学習教室講師の世界(その7)…中学生に天体を教える難しさ

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 2008年にサラリーマン生活を引退した後は、中小企業診断士の資格を活かして、本業としての大学と銀行に拠点を置くコーディネーター業を始めていましたが、一方で半ば副業の様な形で妻の塾で数学と理科の講師を勤めながら塾を支えて来ました。今年2018年(平成30年)で、塾講師も10年選手になります。現在は、中学受験コース、高校受験コース、大学受験コースの数学、理科を担当しています。

 塾で中学3年生を教えていていつも不思議に思うことの1つに、なぜ高校受験の間際になって天体の授業が始まるのかという点です。ひどい学校では受験の年の秋口になってから始まります。

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 天体を理解するには、太陽・地球・月・星座の動きの相互関係をきっちりと掴んでおかないと、問題がスムーズに解けません。基本的な問題の1つですが、中々理解してもらえないものに、地球の自転と公転の関係があります。公転・自転を各々話する場合には何等問題はないのですが、両方を一緒に考えると、ほとんどの生徒は頭の中が混乱してきます。幾つか例を挙げます。



地球の公転と自転を組合せた問題

質問1 
 図は、6月から10月の同じ日付、同じ時刻に、さそり座を観測して位置を記録したものである。8月にさそり座は方位Aの真上に見られた。
さそり座が同じ位置に見える時刻は、1ケ月経つごとに何時間早くなるか、または遅くなるか。

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解答 
 地球の公転、自転ともに反時計周りであることをまず確認します。
地球を中心に考えると、図の様に地球は公転で360°/12ケ月=30°/月 づつ右回りに進みます。すなわち、公転で1ケ月に30°づつ先に進むわけです。

 一方、地球は自転で360°/時間=15°/時間 ずつ進みます。すなわち、自転で1時間に15°づつ先に進む訳です。公転で、8月から9月へと1ケ月(30°)経つことで、A地点の南の空に見える星の時刻は、8時から6時へと2時間づつ(30°)早くなります。A地点で8月は8時であれば、9月は6時となる訳です。

質問2
 ある日の午後8時に、オリオン座が真南の空に見えました。

(1) この日の2ケ月後の午後8時に、オリオン座は真南の空には見られませんでした。
  どの方角の空に見られますか。
(2) この日の2ケ月後にオリオン座が真南の空にあるのは、何時頃ですか。

解答 
(1) ある日の午後8時に、オリオン座が真南の空にあり、この日の2ケ月後の午後8時には
  どの方角に見えるかを問う問題です。
  ・ 地球の公転を考えます。360°÷12ケ月=30°/月 ⇒ 1ケ月で30°
  ・ 2ケ月=30°/月×2=60°
  ・ 下図より南西の方角に見えます。

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(2) この日の2ケ月後にオリオン座が真南の空にあるのは、何時頃かを考える際には、
  公転の問題と自転の問題が重なり合います。
  ・ 地球の自転は360°÷24時間=15°/時間 ⇒ 2時間で30°
  ・ 60°÷15°/時間=4時間
  ・ PM8時-4時間=PM4時

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質問3
 図は、8月15日の22時のカシオペア座と北極星の位置関係を示したものです。

(1) このあとでカシオペア座が初めて図のウの位置に来るのは、8月何日の何時頃ですか。
(2) 半年後の2月15日の22時には、カシオペア座はどの位置に見えますか。

解答 
(1) これはカシオペア座の地球自転による動きを問う問題です。
  ・ 地球の自転を考えます。360°÷24時間=15°/時間 ⇒ 2時間で30°
  ・ ウの位置は角度にして270°。
  ・ 270°÷15°/時間=18時間後
  ・ 現在 2月15日の22時。2月16日0時まで2時間。残り16時間。
  ・ ウは2月16日の16時。午後4時。

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(2) これはカシオペア座の地球公転による動きを問う問題です。
  ・ 地球の公転を考えます。360°÷12ケ月=30°/月 ⇒ 1ケ月で30°
  ・ 半年後は半年後は6ケ月
  ・ 30°/月×6ケ月=180°
  ・ 従ってイの真南

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月と金星と地球を合わせた問題

質問 
 図1は、10月のある日に観察した月と金星を示したものである。また、図2は、太陽と地球、金星の公転軌道と月の公転軌道を模式的に表したものである。
(1) この日に見えた月は、新月からおよそ何日目の月か。
(2) この日の月と金星の位置は、およそどのあたりか。図2に○で示しなさい。
(3) 次の日の同じ時刻に同じ方角の空を観察すると、月と金星の位置はどのように変化
  するか。簡単に書きなさい。

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 月については、次のステップで話を進める必要があります。

Step1. 太陽光が来る方向により、地球から月がどの様に見えるかということをまず
    理解します。月の形状は1ケ月かけて元に戻ります。

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Step2. 次に月の見える時間帯が、月の形によって異なることを理解します。

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解答 
(1) Step1に示した図を参照すると、図1の月は新月から27日頃の月だと分ります。
(2) 図1のように見えるには図2の○印の位置に月と金星があると考えられます。
(3) 次の日の月の見える時間帯はStep2を参照すると下図の様になり、月の位置は
  低くなります。

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和歌や俳句と関連した問題

 一方、天体は人の心を和らげてくれるような場面があります。太陽や月、星などの天体は、昔から暮らしに身近なものであり、これらを題材にした多くの和歌や俳句が残されています。

ほととぎす なきつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる(後徳大寺左大臣)

質問 
 「有明の月」とは、夜が明けてもなお見える月という意味です。ある日の夜明けごろに月をさがしたところ、東の空に見えました。この月が南中したときの形はどれでしょうか。

解答 

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 夜明けごろに東の空に月が見えたということは、月の東側に太陽があり、昇って来ているということです。太陽に近い位置にある月の形は、左側が細く光っている月となります。横に寝た形ですが、南中したときは立ってきます。月の東側に太陽があり、昇って来ていることから、時間としては6時前後、従って、南中は10時頃と考えられ、27日の月(南中9時)よりももっと遅い29日頃の細い月(南中10時)と考えるのがよいでしょう。

菜の花や 月は東に 日は西に (与謝蕪村)

質問 
「月は東に日は西に」とあるときのようすを説明しなさい。

解答 

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 月が東、太陽が西にあることから、この句は夕方の情景であり、このときに見えた月の形は満月に近いものであったと考えられます。太陽が西にあるので、夕方です。また、夕方東に見えた月は、夜中に南中します。夜中に南中するのは満月に近い形です。また、太陽と反対の方向にあることから、太陽とはなれているので、欠けのない形の月、すなわち満月に近い形と考えることもできます。満月は、夕方の6時には東の空にあり、真夜中の12時には南中します。一方、夕方6時には太陽は西の空に沈みつつあります。

 天体は小学生、中学生にとっては夢のある世界であり、興味を持って勉強してもらいたい分野です。しかし、取っ付きにくいようでは折角の興味が無くなってしまいます。教え方に一工夫必要かと思いますが皆さんどう思われますか。



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