孫正義の投資戦略(その13)…保有資産の分散に動くSBG出口戦略

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 最近、ソフトバンクGの出口戦略としての財務上の動きが慌ただしいようです。

・ 2021年6月21日には、劣後債の発行が行われました。私のところにも取引のある岡三証券から「購入しませんか」との勧誘がありました。格付けはBBBと低くもちろん断りました。
・ 2021年9月8日の日経新聞には「SBG独テレコム株取得」の記事が載りました。
・ 2021年11月9日の日経新聞には、「SBG最終赤字3979億円」と同時に「自社株買い最大1兆円」の記事が載りました。

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 このように、劣後債発行、テレコム株買収、自社株買いと立て続けにお金の動きが激しくなっています、一体どうなっているのかを調べてみました。





劣後債発行 (2021.6.21)

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 企業が発行する社債の一種「劣後債」への関心が少しずつ高まっています。普通社債に比べて破綻した場合などで支払いが後回しになるため格付けが低い分、金利が高めに設定されているものが多いようです。返済で優先度の低い劣後債ではなく、追加で普通社債を発行することも考えられますが、なぜ普通社債ではだめで劣後債なのでしょうか。



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 実は、金利が高くても劣後債を発行した方が望ましいこともあるようです。通常、劣後債の発行は銀行による場合が多いようです。銀行の場合、自己資本比率を一定以上に保たなければならないとする規制があります。普通社債は自己資本の中に入れることはできませんが、劣後債の場合には自己資本の中に組み込むことができます。このように、劣後債を活用することで、増資をすることなく自己資本を増やせるといったメリットがあります。


 その中で、SBGが劣後債を発行する目的は何なのでしょうか。SBGのような銀行以外の事業会社においては、資金調達を行いたいが、負債の増額を抑えたい場合には、劣後債の発行を検討することになます。また、自己資本の増加につながることが、格付けに有利に働くこともあるようです。それにしても、今回の格付けBBBは余りに低いと思えます。

 今回SBGは劣後債を発行してでも現金を手にしたかったとみることができます。借入金の返済に回すのか、新しい投資案件に回すのか、株主の機嫌をとるためのものか、はつきりわかりませんが、とにかく急いで現金が欲しかったことの様です。

Tモバイル株対価に独テレコム買収 (2021.9.8)

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 ソフトバンクグループ(SBG)は、2021年9月7日、保有する米通信大手Tモバイル(旧スプリント)株の一部を対価に、独通信大手ドイツテレコム株式の4.5%取得すると発表しました。SBGは日米欧の通信会社に投資先を分散させ、傘下企業のグローバル展開を後押しすることが目的のようです。Tモバイルへの出資比率を下げ、出口戦略を進める意味合いもあるとのことです。

 SBGはドイツテレコムと戦略的パートナーシップ契約を結びました。SBGが保有するTモバイルの発行済株式約1億株のうち、約4,500万株をドイツテレコムに譲渡して、ドイツテレコムが新たに発行する同社株を取得します。これにより、SBGはドイツテレコムの大株主となり、役員を派遣する予定です。SBGはさらにTモバイル株2,000万株をドイツテレコムに売却して現金を受け取る計画です。一連の取引を通じてSBGのTモバイルへの出資比率は8.3%から3.3%に下がりました。

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 その結果、SBGは国内の通信子会社ソフトバンク株41%、ドイツテレコム株4.5%、Tモバイル株3.3%保有することになり、投資先の通信会社の地域分散が進みます。各社の顧客の合計は約3億人にのぼります。今回の提案で、SBGの傘下企業は3億人の顧客にアクセスできるようになり、欧州での事業展開の足掛かりにしてもらう考えです。

 一方、ドイツテレコムはSBGの投資先企業と連携することで、通信収入以外の収益機会を拡大したい考えです。ドイツ国内では信仰通信会社が高速通信規格「5G」の通信網を低コストで構築できる技術の採用を決めており、携帯料金の価格競争が激しくなるとみられていいます。SBG傘下のビジョン・ファンドは人口知能(AI)を活用した電子商取引(EC)、ロボット、金融、物流、エネルギーなどの世界のユニコーン(価値が10億ドル以上の未上場企業)に出資しています。欧州や米国で「共同投資や新サービスの拡大でもパートナーになる」とドイツテレコムは考えているようです。

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 SBGが保有するTモバイル株は2013年に買収した米通信会社スプリントに由来しています。SBGは最終赤字が続き「お荷物」となっていたスプリントをドイツテレコム傘下のTモバイルと統合させようと模索していましたが、2018年に経営統合で合意しました。その後当局の承認が滞り、2020年にようやく合併が実現しました。この間にSBGは投資会社としての色彩を強め、米通信事業は事業子会社から投資先の1つに位置づけが変わりました。

 ドイツテレコム側はSBGが持つTモバイル株の大部分について、あらかじめ決まった価格などで買う権利(オプション)を持っていました。オプションの行使期間は24年6月までしたが、SBGは今回の契約を結ぶことで、前倒しでTモバイル株を手放す「出口」を迎えることになります。オプションが付いていたTモバイル株と異なり、ドイツテレコム株を取得すれば、SBGは株式を担保にしたローンなどの資金調達がよりしやすくなる面もあります。Tモバイル株はオプションであらかじめ売却できる価格がある程度決まっていましたが、ドイツテレコム株については今後株価が上昇すれば、SBGはより多くの投資資金を確保できることになります。

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 7日午後にSBGがドイツテレコム株の取得を発表すると、SBGの株価は騰勢を強め、終値は前日比623円高の(9.9%)高の6943円になった。市場が評価するのは投資先企業を通じたドイツテレコムとの事業面での連携だけではない。今回の取引でSBGの投資余力が増すとみているのだ。SMBC日興証券のK氏は「資産の分配や現金確保がポジティブに受け止められた」と話しています。

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 SBGの保有資産の大部分はアリババ株で、ビジョン・ファンド投資先を含めると2021年6月時点で中国企業は半分程度に及ぶことになり、保有資産の分散が課題になっています。Tモバイル株を前倒しで資金化する選択肢を持つことで、ほかの企業への投資を一段と加速するとみられます。

自社株買い (2021.11.9)

 ソフトバンクグループ(SBG)は2021年11月8日、最大1兆円の自社株買いを実施すると発表しました。中国アリババ集団など保有株の価値を考慮すれば、足元の株価が大幅に割安であると判断した模様です。自己株式を除く発行済み株式の14.6%にあたる2億5000万株を上限に実施する予定で、期間は2021年11月9日から2022年11月8日まです。 SBGの自社株買いは2020年3月に資産売却と絡めて計2兆5000億円ぶんの取得を発表して以来、2年連続です。

 SBGによると、1株あたりの時価純資産(NAV)は1万2914円。一方、2021年11月8日終値は6161円と半分未満です。あくまでも財務規律を守り、成長に向けた投資機会も考慮しながら実施するといい、1兆円の上限に達しない可能性もあるとも付け加えました。

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 企業が発行済みの株式を買い戻すことを「自社株買い」と言います。配当と並ぶ企業の株主還元策になっています。市場に流通する株式数が減り、貸借対照表上では資本を減らすことにつながりますが、株式の需給が改善するほか、投資家が重視する1株利益や自己資本利益率(ROE)を高める効果があります。

 この様に、劣後債の発行や、手持ち資産の売却による現金化、さらには自社株買いなど、一連の財務的な行動は、経営上余裕がなくなってきている様に見えますが、みなさんどう思われますか。



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