学習教室講師の世界(その12)…数学の力で世界を変える
人工知能(AI:Artificial Intelligence)とは、「学習・推論・判断」といった人間の知能のもつ機能を備えたコンピュータシステム」と説明されています。
AIにも歴史がありまして、第1期(1950年代)、第2期(1980年代)、第3期(2020年代)の3つに大別して見て行く必要があります。
第1期(1950年代)
初期のAIは、計算機の高速演算機能を活かしてあらゆる可能性を調べることで最適解を見つけることでした。例えば将棋でいえば全ての局面を考える事で、最善手を考えることはできましたが、難しい問題に適用できないことが多くありました。
数学的には、人がfの部分を作り込むことを行なっていました。
第2期(1980年代)
エキスパートシステムと呼ばれ、専門家の知識をルールとして取り込むことで、現実的な問題にも対処できるようになりました。ただ、これは過去の経験からこれまでの事象の最適はこれだったと証明できても、新しいものを創り出すことはできませんでした。
数学的には、fは適切なルールを選択して動作します。1つそこに与えるルールを作り込むことになります。
第3期(2010年代)
ディープラーニング(機械学習)を行なうことで、多量のデータを計算機自身に分析(学習)させることで、人を超える能力を獲得しました。まさに新たな時代へ突入しました。画像認識においてディープラーニングの導入により、大きな性能向上がもたらされ、2015年には人を超える性能を示すようになりました。
数学的には、機械学習というのは、多量の(x, y)の組を与えると、計算機もそれらをできるだけ満たすようにfを決めるというものです。但し、与えるデータが適切でないとうまく行きません。
私がAIを知ったのは1980年代で、AIがエキスパートシステムと呼ばれていた頃です。当時D社研究所に勤務していて、BASIC言語を用いてこのエキスパートシステム作り上げ、研究データ処理効率の向上を図っていました。要は面倒で時間のかかる仕事はAIにまかせていたわけです。
その当時のAIに対する印象ですが、こちらがやってほしい仕事は確実にこなしてくれるが、AI自ら創作活動を行うということはあり得ませんでした。しかし、2010年代入ると、AIがディープラーニングをやることで、人の能力を越すようになっていきました。Alpha GOやWATSONが人間を下して毎日の様に新聞やテレビに登場していたものです。
ここからは、現実の世界でAIをうまくビジネスとして使いこなしている企業「(株)アリスマー」を紹介します。日経新聞2019.12.29日版の“Hot Story”の欄に掲載された「数学の力で世界を変える…東大発ベンチャー」についての記事です。読んでいてグイグイと引き込まれる内容でしたので、以下その概要を示したいと思います。
大田佳宏社長は東京大学の数学科出身です。日立製作所や日本IBMの研究所を経て東大に戻り、2016年にアリスマーを創業しました。東大発のベンチャー企業は役360社ありますが、数学ベンチャーを名乗るのはアリスマー唯一です。現在の社員数は100人強ですが、21人は博士号を持ち、大学院修士修了が43人です。
「これから世界を変え日本を支えていくのは数学に基盤を置く企業だ」と、大田社長は話しています。同社は人工知能(AI)技術を利用した画像認識や自然言語処理、ビッグデータ解析などを通じ、企業のサービスや生産性向上に役立つソフトウェアなどを開発しています。大田社長は東京大学で教べんをとる特任教授で、社内に数学や物理学の博士を多く抱えています。現実社会のニーズと数学を結びつけ、稼げるビジネスとアカデミックな数学研究を両立させるのが夢だと言います。
開発したソフトウェアの中には、紳士服大手のコナカと共同開発した「AI画像採寸アプリ」があります。体の前後左右からスマートフォンで撮影した4枚の画像をもとに肩幅や胴回りなどオーダーメードのスーツに必要な採寸が正確にできるというサービスです。普段着のまま撮れば良いというのがポイントです。
コナカとのAI画像採寸が成功した背景には「熟練テイラーが測った質の高いデータがある。」と大田社長は断言します。AIの性能を決めるのはデータとアルゴリズム(データ処理手法)です。日本企業は各事業分野で質の高いデータを持つといわれます。質の高いデータを活かせば、グーグルなど巨大プラットフォーム企業に勝てる世界があります。「日本発の技術で世界のB to Bビジネスを獲得し勝ち抜いていきたい」と大田社長は話しています。
「人間は五感に基づく経験から判断しますが、五感だけでは理解が及ばない世界があります。そうした世界を切り開くツールが数学です」と大田社長は言います。ミクロの原子や遺伝子の世界、あるいは巨大なデータが織りなす情報空間。人間の経験則が及ばない世界を相手にするとき、数学と数学世界を可視化できるコンピュータ技術が力を発揮するのです。
アリスマーは2018年9月に豊田通商と資本業務提携しました。豊田通商関連企業の工場でAIによる品質検査を行うため技術開発を進めています。熟練の検査担当者不足に対応しコスト低減や安全性向上につなげる狙いです。
三井住友海上火災保険とは事故車両の様子をスマホで撮影して保険見積書を作成するアプリを共同開発しました。AIが自動的に画像を認識し、手入力による作成の手間を大きく省きまし。金融から製造業、電力、医療など30~40社からシステムやソフトウェア開発を受注しています。日本経済新聞社がまとめた「NEXTユニコーン調査」によると企業価値は160億円、1年間で3倍に増えたそうです。
私自身も、HS社へのコンサルティングの中で、AIを活用して熟練者の有するノウハウをマニュアルに落とし込み、それを見える化することを提案しました。皆さんどう思われますか。