孫正義の投資戦略(その1)…事業会社から投資会社に変貌するSBG

 1981年、ソフトウェアの流通業としてスタートを切ったソフトバンクはその後、出版、展示会、インターネット、ブロードバンドのインフラ、携帯電話と次々と本業を変えていきました。その都度、ソフトバンクはその先行きを危ぶまれてきましたが、孫正義氏の天才的な勝負勘で業容を拡大し、いまや日本を代表する巨大企業に成長しました。現時点で資本金2400億円、従業員192人、1750社を傘下に置く純持ち株会社となりました。

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 ソフトバンクは、もともとは通信事業を営む会社でした。しかし、現在はソフトバンクGという戦略的持株会社を形成して投資事業に注力をするようになってきました。通信事業か投資事業かどちらが本業かわからないぐらいまでになって来ています。これまでのソフトバンクの歩みをまとめたものが下表です。

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 特に、1996年街頭でADSLモデムを無料で配布して手にしたYahoo!BBの買収、2006年1.7兆円もの巨額を投入したイギリスのボーダフォン日本法人の買収、この様に携帯電話事業へ孫氏は次々と「大バクチ」に勝ってきました。さらに携帯電話事業では、アップルのスティーブ・ジョブ氏との人脈を生かしてi-phoneを逸早く導入することに成功し、ドコモやauに差をつけたことは、孫氏の人脈と事業家としての実力を強く印象づけるものでした。

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 こうして見てみると、孫氏は実に積極的にM&A(企業の買収と合併)を仕掛けていることがわかります。つまり、孫氏には以前から「投資家」としての顔がありました。なかでも大きな成功例はアリババです。アリババに2000万ドル=約20億円を出資し、後に10兆円を超える含み益(5,000倍)へと繋がりました。これが現在のソフトバンクグループの財務を支え、「孫正義神話」のもとになっています。もちろん、孫氏自身も、自らの「眼力」に自信を深めているはずです。

 一方、事業化としての手腕には、近年、影が差していると言われています。2013年に1兆8000億円を投資し、アメリカのスプリントを買収した際の記者会見では、「情報通信革命を起こす」「ATTを抜いて、いずれ世界一になる」と言っていました。ソフトバンクの有利子負債は、この頃から図に示す様に急激に増えていきます。その後、イギリスのアーム買収に3兆3000億円を使い、さらに増えました。これらの資金を用意したのは、みずほ銀行です。現在の有利子負債はざっと見積もっても18兆円を超えるほどになっています。

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 しかもその後スプリントの経営状態が上向かないと、アメリカ第3位の携帯電話会社Tモバイルにスプリントを売却することを模索するようになり、いまではすっかり「スプリントを世界一の携帯電話会社にする」という公約は過去のものになりました。最近ではスプリントとTモバイルの合併に奔走しています。この「スプリントの失敗」のころから、孫氏は事業の再建よりも、投資家としての活動にはっきり軸足を移すようになって行きます。

 最近のコロナ禍の悪影響が広がる中、2020年4月14日の日経新聞が、「ソフトバンクG  7500億円赤字」の記事を流しました。SBGは4月13日、2020年3月期の最終損益が7500億円の赤字(前の期は1兆4111億円の黒字)になった模様だと発表しました。約10兆円を運用する「ビジョン・ファンド」の投資先の企業評価を引き下げ損失が膨らみました。3月下旬に経営破綻した英衛星通信ワンウェブなど、本体での投資でも多額の損失が発生しています。SBGは人工知能(AI)の技術に優れた企業など新興企業に投資し、ベンチャーブームのなかで業績が急拡大してきました。ところが、新興企業の収益力に不安が高まって価値の見直しを迫られ、さらに2020年3月半ばから感染が拡大した新型コロナウィルスによる需要の蒸発が新興企業でも生じています。

 特にファンド事業では、約1兆8000億円の投資損失を計上する見込みとなりました。この中には、投資先のインドの格安ホテル大手OYO(オヨ)ホテルズアンドホームズなどの業績が悪化した案件や、米シェアオフィスのウィーカンパニーでのオフィス利用が減っている案件が含まれています。結果、2020年3月期通期の営業損益は1兆3500億円の赤字(前の期は2兆3539億円の黒字)となりました。

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 特に、2020年1~3月期では1兆2265億円の最終赤字となったもようです。日本企業の四半期の赤字額としては、東日本大震災時の東京電力ホールディングス(2011年1~3月期、1兆3872億円の赤字)に次ぐ歴代2位の規模となりました。

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 2020年4月14日の赤字決算発表後、2020年5月18日には、SBGは保有する中国のアリババ集団の株式で1.25兆円の現金を調達したと発表しました。新型コロナウィルスの感染拡大による株価急落と財務悪化に対応するため、4.5兆円の資金を創出する一環です。

当面の資金繰りに問題はないとみられますが、力を入れてきた成長が見込める未上場企業などに投資するファンドビジネスでは投資先企業の価値が急減しているのが気になります。

 「現金を手元に持つため、資産を切り売りする」と2020年5月18日の会見で孫正義会長兼社長は危機対応を優先する考えを示しました。巨額の含み益があるアリババ株は金融派生商品(デリバティブ)を活用して価格変動リスクを抑えつつ一部を現金化した様です。今後は国内通信子会社ソフトバンクや旧スプリントと合併したTモバイルUSなどを売却対象として検討している模様です。5月18日の記者会見では「色々な選択肢を持ってやっていきたい」と語るにとどめました。

 過去の危機と比べ「世界的危機だが、4.5兆円の現金が確実に入るような状態だ」と足元でも28.5兆円分の価値がある株式を持ち、資金面の不安はないと強調しました。調達資金は約2.5兆円の自社株買いや2兆円の負債削減に充てる予定とのことです。

 2020年1~3月期の連結最終損益(国際会計基準)が1兆4381億円の赤字に転落したことで、孫氏は「今期はコロナ危機の中でより安全運転をする。ゼロ配当もあり得る」と説明するなど、これまでにない守りの姿勢を鮮明にしています。皆さんどう思われますか。



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