算>

 この種の問題を明瞭にするための常套手段は、<固定資産><営業収入><費用><税金>に分けて表示し、これらを活用して<Cash Flow>を図式化することです。CFを単に“税引前利益+減価償却費”と暗記しているだけでは、5年目の除去損が生じた年に対応できません。簡単に考えると、キャッシュフローとは実質的な資金流出入額なので、損益計算において資金の流入額(IN)と流出額(OUT)の差を計算すれば良いのです。

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<検討結果…回収期間の導出>

 Cash Flow の部分の計算を文章にて説明したもの以下となります。ポイントの1つは、初年度から4年度までと5年度はきっちりと分けて考えなければならない点です。すなわち、5年度は除去損が発生するため、後で税金と関与する税引前利益が減少する点です。但し、除去損も資㈮流出を伴わないので減価償却費と同じ扱いをされ、税引キャッシュフローも初年度~4年度と5年度では相違が出ます。また、税引き後キャッシュフローも初年度~4年度と5年度では異なります。投資の回収期間は、投資額を年間CFで割ることと、年間CFは1~5年の平均である点を注意する必要があります。

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<検討結果…採択か棄却かの判断>

 複利現価係数は、将来の額面価格を現在価値に換算するための係数であり、年金現価係数は、この複利現価係数を加算したものです。年金現価係数が使用できるのは、投資期間におけるCFが同額である場合のみであり、今回は5年度のCFが異なるのでそのまま使えません。正味現在価値は、設備によって将来得られるCFの現在価値の合計額と投資額との差額で、これがプラスになれば採算に合うことを意味します。プラスになるということは、設備投資を営業キャッシュフローの範囲内で実施しているということに他なりません。

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2. 設備取り替えのケース

<前提条件>

 事例は、中小製造業を経営するA氏が中小企業診断士であるB氏を訪問し、新鋭機械に取り替えるべきかどうかを相談している場面です。要は、先日A氏のところに機械のセールスマンが来て、現在使用している機械よりもはるかに性能の良い機械ができたので、取り替えたらどうかを勧めているわけです。

<試 算>

 今回も同様に問題を簡明にするために<旧機械><新機械><費用低減>に分けて題意を表したものです。この場合には、実質の投資額が一体いくらなのかを計算することが重要です。投資額というのは、投資することによって新たに必要となる現金支出額です。取り替え投資の場合、旧機械の処分価額があるので、この分だけ投資額は少なくなります。さらに、黒字企業の場合は、企業所得にかかる税支出への影響も考慮しなければいけません。今、処分損益が計算された年度に税支出への影響が生じると仮定します。旧機械を処分すると、この旧機械の帳簿価額と処分価額の差額だけ処分損益が出ます。いま仮に処分損が出たとし、そして法人税等の所得割の税率を50%としますと、結局この処分損の50%分だけ税金が少なくなり、したがって現金支出がそれたけ少なくなるので、この節税約額を投資額から控除します。処分益が出た場合には逆になります。

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<検討結果…キャッシュフロー計算>

 新機械を据え付けることによって新たにもたらされるキャッシュフローの額は、旧機械を使用した場合のキャッシュフローと新機械を使用した場合のキャッシュフローを比較し、後者が前者を超える額と考えられます。そこで、旧機械を使用し続けた場合と新機械を採用した場合の年々のキャッシュフローをそれぞれ計算してみます。キャッシュフローは税引後利益に減価償却費を加算することによって求めることにします。年々の収益の額は、新機械を採用しても変化ありませんので、これをSとします。また、旧機械を使用した場合の減価償却費以外の年々の費用をEとします。新機械の減価償却費の計算方法としては定額法を用いるとしますと、次の様な略式の計算ができます。

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<検討結果…判断>

 正味現在価値法というのは、設備投資によって得られるであろうキャッシュフロー(その設備投資によって得られる現金流入額)の現在価値から、投資額の現在価値を差し引き、これを正味現在価値と言いますが、それがプラスになれば採算上可決、マイナスならば否決する方法である。キャッシュフローは、自己資金量を表す健全性の指標です。従って、以下の様に駆使します。

① 会計上のキャッシュフロー決算書では、完全な現金の流出量を計算します。
② 株式市場関係者の間では、
  キャッシュフロー=税引後利益+減価償却費-(配当金+役員賞与)
③ 設備投資の経済性計算では、
  キャッシュフロー=税引後利益+減価償却費

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 設備投資が絡む相談案件は、これまでに幾つかありましたが、いつも今回紹介した方法で検討を加えてきました。結構上手く行ったと思いますので、皆さんも是非試して下さい。



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