孫正義の投資戦略(その6)…SBGの「クジラ」的行動で広がる影

 孫正義が率いるSBGは、
・ 1981年パーソナルコンピュータ用パッケージソフトの流通業を開始しました。
・ 1996年にYahoo!BBの買収、2006年の日本ボーダフォンを買収し、自ら経営するソフトバンク㈱を核として携帯電話事業へと進出しました。
・ 2013年にアメリカのスプリントを買収、2016年にイギリスのアーム社の買収し、2015年にはSBGを形成し、投資会社へと変貌して行きます。
・ 2017年5月には「10兆円ビジョンファンド」を立ち上げました。
・ 2019年7月に、「2号ビジョンファンド」を立ち上げるまでになりました。

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 ところが、2020年に入ると、投資先企業の不祥事や事業の不良問題が出てきたと同時に、コロナ禍で大きく事業戦略を見直さざるを得なくなりました。SBGは守りの戦略に入り、2020年はT-モバイルを売り、アーム株を売却、アリババやSB株の部分売却などで4.5兆円の現金を調達して、この苦境を乗り切ろうとしています。

 この中、SBGが数百億円規模のデリバティブ取引を手がけたことが、2020年9月9日版の日経新聞に報じられました。

 令和2年9月9日の日経新聞のスクランブルへの掲載記事を見てみますと、日本の個人投資家が米国株式市場に現れた「クジラ」の影に身構えているというものです。孫正義氏が率いるSBGが想定元本ベースで数兆円規模のデリバティブ取引を手がけていたと報じられました。足元で米ハイテク株が乱高下した一因とされています。日本の個人は投資信託や直接投資で米国株に傾注してきただけに、SBGの取引きをめぐって思惑が広がりやすいとしています。

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 「クジラ」とは、金融市場に豊富な資金量を有する機関投資家のことを指します。クジラの運用資産はケタ違いに大きく、金融市場を動かす力があります。その代表が、日本の公的年金を運用し世界最大の年金運用機関であるGPIF(Governmental Pension Investment Fund:年金積立金管理運用独立行政法人)です。日本の金融市場には「5頭のクジラ」がいると例えられています。GPIF、日本銀行、共済年金、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の5頭です。クジラの買い観測で市場の流れが変わることがあります。まさに日本の株式市場を支える存在です。

 コロナ・ショックの大底から過去最高値まで上げた米ハイテク株の足元の下げに「スピード調整」にとどまらない陰影を与えたのは、SBGの個別株オプション取引です。この数カ月で個別株オプションのコール(買う権利)を大がかりに買い建て、4000億円規模の含み益があるとされます。従って、今現在はSBGは手仕舞いの売りに出るのではないかと日本の個人投資家は考えているわけです。

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 コールオプションを買い建てるとは、相場が上がるのを見越して買う権利を手に入れることです。下図に示しますように現時点でプレミアムを支払い、1ケ月後に10,000円で買う権利(コール・オプション)を取得します。1ケ月後に権利を行使し、10,000円で購入し、この株をすぐに市場で時価の12,000円で売ります。すると12,000円-10,000円=2,000円の利益が得られます。オプション取引は、買う・売る権利を売買するわけで、行使を止めようと思えば、中止できる点がポイントです。そのために、行使放棄料としてオプションプレミアムが支払われているわけです。

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 ゴールドマン・サックスによりますと、過去2週間に取引された個別株のコールの想定元本は1日平均約3350億ドル(約35兆5千億円)と過去最大規模となりました。実態は不明ですが、SBGのコール買いはその1割程度に及んだ可能性があります。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など既知の「クジラ」に比べて資金規模は小さいのですが、レバレッジが効くため侮れないとのことです。

 ナスダック総合株価指数は8月も10%上げました。一部のハイテク株はファンダメンタルズで正当化しにくい水準まで買われており、その下落とともに現れた孫氏の「クジラ」には尾ひれがつきやくなっています。コール買いは強気ポジションですが、「孫氏の相場観次第で逆回転するのでは」との連想も働いています。

 米ハイテク株のコール取引は「ロビンフッダー」など米個人の少額取引に、SBGなどの大口取引が加わって急上昇しました。ゴールドマン・サックス証券のセールストレーダー、I氏は「米ハイテク株は乱高下が続くかもしれない」とみています。

 一方、個人向けオプション取引のeワラント証券では、売れ筋上位に日経平均の19000円のプット(売る権利)が顔を出すようになりました。T投資情報室長は「個人は弱気に傾いている」と話します。米スラック株を勧めるつもりで投信を解約されてしまった営業マンの見立ては、「今週の米市場が力強く反発しない限り、様子見ムードは晴れないだろう」というものです。

 因みに、プットオプションの購入についても簡単に説明します。現在相場は1000円です。1ケ月後に800円で売る権利(プットオプション)を、プレミアムを支払い購入します。1ケ月後に運よく800円に下落した時点で、権利を行使します。具体的には1000円で売って直ぐに市場で800円で買います。すると、1000円-800円=200円の利益が出ます。

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 SBGは現時点では守りの戦略に入ってると言われていますが、ただ黙っているのではなく、色々な手を打って来るといった感じがします。今回のデリバティブ取引は、悪あがきのようにも映りますが、皆さんはどう思われますか。

 



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