孫正義の投資戦略(その4)…孫正義の「10兆円ファンド」の挑戦

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 2020年3月に黒川敦彦著「ソフトバンク崩壊の恐怖と農中・ゆうちょに迫る金融危機」が講談社から出版されました。現在、私もソフトバンクを追っ掛けていましたので、他人はどんな視点からソフトバンクを見ているのか興味が湧き、早速購入して読みました。

 今回のブログでは、黒川氏のソフトバンクに対する批判を中心に紹介します。なぜ彼がソフトバンクを敵視しているかの様にこき下ろしているかは分かりませんが、その筆舌には厳しいものを感じます。


 ビジョン・ファンド1号は2017年の立ち上げ以来順調に規模を拡大し、2019年夏にSBGは第2号ファンドを設けると発表しました。しかし、同年秋にシェアオフィス「ウィーワーク」運営のウィーカンパニーのずさんな経営が顕在化しました。また、ウーバーテクノロジーなど上場を果たした出資先も株価低迷が続き、SBGは巨額損失の計上を迫られています。

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10兆円ファンドとムハンマド皇太子

 SBGの分岐点と言えるのは、2017年5月です。サウジアラビアのムハンマド皇太子の出資を受け、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド1号」を設立したのです。

 このソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)は970億ドル=約10兆円という空前の規模で、上場はせず、非公開市場での資金調達となりました。SBGは281億ドル=3兆円、ムハンマド皇太子は450億ドル=4兆8500億円を出資しています。しかも、サウジの出資の相当部分は7%もの超高率の利回りを保証されています。

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 ビジョン・ファンドへの出資には、400億ドルの「優先出資」と、586億ドル「普通出資」があります。この優先出資は7%の定率分配とされており、ムハンマド皇太子が出資した450億ドルは、この定率分配と成果型の「ハイブリッド」とされています。つまり出資したうちのかなりの部分は7%の利回りを保証されている、ということです。仮に優先出資が200億ドルとしても、1年に1500億円もの「利回り確定保証」です。超低金利時代のいま、世界中どこを探してもこれほどおいしい投資はありません。

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 結局のところ、孫氏にとってムハンマド皇太子とサウジアラビアの出資は、「見せ金」だったとも言われています。世界有数の富豪であるムハンマド皇太子が出資するのだから、世界でもっとも素晴らしいファンドであるに違いないと信じ込ませるためです。もちろんそれだけのカネを出させる以上、自らの資金も出さざるを得ません。SBGは3兆円を出資し、それによってグループの有利子負債は18兆円を超えました。孫氏が「世界一の借金王」と言われる所以です。

 この18兆円は、みずほ銀行(前身:第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行)からの借入に加え、1~3%という破格の利率をつけて売りまくった社債によって、構成されています。ムハンマド皇太子に約束した7%よりは低いですが、それでも十分に高い金利です。つまり、孫氏は今後、毎年数千億円の利息を返済しつづけなければいけないのです。

 ビジョン・ファンドは初年度、45%ものリターンをあげたとしています。しかし、このリターンは、会計上の利益で、実際にビジョン・ファンドに大きな収入があったわけではありません。ビジョン・ファンドの投資先は、ほとんどが未上場で、その株価は確定しておらず、「仮に上場すればこのくらいの株価が見込まれる」という評価益に過ぎません。それがいかにいい加減なものか、5兆円の評価が一挙に9000億円以下になったウィーの例をあげれば十分でしょう。

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 ビジョン・ファンドの先行きが危ないというもっとも大きな証左は、当のムハンマド皇太子です。孫氏はビジョン・ファンドに続く第2号ファンド=デルタ・ファンドを速やかに立ち上げると公言していましたが、その発言から1年半が経った2020年2月の決算発表で、孫社長は「今回はいったん規模を縮小してやろうと思っています」と説明しました。内外に広く声をかけたにもかかわらず、期待外れの額しか集まらなかったようです。情報では、応募額約11兆7500億に対し、わずか2000億円程度の資金しか集まりませんでした。SBG自身が数兆円を出資してファンドの体裁を整える方向のようですが、「規模の縮小」は免れません。そして、肝心のムハンマド皇太子が、2号ファンドへの出資を断ったという情報があります。もし、ビジョン・ファンドが大きな成功を収めたと認識していれば、石油に代わる収入源を必死になって模索している皇太子が出資を断ることは絶対になかったでしょう。

 とにかくムハンマド皇太子と組んだことで、孫氏は「将来性の高いスタートアップ企業をいち早く見抜くベンチャー投資家」として世界的に知られる存在となりましたが、裏を返せばそこまでの条件を提示しないとサウジの資金を引き出せなかったということです。「AIで世界を変えて人類を幸福に」そう大きく掲げ、世界中のスタートアップ企業に対して投資活動を開始しました。

 ビジョン・ファンドの投資手法の一端が報じられています。東南アジアなど、人口が増えることが見込まれている新興国で、将来有望なスタートアップ企業を見つけると、1億ドル(約108億円)規模の巨額の出資を申し出ます。出資するということはその会社の株式を握るということで、ビジョン・ファンドは数年先の上場時にその株を売れば、巨額の利益を得ることができるわけです。

 仮に出資の要請を受けた企業の側が経営へのSBGの関与を嫌い、出資を断ると、「それなら同業の他の企業に出資する」と言われるそうです。ほとんどのスタートアップ企業にとつて1億ドルもの資金は夢のような金額ですし、新興国ではそれだけの資金があれば設備投資や広告などで一挙に業界標準を握ってしまうことも可能です。仮に同業他社がその資金を握れば、ライバル社にとっては存亡の危機になります。「選択の余地」はないのです。

 ビジョン・ファンドの1件当たりの投資規模は最低でも1億ドル、場合によっては数10億~100億ドルの大型出資もあります。想定される上場時の時価総額が10億ドル(1000億円)以上の企業を「ユニコーン」と言っていますが、いまや孫氏は巨額の資金を流し込むことによって無理やりユニコーンを作り上げてしまっているのです。

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 2017年のビジョン・ファンド発足当時、この投資戦略は非常に有効で、巨額のリターンをもたらすと期待されていました。孫氏が、すぐさま「同じく10兆円規模の第2号ファンドを設立する」とぶち上げたのは自信の表れでしょう。「自分の情熱の97%をビジョン・ファンドに注いでいる」と発言したこともありました。ヤフーやソフトバンク、スプリントなどは部下に任せ、自分は投資に専念しているということです。2013年のときとは、すっかり様変わりしました。孫氏は「自分は事業家ではない、投資家だ」と言うのです。このころが、SBGのピークだったと言えるかもしりません。その後、事態は暗転しはじめます。

 結果、2号ファンドには、SBGが380億ドル投資すると表明したほか、三菱UFJ、みずほ銀行、三井住友銀行、大和証券、第一生命保険などが出資に合意したとされています。しかし、それぞれの出資額は数10億円規模のようで、ムハンマド皇太子の5兆円とは比べようもないくらいの少額です。

 以前事ある毎にテレビに登場して、自分は一流投資家であることを豪語していましたが、最近はその影はひそめ、赤字の釈明に追われています。すべて想定範囲内のできごとであると、言っていますが、本当でしょうか、皆さんどう思われますか。

 



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